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Rhizomatiks真鍋大度×MIKIKOによる「ライブパフォーマンス×テクノロジー」はいかに生まれたのか【後編】

エンターテインメントやアートの世界にも、テクノロジーが持ち込まれている。リオ2016大会閉会式の東京2020フラッグハンドオーバーセレモニーでは、ARとダンスが融合した表現、演出が披露され、世界の大きな話題をさらった。
その最新テクノロジーを駆使したフィールドのAR演出・映像表現を担当したのがRhizomatiks Researchのアーティスト、真鍋大度氏。そして総合演出・演舞振り付けを担当したMIKIKO氏だ。それらの新しい表現はどのようにして生まれたのか──。

Rhizomatiks真鍋大度×MIKIKOによる「ライブパフォーマンス×テクノロジー」

作品のネタはどのようにして湧いてくるのか

西村:チャレンジしたいと思うようなネタはどこから湧いてくるのでしょうか。

真鍋:例えば「border」では、WHILLと共同開発した台車を使いました。これはハードチームの研究開発内容と興味を把握しつつ、花井を中心に研究開発していた新しいMRコンテンツを組み合わせた上での、新作のアイデアでした。MIKIKOさんやELEVENPLAYと新作を作る際は、みんながネタを持ち寄るネタ出し合い会をスタジオで実施することもあります。

border

その時々のアイデアが少しずつ形になっていくという感じです。最初に決めたアイディアはプロトタイピングやトライアンドエラーの間に進化していきますが、それも柔軟に採用して作品に取り入れます。効率が悪いポイントもありますが、そうしないと面白いモノが作れないような気がしています。

西村:みんなでアイデアを出し合って作り上げていくからこそ、ステージが一体化し、大きなうねりが感じられるのでしょうね。最近のネタ出し合い会でどんなネタが登場したのでしょう。

真鍋:例えばWhillの台車と様々な技術を組み合わせて何かできないか、みんなでアイデアを持ち寄ったことがあるのですが、その時は研究的には面白いけれどコンテンツに昇華するのが難しいということでボツになったアイディアもたくさんありました。

Rhizomatiks真鍋大度氏

▲株式会社Rhizomatiks取締役、Rhizomatiks Research 代表 真鍋 大度氏

 

MIKIKO:そうでした。どうしたらいいかわからないネタでした。

真鍋:ただ、そういった実験で培った知見や技術が、将来新しいアイディアや技術的な解決方法が必要な際に役立ったりしますね。

また、先ほど、ネタはどんなところから湧いてくるかという質問がありましたが、アイデアを出すときは、表現のルーツを調べることが多いです。例えば、動く台車とダンサーという表現で探すと、60年代まで遡ることができますね。

西村:そんな昔から台車を使ったパフォーマンスがあったのですね。

真鍋:そうなんです。ビリー・クルーヴァーをはじめとする30人のベル研究所のエンジニアと、ロバート・ラウエイェンバーグ、ロバート・ホットマンたち10人のアーティストにより結成された組織、エクスペリメント・イン・アート・アンド・テクノロジー(E.A.T.)が発表した1960年代の作品で使われています。

当時の台車は今のようにフィードバック制御で動いてはいませんが、同じ様な表現にチャレンジする人はいることを認識した上で、今の時代でしかできない表現を探します。

 西村:過去の作品から学びを得ることも大事だということでしょうか。

真鍋:アートの世界では、過去にやっているかどうかを調べずに出すのは危険なことなんです。コンテキストとコンセプトが一番重要です。だから過去の作品を調べることは大事ですね。

最新のコラボレーション作品「Lucid Motion」

西村:最新のコラボレーション作品「Lucid Motion」についても教えてください。

真鍋:僕たちにとっては珍しく、売り切りの作品です。9月28日から12月1日まで米ワシントンDCで展示された後、ニューヨーク、マイアミでも展示される予定です。

この企画が面白いのは、いろんなアーティストが同じイマーシブな環境を使って作品を展示することになっていること。僕たちは観客参加型のインタラクティブをやってほしいと言われたのですが、散々昔やったこともありお断りして違ったアイディアを提案しました。

2018年3月に開催された「This is NIPPON プレミアムシアター『Perfume × TECHNOLOGY』presents“Reframe”」の「FUSION」という曲で、メンバーをモーションキャプチャーした3Dデータと仮想光源と影を使った演出を行ったのですが、その発展版のようなものです。

Rhizomatiks真鍋大度氏

西村:全米でいろんなところを回っていく作品ですね。

真鍋:Artechouseは新しく出来たギャラリーで契約の形態なども新しく勉強になりました。需要も多いので今後こういったインスタレーションのケースが増えていくと思いますね。

コラボレーションはお互いを理解し、限界を引き上げる作業

西村:これまでを振り返って、大きく変わったことはなんでしょう。

西村真里子氏

▲株式会社HEART CATCH代表・プロデューサー 西村 真里子氏

真鍋
:自分がインタラクティブやオーディオビジュアル、メディアアートと呼ばれるフィールドで表現活動を始めてから17年経ちます。誰もが口を揃えて言うことですが、機械学習技術の発展が大きかったですね。特にダンスや身体表現など人のポーズをデジタルデータ化することは、以前は特殊な環境でしかできませんでした。

特殊なスーツとカメラから、ストラクチャライトと呼ばれる3Dデータを取得するカメラ、そして今はカメラ自体は何でも良くて、ソフトウェア側でポーズ推定が可能になりました。

これからは僕らのように特殊な機材を持たずに誰もができるようになることで、いろんなコンテンツがでるようになるでしょうね。ピンチです(笑)。

MIKIKO:大きく派手な演出が簡単にできるように、照明機材も映像装置も進化しています。ですが、それ以上に大事なのは蓄積してきたもの。長い時間をかけて積み上げたデータを、最新の照明やテクノロジーを使ってどう表現を落とし込んでいくか。

それは即席でできるものではなくなってきたなという感じです。10年以上やっているダンサーではないとできない表現が増えてきた気がするのが面白いところです。

演出振付家MIKIKO氏

▲演出振付家 MIKIKO氏

西村:ライゾマさんとMIKIKO先生、ELEVENPLAYではエンジニアとダンサーをわけず、境界を飛び越えて、プロジェクトが進行していきます。境界を飛び越える相乗効果について教えてください。

真鍋:コラボレーションはお互いを理解して、限界を引き上げる作業です。そのためにはできることは全部やる。だから相手がやっていることを知るために自らダンスを踊るなんでもチャレンジすることです。

MIKIKO:そうですね。お互いにできることをするためにも、私はMayaをマスターすることにチャレンジしています。頭に描いていることをより具体的にスケッチできる方法が何かと尋ねたら、Mayaが使えるようになることだと言われたので(笑)。

【Q&A】会場から寄せられた質問を紹介

対談後、会場から2人に対し、様々な質問が寄せられた。


Q.作品を見る人のリテラシーには差があります。様々なリテラシーの人に分かるようなメイキング要素を作品中に盛り込むことは考えていたりするのでしょうか

真鍋:オリンピック、パラリンピックの閉会式やPerfumeのライブなどエンターテイメント作品の場合は、仕掛けに関して説明する時間はありません。言葉で説明しなくても「わー!」と驚きを与えるようなものが必要だなと思います。一方、アートの場合はアウトプットからコンセプトやコンテキストを考えることが前提です。

そしてアートはその時はわからなくてもよくて、5年後にわかってもいい。アートでは即時性は求められない。分かりやすさを求められるものに関しては、アートの皮を被ったエンタメですね。

Q.海外と日本、発表する場所によって作品の考え方は変わるのでしょうか

MIKIKO:それはないですね。ただ、海外で作品を発表する場合は、そのツアーに行ける人数が限られます。自分たちで設営撤収できるために、いかに技術をシンプルにしようかというところから着想して始めることがあります。

日本とまったく同じモノを海外で発表しているので、向こうの会場の条件でできないことはありますが、基本的には変えずにやることをモットーにしています。

MIKIKO氏

真鍋:違いがあるとすれば、アートプロジェクトの見られ方です。ヨーロッパはアートに対する神聖さはかなり強いんです。例えばプロフィールも、広告のプロジェクトをやったと書いてあるだけで、展示させてくれないということがありました。

ライゾマとイレブンプレイの作品は、ほとんど海外で発表しているので、海外向けに作っているわけではありませんが、海外の評論家が見ても問題ないようにしています。そういえば、アメリカでもこの間は意外なことを指摘されました。

西村:批評で嬉しかったことがあれば、ご紹介ください。

真鍋:今一番海外で評判になっている作品は「discrete figures」。米ニューヨークとサンフランシスコ、独デュッセルドルフ、オランダアイントホーフェン、マドリッドで披露しました。この後ベルギーリエージュでも発表します。この作品は数学と身体をテーマに作った作品で、数字を数えるところから計測、AIまで数学の進化の歴史をたどる要素もあります。

その辺の見せ方はヨーロッパの人からすると非常に面白いとのことでした。テクノロジーに対する日本人と感覚が違うんです。テクノロジーと人間がステージ上で1つになっていると感動してくれます。海外で発表するのはいいですね。思っていないことを言われるので、勉強になります。

MIKIKO:「テクノロジーが父で、ダンスが母で、その父と母がAIダンサーを生んだのね」という感想をいただいたこともあります(笑)。創造力が豊かな分、みなさんエモーショナルな解釈が多いですね。

Q.今面白いと思っている技術、文化などで、今後の演出使えそうに思っているもの、注目しているものなどを教えてください。

真鍋:「Light and Sound Installation “Coded Field” 光と音が織りなす都市と人々の饗宴」というプロジェクトでは、参加者全員が位置情報に基づいて音や光を発するデバイスを手にすることで、屋外の広範囲な場所で同時に楽しめる体験型インスタレーションを実施しました。

coded-field.tokyo

そこで使ったのがGNSSという全球測位衛星システムです。位置情報ネタのコンテンツは面白くなると思っています。

またもう一つ、関心を持っているのがブレーンデコーディング技術です。これは京都大学の神谷之康先生が研究している分野で、この技術を使って今、作品を作ってSonar Barcelona, Mutek Mexicoなどで発表しています。

Rhizomatiks真鍋大度氏
西村
:ありがとうございます。興味深い話が聞けました。これからもライゾマティクスとMIKIKO先生がどんなコラボレーション作品を発表していくのか、楽しみにしています。


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