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音楽プロデューサー亀田誠治氏と及川卓也氏が「音楽×テクノロジー」で起こすイノベーションを語り合う!【前編】

AIやIoTなどの最先端テクノロジーの進化により、様々な業界にテクノロジーが持ち込まれ、新たなサービスやプロダクトが誕生している。さらに2020年からサービスが始まる5Gによって、これまでは難しかったようなコンテンツの表現を多くの人に届けることができるようになるだろう。システムインテグレーターSkyと「TECH PLAY」が連携し、開催するエンジニア向けイベント「sight update session」。今回は「音楽×テクノロジー」をテーマに、音楽プロデューサーでありベーシストの亀田誠治氏と及川卓也氏が語り合った。

亀田誠治氏と及川卓也氏が語る「音楽×テクノロジー」

音楽プロデューサーとは、どのような仕事なのか?

今回の「音楽×テクノロジー」というテーマに対し、その対談相手として亀田誠治氏を指名した及川卓也氏。亀田氏がプロデュースする椎名林檎さんや東京事変のファンであり、2007年に東京・青山のスパイラルホールで開催されたイベント「劇的3時間SHOW」で亀田氏のトークを聞いてから、12年間、「ずっと会いたいと思っていた」という。及川氏の亀田氏に対する熱い思いがほとばしるセッションとなった。

亀田:僕自身はアーティストとリスナーの想いをなだらかに繋げる「音楽よろず引請け屋」と言っていますね。僕はアレンジもするし、楽器も弾く。でも、世の中には楽器の演奏もアレンジもしないプロデューサーもいます。

例えばCHEMISTRYを生み出した松尾潔さんもその一人。楽器は弾かないけど大ヒット曲を生み出しています。音楽プロデューサーは、音楽をどれだけ多くの人にわかりやすく届けるのが仕事です。そして最後に、全ての責任をとれる人がプロデューサーです。

及川:亀田さんのお仕事は音楽プロデューサーやベーシストには留まりませんからね。年々、仕事の幅が拡がっていらっしゃるような気がします。亀田さんの音楽の原体験は何だったのですか?

亀田:最初に自分で買ったレコードやアルバムが思い出せないんですよね。母が音楽好きだったので、ラジオのFM放送や、クラシック全集レコードをよく聞いていました。僕は1964年にアメリカで生まれたんですが、ちょうどその頃にビートルズ大旋風が起こったんです。だからビートルズのレコードも母が買っていました。とにかく生まれたときから音楽に囲まれてきたんです。

亀田誠治氏と及川卓也氏が語る「音楽×テクノロジー」

▲音楽プロデューサー・ベーシスト 亀田 誠治氏

1964年生まれ。これまでに、椎名林檎、平井堅、スピッツ、GLAY、いきものがかり、JUJU、エレファントカシマシ、大原櫻子、GLIM SPANKY、山本彩、石川さゆり、東京スカパラダイスオーケストラ、MISIAなど数多くのプロデュース、アレンジを手がける。2004年に椎名林檎らと東京事変を結成し、2012年閏日に解散。閏年の2020年元旦に再生を発表。2007年第49回、2015年第57回の日本レコード大賞では編曲賞を受賞。近年はJ-POPの魅力を解説する音楽教養番組『亀田音楽専門学校(Eテレ)』シリーズが大きな反響を呼んだ。2019年、世界に挑む若手音楽家とアスリートや彼らを支え育成に努めるコーチ、その発展・改革に挑むリーダーに贈られる「第2回服部真二賞」を受賞。同年、フリーイベント「日比谷音楽祭」にて実行委員長を務め、10万人を動員。2020年5月30,31日にも開催が決定している。


 

及川:邦楽にも触れていたのでしょうか。

亀田:1970年代は太田裕美さんが好きで、結婚するのが夢でした(笑)。及川さんの音楽の原体験は?

及川:私の姉がイギリスのロックバンド、ベイ・シティ・ローラーズの大ファンでした。僕が風邪で寝込んだときに、両親が「何か欲しいものはあるか?」と電話をかけてくれたことありました。その時姉に「『バイ・バイ・ベイビー』を買って」と言わされ、両親がレコードを買ってきてくれたことがあったんです。それからロックが好きになり、小学生の時にエアロスミスやKISSなどを聞き始めました。それが原体験ですね。

f亀田誠治氏と及川卓也氏が語る「音楽×テクノロジー」

▲Tably株式会社 代表取締役 Technology Enabler 及川 卓也氏

早稲田大学理工学部卒業後、日本DEC、Microsoft、Googleにてソフトウェアを開発。Microsoftでは日本語版と韓国語版Windowsの開発統括を務める。Googleでは9年間にわたり、プロダクトマネージャとエンジニアリングマネージャーを経験。Chrome、Chrome OS、Google日本語入力などを担当。2012年日経ビジネス「次代を創る100人」に選出。その後「Qiita」を運営するIncrementsに入社、プロダクトマネージャーとして従事後、2017年独立。フリーランスの立場から複数の企業の技術・事業アドバイスを行う。2019年1月、Tably株式会社を設立。


 

亀田:僕も小さい頃は身体が弱くて、小学2年生の1学期、まるまる学校を休んだんですよ。その間、親は畳敷きのリビングで寝かせてくれたんですね。自分の枕元にレコードプレーヤーやテレビがあるんです。学校に行かない数カ月間、音楽を聴いたり、天井の模様を見つめたりしていました。その頃に創造力の芽が育まれた気がします。

及川:僕も小学校3年生の時に2カ月間、自宅で療養したことがあります。創造力の芽が養われたとは思いませんが、そういう期間も大事だったと思っています。

亀田:大事なんですよ。スピルバーグもジョン・レノンも、子どもの頃にそういう時間を過ごしているんです。アメリカで有名なラジオDJ、ウルフマン・ジャックの自叙伝にも自分一人で妄想にふけったり、自分一人で過ごす時間が大事だと書かれていましたから(笑)。

音楽における制作とITの開発の共通点

及川:一番気になっているのは、プロの音楽制作の現場について。例えばどういうところを起点に、普段我々が聞くようなJ-POPを生み出されていくのか、その過程について教えてください。

亀田:アーティストが100人いたら100通りの作り方があります。プロデューサーは音楽を仕上げて、その音楽が世の中に届くようにするまでが仕事ですが、スタート地点が0から始まる場合と、10から始まる場合、50から始まる場合というように、いろんな形がある。

例えば「ボーカルだけディレクションしてほしい」「歌詞だけ見てほしい」という依頼でも、すべて請ける。どれも僕にとってもやりがいがあって楽しい仕事だからです。アーティストが最短距離で輝く、そういう道筋を一緒に伴走していく役割なんです。

亀田誠治氏と及川卓也氏が語る「音楽×テクノロジー」

及川:ITのプロダクトやサービスには、誰に対してどういうものを届けるのかという目標があります。音楽にもそういう目標のようなものがあるのでしょうか。

亀田:アーティストは音楽を作り、それを多くの人たちに聞いてもらう。その自己実現の部分を大事にしています。そのゴール設定には、難しさがつきまとう場合があります。例えば、ハッピーエンドの映画の主題歌に悲しい歌を作ることはできません。音楽の行き先、届け先が明確に提示されている場合は、そこに向かって作っていくことになります。

しかし、それよりも重視しているのは「これは本当にやりたいことなのか」を検証すること。そして、それができるようにサポートします。例えば僕と及川さん(Taku)がユニットを組んで、曲を作り始めたとしましょう。その曲は「スカイ」という映画の主題歌です。スカイ側からは「青空という言葉を入れてくれ」「このぐらいのテンポで」というようなオーダーがくる。

そのオーダーに向かってはいきますが、「青空」という言葉を入れることで歌詞がダサくなるなら、僕は「Taku、無理して青空という言葉をいれなくていいよ」と導いていくと思います。自分が作りたいもの、自分が気持ちいいもの、自分が感動しているもの、絶対これがいいよ、と思うものしか出したくない。それを貫くべきだと思います。

亀田誠治氏と及川卓也氏が語る「音楽×テクノロジー」

及川:亀田さんの考える「わかりやすさ」とはどういうことでしょう。

亀田:僕が考える「わかりやすさ」とは、無防備な状態にすっと入っていき、その人の人生を豊かにするというイメージ。例えば、難解で複雑な音楽の例で挙げられるキング・クリムゾンの変拍子や、ジョン・ケージの「4分33秒」などは、ポップに対してのオルタナティブというか、絶対数のわかりやすさに対してはみ出しているだけなんです。

実は「最高のマニアックは、最高のポップ」だと言われています。つまりものすごくマニアックなモノは突出しているので、それに惹きつけられる。僕はもう一歩その先にある、「感動や感情を揺さぶる何か」が、僕の考えるわかりやすさです。

及川:「ぴあ」で亀田さんが書かれている連載「亀の歩み」に、「音楽プロデューサーってどんな人?」という記事があります。その記事では、音楽プロデューサーを最高執行責任者とかアーティストとリスナーをつなぐアンプのようなものという言葉で表現されており、なるほどと思いました。

先ほどの例で、クライアントからこの言葉を入れてほしいと言われた場合、プロデューサーとしては、それを一旦「分かりました」と受け入れるのですか?

亀田誠治氏と及川卓也氏が語る「音楽×テクノロジー」

亀田:一旦受け入れてアーティストにどう伝えるか。その役割も担っています。以前は、A&R(Artists and Repertoire)と呼ばれる現場担当者が担っていたのですが、今はそこに踏み込んでくれる人がほとんどいないんです。だから、最高執行責任者であるプロデューサーが伝えていくことになる。例えばスカイプロダクションの社長に「青空という言葉を入れて」と言われたとしましょう。僕は「わかりました」と返事をして持ち帰る。

そしてTakuと曲作りをする時に、「青空を毎日見ていても響かないよね。雨の後の虹の方が心を打つかもしれないよね」と、より良い曲を作り、社長に持っていくんです。否定をすることなく、必ず、1回は受け入れるんです。そして「青空という言葉ではなくて、虹の向こうに空が広がっていたという表現はどうでしょう」と社長に提案する。すると、社長は「いいね」と言ってくれたりするんですよね。

及川:美味しい日本酒を飲んだときの感動体験を思い出しました。以前、料理にペアリングされた日本酒を出すお店で、「どんな日本酒が好きか」と日本酒ソムリエに聞かれたんです。私は「甘いのが苦手」と答えました。

出された日本酒を飲んだ私は「美味しいですね」と言うと、その日本酒ソムリエは「それ甘口ですよ」と言うんです。客のニーズを否定せずに受け入れて、より良い提案をしてくれたソムリエの存在によって、私はこれまでお酒を美味しい状態で飲んでいなかっただけだと気づかされたんです。

亀田誠治氏と及川卓也氏が語る「音楽×テクノロジー」

亀田:スカイだから青空という言葉を入れるのではなく、「なぜ、スカイという名前をつけたのか」「青空を見るとなぜ気持ちいいのか」。それをちゃんと考えれば、もっと他に感動や喜びを感じる表現が出てくる。それを分かち合えることが、僕の考える「わかりやすさ」なんですよ。

及川:スティーブ・ジョブズの名言に、「お客さまは欲しいものがわかっていない」「目の前に出されるまで欲しいものがわからない」という言葉があります。スカイというクライアントが示すものを作ることだけが、新しいものや価値を生み出すわけではないということですよね。

音楽業界のイノベーションへの向き合い方は?

及川:音楽業界におけるイノベーションとはどういうことを指すのでしょう。サブスクリプションも音楽におけるイノベーションなのでしょうか。

亀田:欧米ではすでに85%の音楽がCDではなく、サブスクリプションで届けられています。それに対して日本はまだ15%程度。先日、テイラー・スウィフトの「LOVER」というCDを購入しました。デラックス・アルバム・バージョンが1~4まであって、一つ一つにテイラーの日記が添えられているんです。

この形態を見たときに、日本の付加価値がついたCDに似ていると思い、「もしかして、日本は先に進んでいるのかな」と思ったら違いました。欧米ではサブスクリプションなど形あるものに頼らない市場が成熟している中で、ファンとのコミュニケーションの手段として、アーティストが思いをこめたプレゼントとしてCDを出しているんです。

一方、日本の付加価値が付いたCDは、ちょっとでもCDを売る、少しでもコンサートに誘導するために、形あるメディアにこだわり続けている。先のことを考えていない。このような音楽ビジネスでは、次世代のアーティストが出てくる余地がなくなってしまうんですよ。

だから早くサブスクリプションに移行すべきだと思います。確かにサブスクリプションやネット配信は音が圧縮されるため、好みは分かれますが、技術の進化はすべての人間の生活をポジティブな方向に引っ張ってくれるもの。大事なのは単に技術や流行に乗っかるのではなく、なぜサブスクリプションという形で届けたいのか。そして、作り手の思いがそこにあること。そうした作り手の思いがあってこそ、イノベーションが起こると考えています。

亀田誠治氏と及川卓也氏が語る「音楽×テクノロジー」

及川:なぜ、日本ではサブスクリプションが進まないのでしょう。

亀田:新しい動きが怖いんだと思います。サブスクリプションが拡がった先に何が起こるかわからないから。今あるものを大切にすることは、日本人のいいところでもありますが、大事にするあまりに、世界に仲間入りする第一歩が踏み出せなかったのです。デジタルネイティブな人たちがそれに気づき、ようやく扉が開いてきている状況だと思うんですよね。

及川:日本は変化に対する抵抗が強いですからね。かつての日本は音楽の技術分野を先導していたんです。例えばCDを作ったのはソニーとフィリップスですし、ソーシャルな体験だった音楽をソニーがウォークマンを作ったことで、パーソナルなものへと変化させました。最近は保守的になり、変化を生み出せていないのは本当に残念です。

亀田:現在の音楽はデジタルに支えられているんです。アナログからデジタルになったことで、今まで5年かかっていたことが5時間でできるようになりました。突拍子もないイノベーションが起こると、初めは拒絶されるんです。例えばボーカロイドが登場したとき、みんなビックリしたと思うんです。

だんだん改良され、次の次元に達すると、それを使う人が増え、新しいクリエイティブが生まれる。今では楽器が弾けない人でも、PCがあれば音楽が作れるようになりました。しかも世界中にその音楽を配信したり、仲間と演奏できるんです。これは素晴らしいことだと思います。余談ですが、僕はアプリのアップデートのお知らせがあると、メチャクチャ嬉しくなる(笑)。頑張ってるなって。

亀田誠治氏と及川卓也氏が語る「音楽×テクノロジー」

及川:開発者に対する亀田さんの温かいメッセージが嬉しいです。

亀田:僕たちも普通の人がわからない音域を調節するなど、スタジオの中でアップデートを繰り返すので、気持ちがよくわかるんです。

新しい音楽の生み出し方は?

及川:新しい音楽の生み出し方についてどう考えていますか。ITのサービス開発のように、音楽も過去の良い曲を模倣することで、新しいものが生まれることもあるのでしょうか。

亀田:新しい音楽を生み出すには、インプットする数を増やすしかありません。
中には「あの曲のあそこのあの感じ」というように、模倣を起点にスタートするプロジェクトもあります。でもそこから始めてしまうと、原曲を超えるのは難しい。

僕の言うインプットとは成功体験。自分の好きな曲、自分が愛している曲が成功体験。及川さんがおっしゃる模倣とは、その身に付いている成功体験が染み出てきていることだと思います。

亀田誠治氏と及川卓也氏が語る「音楽×テクノロジー」

及川:ものすごい量のインプットがもはや体の一部になっていて、意図せず似てしまう場合もあるんですね。

亀田:僕は年間60曲ほどをプロデュースしています。それを30年間。最高のイントロができたと思ったら、3年前に作ったイントロと同じだったりすることもあった。同じコード進行でも無限大に良いメロディーが生まれることを信じているのですが、どうしても似てくるんです。

だから自分に似ない努力、先輩方の偉大な名曲に似ない努力をして、必ず検証しています。気持ち良い、最高だなと思ったら、必ず検証する。自分一人のアーカイブ能力では危ないので、周りにも判断してもらっています。

及川:コンピュータでチェックできないんですかね?Shazam(音楽を認識できるアプリ)とか。

亀田:いや、怖くてできないので、誰かにやってもらいます(笑)。


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