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神山健治監督とNiantic川島優志氏が語る ──アニメとゲーム作りでこだわった「現実感」

攻殻機動隊SACシリーズの監督を務め、日本のアニメーション業界を牽引してきた神山健治監督と、神山監督の大ファンでもあるNianticの川島優志氏が対談。神山監督、川島氏がアニメーションやゲーム業界の動向をはじめ、何にこだわり、どんな想いで作品・サービスを作っているかについて熱く語り合った。モデレータをHEART CATCH 代表取締役の西村真里子氏が務めた。

神山健治監督とNiantic川島優志氏

神山監督と川島氏の出会いは7年前

システムインテグレーターSkyと「TECH PLAY」が連携し、開催するエンジニア向けイベント「sight update session」。今回は「アニメ×テクノロジー」をテーマに神山監督と川島氏の対談が行われた。イベント冒頭、川島氏は神山監督のサイン入りの「笑い男」Tシャツで現れ、会場を沸かせた。

西村:神山監督と川島さんにお会いするのは3~4年ぶり。ちょうど神山健治監督がひるね姫をリリースした時に、日本テレビの「SENSORS(センサーズ)」という番組で、お二人を取材させていただいた時以来です。途中で二人だけの世界になるかもですが、みなさん、温かく見守ってください。

川島:NianticはGoogleの社内スタートアップとして発足した会社です。「Pokémon GO(ポケモンGO)」を開発した会社と言った方がわかりやすいでしょうか。テクノロジーを使って人が外出するきっかけ作りや、普段見過ごされている街の魅力を発見したり、友達と一緒に冒険できるアプリを作っています。「Pokémon GO」の前身となる「Ingress(イングレス)」もそうです。

私はデザイナーとしてNianticに加わり、会社を設立されたと同時にアジアを統括するアジア統括本部長に就任しました。神山さんと出会ったのはGoogleのデザイナーとして働いていた7年前ですね。神山さんがジョージ・ルーカススタジオで録音をしていたときです。

そのときは、僕がドライバーと通訳として神山さんのお手伝いしました。ちょうど息子が1歳になった誕生日会に来てくれて、そのときサインをもらったのが、今日のTシャツです。それ以来、こうして時々対談させてもらっています。

川島優志氏

▲Niantic, Inc. アジア・パシフィック オペレーション 副社長 川島 優志氏


西村:渋谷からここに来るときも、レイドバトルをしている人たちを見ました。もうそういう光景が日常になっていますね。神山監督の自己紹介として、まずは「攻殻機動隊 SAC_2045」のティザーPVを見てもらいましょう。

神山:来年の4月から攻殻機動隊がNetflixで配信になります。

西村:来年は攻殻機動隊のシリーズと、もう1作品を制作されるそうですね。

神山:同時進行で2年前に公開された「ブレイドランナー2049」のスピンオフを、テレビシリーズのアニメーションとしてハリウッドと制作しています。

神山健治氏

▲アニメーション映画監督 脚本家 神山 健治氏

西村:2019年は「ULTRAMAN」をNetflixで配信されました。

神山:そうですね。最近は、自分でも信じられない忙しさです。

西村:ポケモンGOも新しい公式ショップを公開するなど、新しいチャレンジがありました。

川島:「Pokémon GO Lab.」という公式ショップを東京・池袋にオープンしました。そこのインスタレーションは、「Pokémon GO」のジムのデータを活用しており、ライゾマティクスの開発陣に作ってもらいました。そこでしか手に入らない公式グッズなどもあります。「相棒と冒険モード」も12月19日にローンチしました。

西村:米Nianticでは、ARのクリエイターのアワードを開催されているとか。

西村真里子氏

▲株式会社HEART CATCH 代表取締役 西村 真里子氏


川島:「Beyond Reality」コンテストですね。賞金は総額100万ドル(1億円)。ハッカソン形式で、Nianticのプラットフォーム上で、クリエイターやエンジニアの方々に新しいオリジナルプロダクトやサービスを作ってもらうコンテストです。優勝したのは、家族で参加したチームでした。

西村:今後、日本などでも開催する予定はあるのでしょうか。

川島:2020年は日本でもハッカソンのようなイベントを開催したいと思っています。実現したら、ぜひ皆さんも、参加してくださいね。

神山監督と川島氏の対談

アニメとテクノロジーの相互作用とは

西村:「Ingress」は、攻殻機動隊からインスピレーションを得たという話を聞きました。

川島:「Pokémon GO」の前身である「Ingress」は、NIA(ナショナル・インテリジェンス・エージェンシー:米国の秘密諜報機関)から漏れ出たアプリケーションという設定で、ハードなサイエンスフィクションの世界観を描いています。

まさに「東のエデン」のよう感じです。ゲームのデザインを担当していたのが、デニス・ホワン(Dennis Hwang)。彼はGoogleでホリデーロゴ(Doodle)を始めた人物です。彼は攻殻機動隊の大ファンだったので、イングレスのインタフェースも攻殻機動隊に超インスパイアされたと公言しています。

西村:もしかして神山さんがいなければ、Nianticも生まれなかったかもしれないのですね。

川島:さすがにそれはないのですが(笑)、神山さんの影響で「Ingress」のデザインができあがり、今につながっているのは事実です。アニメがもたらした影響はすごく大きいと思います。

川島優志氏

西村:神山監督はそれを聞いてどう思いますか。

神山:自動車メーカーの開発担当者からも、攻殻機動隊に限らず、アニメからインスパイアされたという話をされることがよくあります。ですが、ぼくたちアニメを作っている現場の人間からすると、現実に存在するものからアイデアをいただいています。決して未来予測をするつもりでは作っていないんです。

ドラえもんの歌ではないですが、あんなこといいな、できたらいいな、というのがアニメの現場の最初の発想です。

西村:攻殻機動隊の電脳化、東のエデンのARやひるね姫の自動運転などは、事前にリサーチしたり、先端技術のラボに取材して情報を得ているからこそ、そのような発想ができるのではとないでしょうか。

神山:作品を作るときはそのジャンルについて調べたり、見学をさせてもらったりしています。ですが、最初の発想の根幹になるのはあくまでも「あったらいいな」「こうなったらいいな」という思いです。そのほとんどが夢物語。できる・できないは関係ありません。

神山健治氏

西村:Nianticはポケモンやハリー・ポッターなどをARというフィールドに落とし込んでいます。アニメやコンテンツをどのようにテクノロジーに結びつけているのでしょうか。

川島:「Pokémon GO」や「Ingress」はARのゲームの中では、わりと成功したと言われています。これらのゲームの成功の秘訣、例えばポケモンGOの場合は、雨が降ったら雨と相性の良いポケモン、水辺には水ポケモンが出現する。天候やその地域に合わせてポケモンが出るといった、現実世界とのリンクを意識しています。

また「Ingress」はゲーム内で使うエネルギーであるエキゾチックマターが湧き出ているポータルを、青チームと緑チームの双方が集めてリンクをつないで陣を作っていくゲーム。エキゾチックマターが湧き出ているポータルは、ユーザーが申請する仕組み、いわゆるパワースポットのような場所が設定されています。

ベテランのプレイヤーになると、お地蔵さんを見ただけで、「ここはエキゾチックマターが出ている」とわかるし、そこにいるベテランプレイヤーも「ああ、出ているね」と言う。すごく現実感が共有できているんです。

そういう共有がARを作る上で重要な秘訣になっています。アニメもそうですが、フィクションでありながら、現実を感じさせられるさじ加減が重要です。そういう作品を作れるのが神山監督のすごいところだと思います。東のエデンも普通に作ったら誰も信じられないものになりそうなのに、監督が手がける作品には現実感があるんです。

神山監督と川島氏の対談

アニメもゲームも「現実感・あるある感」が大事

神山:当時意識していたのは「あるある感」。「夢物語としてあったらいいね」に加え、「何かある」「存在感が感じられる」という現実との地続き感を大事にしていました。アニメは全てが作り物です。その作品の中に原宿駅が出てくるなど、「このアニメは僕たちの住んでいる世界の延長にある」と感じさせることが昨今、重要になっていると思います。

川島:神山監督の最新作「ULTRAMAN」も現実感があるからすごく面白い。そもそもウルトラマンの続編を作ってといわれても作れないですよ。でも神山監督は僕たちが子どもの頃、怪獣と戦って「カッコいい」と思っていた世界を壊すことなく、大人になった僕たちもリアリティを感じられる作品になっているんです。これはすごいことだと思いました。

神山:ULTRAMANの特長の一つはウルトラマンが人間サイズになっていることです。原作がそうだったということもありますが、人間が巨大化することに対して、親近感を持てる国と持てない国があるそうなんです。これは円谷さんから聞いた話です。これもあるある感と近いかもしれませんが、仏教の国は大仏をはじめ偶像が大きいので、巨大化することは受入れやすい。

一方、キリスト教の国では「なぜ人間が大きくなるのか」と、疑問を感じるらしいのです。宗教観ではありませんが、巨大なものを崇拝する習慣がないそうです。ウルトラマンが大ヒットしたブラジルのキリストの像は巨大じゃないですか。円谷さんはそれが関係しているのかもしれないと言っていました。だからウルトラマンが人間サイズになったことで、アメリカのファンにもすんなり受け入れられたようです。

神山監督と川島氏の対談

西村:監督のあるある感は、作り方の影響もあるように思います。例えばULTRAMANの3DCGはモーションアクターDBで作られていました。

神山:共同監督の荒巻監督は、日本では一番、モーションキャプチャを使った映像の先駆者で、作品も多い。僕が培ってきた演出の経験を活かしながら、二人でモーションキャプチャを使った作り方をアップデートしていきました。手で描くアニメーションとは違って、キャラクターがリアルなんです。

川島:戦闘シーンがすさまじいですね。ヤバイと思いました。

神山:あの長いアクションシーンで、複雑なウルトラマンの動きを手描きで作るのはとても大変です。普通のアクションシーンは5分あるだけでも、「アニメーターは無理です」という声を上げられる(笑)。1話まるまるアクションシーンで作ることができたのは、モーションキャプチャを使った3DCGだからこそ、実現できました。

川島:渋谷の街がそのまま出てくるんですよ。それがまさに現実にウルトラマンがいると錯覚させてしまう。

神山:日本のアニメでCGを使っている作品の舞台は渋谷が多い。これまでの多くのCG作品が渋谷で作られているので、渋谷のモデリングの精度が上がり、使いやすいということもあります。これもあるある感に貢献している部分だと思います。

神山監督と川島氏の対談

西村:Pokémon GOのジムも多いような気がします。

川島:Pokémon GOのポケストップも、ジムになっているところは、まさにIngressでエキゾチックマターが出ているのとほぼ同じ場所なんです。そもそもエキゾチックマターが湧いている場所が渋谷に多かったんです。

普段は見過ごされているけど、一つ路地に入っただけで、普段とは違う景色が見えるのが日本の街の楽しいところですよね。アプリを開くとそれが見つけられたり、いろんな楽しいものに出会える。神山監督もすごくPokémon GOを気に入ってやってくださっているんですよね。

神山:レベルは40です。

川島:最高レベルなんてすごいです。本当にありがとうございます。

西村:神山監督からみて、Nianticの作品はどのように捉えられていらっしゃるのでしょうか。

神山監督と川島氏の対談

神山:僕のように、アニメをやってきた人間は想像できないところまで、Nianticのゲームのテクノロジーは進化しています。その技術の部分が気になって、プレイが面白くないということもない。すごいテクノロジーで作られているけど、小さな子どもでも高齢者でも始められる。ハードルが高くないところがすごいところだと思っています。

僕は海外に出張するときも、コツコツとPokémon GOをやっていたのですが、Pokémon GOは海外の人と友達になるツールでもあるんですよ。アメリカは日本より土地が広いので、日本のように人が集まることがない。

だから逆にやっているとわかるので、「君のレベルを見せて」というような会話が始まるんです。ユーザーになるハードルの低さと、裏側で動いているテクノロジーの格差がすごい、そこが素晴らしいところだと思います。

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