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音楽プロデューサー亀田誠治氏と及川卓也氏が「音楽×テクノロジー」で起こすイノベーションを語り合う!【後編】

AIやIoTなどの最先端テクノロジーの進化により、様々な業界にテクノロジーが持ち込まれ、新たなサービスやプロダクトが誕生している。さらに2020年からサービスが始まる5Gによって、これまでは難しかったようなコンテンツの表現を多くの人に届けることができるようになるだろう。システムインテグレーターSkyと「TECH PLAY」が連携し、開催するエンジニア向けイベント「sight update session」。今回は「音楽×テクノロジー」をテーマに、音楽プロデューサーでありベーシストの亀田誠治氏と及川卓也氏が語り合った。

亀田誠治氏と及川卓也氏が語る「音楽×テクノロジー」

音楽とイノベーションの向き合い方

及川:音楽理論でいう「アボイドノート」は、聴き手に不快感を与える“避けるべき音”です。しかし、それをあえて使っている音楽もある。気持ちよい音楽を作る際に、音楽理論は絶対必要なんでしょうか。

亀田:僕は音楽理論から曲を作るわけではありません。そういう意味では音楽理論は関係ないと考えています。音楽理論は迷った時に使うナビゲーションのようなものだと思います。共通言語として使うぐらいですね。

亀田誠治氏と及川卓也氏が語る「音楽×テクノロジー」

▲音楽プロデューサー・ベーシスト 亀田 誠治氏

1964年生まれ。これまでに、椎名林檎、平井堅、スピッツ、GLAY、いきものがかり、JUJU、エレファントカシマシ、大原櫻子、GLIM SPANKY、山本彩、石川さゆり、東京スカパラダイスオーケストラ、MISIAなど数多くのプロデュース、アレンジを手がける。2004年に椎名林檎らと東京事変を結成し、2012年閏日に解散。閏年の2020年元旦に再生を発表。2007年第49回、2015年第57回の日本レコード大賞では編曲賞を受賞。近年はJ-POPの魅力を解説する音楽教養番組『亀田音楽専門学校(Eテレ)』シリーズが大きな反響を呼んだ。2019年、世界に挑む若手音楽家とアスリートや彼らを支え育成に努めるコーチ、その発展・改革に挑むリーダーに贈られる「第2回服部真二賞」を受賞。同年、フリーイベント「日比谷音楽祭」にて実行委員長を務め、10万人を動員。2020年5月30,31日にも開催が決定している。


 

及川:あえてアボイドノートを入れることはありますか。

亀田:あります。アボイドノートという異分子が入ってくることで違和感が生まれて、それがキャッチになることがあるからです。

及川:それがイノベーションにつながるのではと思うんですよ。昔、日経BP社でコラムを書いていたときの連載タイトルが「Avoid Note(アボイドノート)」でした。この言葉をつけるきっかけとなったのが、1980年代のジャズの演奏でした。

ジャコ・パストリアスという天才ベーシストがギル・エヴァンス・オーケストラのスペシャルゲストとして登場したんです。パフォーマンスの中にインプロヴィゼーションの部分があり、普通にきれいに弾いているのに、途中で違和感のある音を入れていくんです。その音に引っ張られてバックバンドが動いていく。

リズムやコード進行が彼によって動いていくのを見て、「世の中を動かすのはアボイドノートだ」と思い、その名前をつけました。雑音になるものがありますが、うまくいったときは周りは自分についてくる。ちょっとした違和感から、新しいものが生まれる。インプロヴィゼーションの世界には、それがたくさん起きているんじゃないかなと。

亀田誠治氏と及川卓也氏が語る「音楽×テクノロジー」

▲Tably株式会社 代表取締役 Technology Enabler 及川 卓也氏

早稲田大学理工学部卒業後、日本DEC、Microsoft、Googleにてソフトウェアを開発。Microsoftでは日本語版と韓国語版Windowsの開発統括を務める。Googleでは9年間にわたり、プロダクトマネージャとエンジニアリングマネージャーを経験。Chrome、Chrome OS、Google日本語入力などを担当。2012年日経ビジネス「次代を創る100人」に選出。その後「Qiita」を運営するIncrementsに入社、プロダクトマネージャーとして従事後、2017年独立。フリーランスの立場から複数の企業の技術・事業アドバイスを行う。2019年1月、Tably株式会社を設立。


 

亀田:「クリエイターはアボイドノートたれ」ですね。デビュー前の椎名林檎さんはまさしくアボイドノートで、「こんな歌詞、こんな声を聞いたことない」「どうしたらいいかわからない」とレコード会社が困っていたんです。そんな時に「亀ちゃんだったら向き合えるかも」と、僕の音楽キャリアと人間性を買われて、椎名林檎さんに会うことになったんです。

僕と椎名さんとの間で大事にしている言葉があります。それが「ないがち」。人は大抵ありがちなものを聞くと、安心して喜びます。ですが僕らは、スタジオで突拍子のない音を踏んだり、間違ってエフェクターを踏んだときの音を大事にする。「ないがちの勝利だ」というノリで作った作品、それを世の中が受け入れたんです。

及川:ビートルズもそうですよね。そのときの制作風景では、楽器じゃないものを叩いていたし。

亀田:そうそう、放送局のエンジニアに「ビートルズはメーターを振り切ったり、真空管を飛ばしたりするので、出入り禁止」と言われたんですよね。ですが、彼らはもっと(音を)上げろと叫び、彼らのサウンドが作り上げられていきました。

亀田誠治氏と及川卓也氏が語る「音楽×テクノロジー」

AIによって、音楽の可能性はどう拡がる?

及川:あともう一つ、質問があります。紅白ではAIを使って美空ひばりさんを復活させます。しかも、彼女が歌っていない新作を彼女が歌う。この出来事をAIによる可能性と感じますか?それとも脅威と感じますか?

亀田:僕はすばらしいことだと思っています。もちろん、生のひばりさんの歌声には届いてはいないでしょう。今回、AIを作るにあたって、最初、歌だけではなく動きがぎこちなかったのを、ひばりさんが大好きだった天童よしみさんにセンサーをつけて動きのデータを取らせていただき、ひばりさんだったらこう動くだろうとシミュレーションしたそうです。

AIの美空ひばりさんに、開発者、音声のエンジニアや天童よしみさん、衣装を作った森英恵さん、作詞をした秋元康さんなど、全員の思いが詰まっていると考えると胸熱です。次の何かを作るきっかけになると思います。

亀田誠治氏と及川卓也氏が語る「音楽×テクノロジー」

及川:全員とおっしゃいましたが、ひばりさんが抜けています。美空ひばりさんは望んでいたのでしょうか。例えば亀田さんが亡くなった後、亀田さんのベースプレイを再現して、こんな音楽を作るだろうとAIが亀田さん的な曲を作る。そのような世界をどう思いますか。

亀田:たぶん、同じじゃないですね。

及川:「違う」と言いたくなりませんか。墓場から蘇って。

亀田:亀田誠治AIだから、いいのではないでしょうか。

及川:最近は、AI活用の倫理観が問われるようになってきました。ディープフェイクの問題もあります。

亀田:それはこれからを生きる人間のモラルの問題です。そういう行為を諫めるような教育が大事になるでしょうね。先のAIのひばりさんも、生身のひばりさんとは違います。ですがファンの記憶の中のひばりさんをたどってくれるのは、素晴らしいことだと思うんです。AIは「あい=愛」と読めます。日本人の肌感覚や心情にすごく寄り添えるものだと思っています。

亀田誠治氏と及川卓也氏が語る「音楽×テクノロジー」

及川:作り手の倫理観やモラルに加えて、愛を持ってテクノロジーを使うことが大事ということですね。もっと聞きたいことがありますが、我慢して、Q&Aタイムに入ります(笑)。

【Q&A】会場から寄せられた質問を紹介

会場から質問を募ったところ、二人に対して様々な質問が寄せられた。

Q.今あるスケールは、1オクターブの中を12分割した限られた音階で構成されています。さらに分割したスケールにすると音楽が拡がるのではと思いますが、12音階以外の音階を使って曲を作ったりすることはありますか。

亀田:僕はないですね。12の先にどう分割するかが大事だと思います。それよりも僕が問題に感じているのは、12音階にぴったり合わせる音チューン、音程が正確すぎる歌や楽器が多すぎることです。音程が正確すぎて、この頃、自分の弾くベースのピッチが気になって仕方がないんです。

ピタピタとはまっていく中で、ちょっとでも揺らぎがあると惜しく聞こえる。それが大問題。どうすればこの揺らぎ全体をみんなが受容できるか、これからイノベーションを起こしていくエンジニアのみなさんは、揺らぎの部分に寛容になってくれるといいなと思います。

亀田誠治氏と及川卓也氏が語る「音楽×テクノロジー」

Q.既存の音楽をベースに機械学習させると、12音階の音楽で作られていくと思うが、さらに細分化された音階の楽曲は生まれると思いますか。

及川:生まれると思います。グーグルがアーティステック分野でAIを活用しています。巷にある楽曲は12音階でできていますが、これは一種のヒューマンバイアス。人間が無意識のうちにそこに閉じこもってしまっているだけ。

グーグルはヒューマンバイアスを外す方法論を持っています。それを外すことで、音階を外すことも可能です。世界の音楽の中には、12音階にとらわれていないモノがたくさんあります。それを機械学習のサンプリングデータに入れていけばいいんです。

亀田:ガムランも倍音だらけだし、ギターのチョーキングもそう。ちょっと外れているところが人間味だったりします。ちょっと外れたものにワクワクしたり、勇気や力をもらえるのが音楽やアートです。

Q.日本の音楽がサブスクリプションメインになったとき、プロデューサーの役割は変わるのでしょうか。

亀田:作品を作るという意味では変わらないと思います。気をつけないといけないのは、みんながPCの中で音楽を作るようになると、素材が同じなので同じような音楽が増えてくること。欧米で85%のシェアがあるストリーミングのチャート上位の音楽を聴くと、すごく似ているんです。

ほとんどが3分以内で、イントロがない。バンドサウンドは瀕死の状態で、50位の中にバンドサウンドは1曲か2曲しか入っていません。これは由々しき事態だと思っています。自由な絵筆を持っているのに、なぜか同じ方向に進んでいる。その矛盾を強く感じています。

亀田誠治氏と及川卓也氏が語る「音楽×テクノロジー」

及川:それに対して、プロデューサーとしては、どのように対峙していきたいと思っていますか。

亀田:僕が2019年から始めた日比谷音楽祭は、その行動の一つといえるかも知れません。この音楽祭はフリーイベントですが、そこに登場するのは様々なジャンルのトップアーティスト。1つのジャンルやジェネレーションにとらわれない音楽をリアルに体験できる場所を提供しています。2020年も開催します。

及川:サブスクリプションをメインターゲットにするとしたなら、亀田さんも楽曲は短くしたり、イントロなしにするのですか。

亀田:俺は絶対しないと思う。ただし、イントロのない曲は好きなんですよ。名曲には名イントロありと、音楽業界にはそんな約束事があります。でも僕は名曲にイントロなくてもいいじゃんと思い、サブスクの浸透がない頃から山ほどイントロのない曲を作っている。しかも、大ヒット曲を(笑)。

Q.良いチームの条件とは何だと思いますか?

及川:多様性は大事ですが、向かう方向が一緒であること。例えば「富士山を登る」チームに、「北岳に行きたい」という人がいると良いチームにはならない。富士山をどう登るかという手段に多様性はあってもいいが、富士山を登ることの価値観やビジョンは一致していることが良いチームの条件だと思います。

亀田誠治氏と及川卓也氏が語る「音楽×テクノロジー」

亀田:そうですね。良いチームの条件は、どこに向かっていくかを共有できるかどうか。やり方は全員違ってもいいけど、最後にはこうなるんだという思いが共有できている。音楽やスポーツの世界では、一瞬だけ勝てばいいというわけではありません。1年、2年、3年と勝負をしていかないといけません。

そうした中で最終的なゴールを共有でき、その喜びを共有できることだと思います。そのためには、まずチームリーダーに成功体験が必要です。成功体験をたくさん積んでいればいるほど、仲間はもちろん、チームの外にいる人にもプラスのエネルギーを与えられるからです。とにかく小さなものでいいので成功体験を積み重ねること。そしてもう一つ大事なのは、誰かが成功したときに、よかったねと言ってあげること。それをやるだけで流れが変わります。

及川:連戦連勝は絶対不可能なので、3割ぐらいでいいというようなことを最初に決めておくことも大事ですね。長くやっていけば、負けることや失敗することもあります。小さな成功体験を積むことで喜びを得ると共に、失敗を許容できるようになることも大事でしょうね。

Q.大切にしている愛はどのようなものですか?

亀田:音楽でも、サービスやプロダクトも、人の想いから作られています。それを常に意識することです。僕はたくさんのバンドのプロデュースをしていますが、長続きしているバンドはメンバーがお互いをリスペクトしている。

モノづくりは思いやりだと考えています。ベースプレイヤーは自分一人ではアンサンブルを完結できません。チームに愛がないと音楽が作れないんです。人に支えられていることを感謝できる気持ち。それが愛だと思います。

亀田誠治氏と及川卓也氏が語る「音楽×テクノロジー」

及川:人に対する興味関心が愛の源泉だと思っています。一方で、嫌いも愛に近い感情だと考えます。愛のないものは無関心。愛には興味と関心が大事ですね。
亀田さん、本日はありがとうございました。


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