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神山健治監督とNiantic川島優志氏が語る ──アニメとゲーム業界で活躍する最強ITエンジニアとは

攻殻機動隊SACシリーズの監督を務め、日本のアニメーション業界を牽引してきた神山健治監督と、神山監督の大ファンでもあるNianticの川島優志氏が対談。前半に続き、後半は神山監督、川島氏がアニメーションやゲーム業界で求められる最強のITエンジニア像について熱く語り合った。モデレータをHEART CATCH 代表取締役の西村真里子氏が務めた。

神山健治監督と川島優志氏対談

神山監督、川島さんが考える最強ITエンジニアとは

西村:神山監督、川島さんが考える最強ITエンジニアとはどんな人材でしょうか。

神山:僕がアニメーションの現場でよく思うのは、作りたいものが具体的にあるのにコードを書けないアーティストが多いこと。一方で、その技術を持っている人はオペレータで終わってしまっていることが多い。CGアニメーションの創世記には、ゼネラリストと呼ばれる人が多くて、コードを書けることを含め、絵作りをトータルでできる人が多かったんです。

しかし、今のアニメーションの現場では、ゼネラリストよりもスペシャリストが求められる。トータルでできる人がどんどん少なくなっているんですね。だからどうしても枯れた技術を使うしかなくなって、行き詰まってしまう。一方、アメリカではなんでもできるスーパーマンの数がすごく多いような気がします。

神山健治監督

▲アニメーション映画監督 脚本家 神山 健治氏

川島:僕は日本のGoogleでも米国のGoogleでも働いていたので、いろんなエンジニアを見てきました。僕が見るすごいと思うエンジニアの特徴は、第一に余力がある人です。

例えばコーディングをしている傍らで、実はクロスワードクイズの国内チャンピオンだったりします。バイクで全国を走ってその様子をYouTubeで流し、日本でも有数のYouTuberになっているというような。仕事以外でも、常に何か好奇心を持っている。天才だなと思う人はそういうタイプが多いですね。

今はわかりませんが、僕がいた頃のGoogleでは、どれだけ速くタイピングするかを競い会うサイトが社内にあって、何百人というエンジニアがそれに挑戦していました。そこで上位に並んでいたのは、エンジニアの中でもレジェンドと呼ばれているすごい人たちだったんです。単純に優秀で生産性のある人はタイピングも速いんだなと思いました。

川島 優志氏

▲Niantic, Inc. アジア・パシフィック オペレーション 副社長 川島 優志氏

神山:天才アニメーターも描くのが速いですね。

川島:人の何倍も速くタイピングできたり、描ける人は、間違いも人よりも多く、その改善も多く経験できます。そういうイタレーション(反復)を速くできることも、最強のエンジニアの条件と言えるでしょう。

神山:僕もそう思います。

川島:速く手が動けば、同じ作業を人の半分の時間でできる。もう半分の時間で趣味に関することができます。Ingressのアニメの櫻木監督は、普通の人が3枚描く時間で5枚~10枚を仕上げるそうです。キーボードがとにかく小さくて、さらに不必要なキーは全部取っているとか。

神山:押さないキーは外しているらしいです(笑)。

川島:よく使うキーには、滑り止めのパッドが敷いてあるそうですね。とにかく何百回、何万回と、作品が終わるまでキーボードを打つので、ほんの数秒の節約が積み重なる。「何秒かの節約が積み重なると大きくなるんです」と話していました。デキる人は生産性が高くなる工夫をしているんです。

神山:私が思う最強のエンジニアは、プログラミングができて、ソフトも使えて、かつ最終的なゴールから逆算して、自分のやるべきことがわかっている人材だと思います。多くの人が入り口や目の前にあることに集中してしまうが、スゴイ人は最終ゴールから逆算しているような気がします。

神山健治監督と川島優志氏対談

もちろん、作ってみないとわからないところはありますが、ある程度ゴールをイメージし、途中経過でどんなものが必要か考える。この経過まで行くと遡れなくなるので、2個前の工程までに仕込むというように、俯瞰して見ることができる人。これができるのは、ゼネラリストの方だと思います。

例えばモデリングだけをやってきた人は、それをどのように動かすかは考えていないことも多い。リガー(リグと呼ばれる動かす仕組みを設定する人)も、俯瞰的に見ることができる人とできない人ではリグの入れ方も変わります。

勘のいい人は、「夕焼けは太陽のある側はオレンジだけど、太陽のない側はグラディエーションがかかってだんだん青くなるので、切り返しを青くしてほしい」と伝えると、絵を描いたことがなくても、すぐ取りかかってくれる。多面性を持っている人が、僕らの現場でも最強のエンジニアであり、最強スタッフだと思います。

西村:最強のエンジニアの条件である、ゴールを見て動ける人、ゴールが見えるような勘のいい人にはどうしたらなれるのでしょうか。

西村真里子氏

神山:僕はエンジニアではないので、もしかしたらちょっとずれたことを言うかもしれませんが、何かものを見るときには異なった視点で見ることです。僕は映画を観るとき、主観だけで見ていません。お客さま側の視点でも見るようにしています。これは作り手になった場合も同じです。

川島:もう一つ、別の視点を持つことはそうですね。例えば、ライゾマティクスの真鍋大度さんも最強エンジニアの一人だと思っています。真鍋さんはDJもやっているのですが、横断歩道で信号待ちをしているとき、目をつぶって周りの音を聞くことで、信号が変わったかどうかを判断して耳を鍛えているそうなんです。

真似してみると、普段歩いている道が、違うような音に聞こえるんです。異なる視点や考え方のヒントは身の回りのあちこちに転がっているのですが、それに気付くことはなかなか難しい。常に意識して探していくことが大事だと思います。

おそらくアニメ分野で活躍できるエンジニアとは、エンジニアの領分だけではなく、絵を描いたり、演劇したり。本業とは異なるエンターテインメント分野に積極的にチャレンジする好奇心がある人なのではないでしょうか。

【Q&A】会場から寄せられた質問を紹介

10分間の休憩の後、神山監督の「日本のエンジニアさんが、地位が向上してお金が稼げて楽しい仕事になりますように。乾杯!」という発声で後半戦がスタート。会場もリラックスした雰囲気となり、質問も多数寄せられた。

神山健治監督と川島優志氏対談

Q.小島監督のゲーム「ポリスノーツ」の映像監修をされていましたが、インタラクティブアニメーションに興味はありますか?どのような可能性を感じますか?

神山:「ポリスノーツ」は25年ぐらい前に、僕が初めてアニメーションの演出としてクレジットされた作品です。小島秀夫監督と仕事したことが、今の僕の基礎を築いたと言っても過言ではないぐらいの経験でした。

当時はまだアニメーションの業界にデジタルが入ってきていない時代。フィルムスキャンからデータ化するという小島監督のやり方を見て、僕たちは信じられないぐらい最先端技術に取り組んでいると驚いた記憶があります。ポリスノーツはアニメにすると7時間分ぐらいの脚本でした。

小島監督からは「ただ、アニメーションにしてほしい」というオーダー。本来は全編テレビアニメのように動いている絵がほしかったのかもしれませんが、こちらも何を発注されているかわからない状態でした。それぐらいゲーム業界とアニメ業界の間には深淵が存在している頃だったのです。

僕は当初、美術監督として呼ばれていました。しかし、何をどうすればいいのかわからないため、なかなか美術の発注がこないんです。その待っている間に台本を読んでいたんです。全部を映像にした場合、フィルムスキャンでデータ化するアニメスタジオはありません。

それをコナミ側でやってもらえるのか、予算が大きくなるけど難しくはないのかなどという話をしたところ、「じゃあ、君がやって」と(笑)。なぜか演出の作業をすることになりましたが、僕にとっては素晴らしい体験となりました。

神山健治監督と川島優志氏対談

西村:面白いですね。7時間の脚本を読む必要はなかったものの、読んだからこそ、次のキャリアにつながったということですね。

神山:インタラクティブに興味があるかという質問に戻ると、その時に、「ゲームはなんて深く掘りさげることができるんだ」という驚きがありました。小島監督のイメージでは、2時間の映画を作っているつもりだったそうです。ゲームもあってストーリーもある。いくつかの分岐を当時から遊べるようになっていました。

アニメは一方向なので、こちらが提示する絶対的な面白さがあります。実はこの面白さがあるから、映画がなくならないんです。映画はクリエイターが自分の任意で作った時間軸で相手を納得させる芸術。そこには絶対的な面白さがある。

映画を一回作った人は映画を作ることをやめないし、ゲーム業界から映画に入っていく人がいるのは、作り手になったときに映画が持つ絶対的面白さがあるから。双方向性とストーリー、この2つが書けるのはいいなと感じましたね。

神山健治監督と川島優志氏対談

西村:Pokémon GOのストーリーは、プレイヤーごとにストーリーがありますからね。

川島:そうですね。ゲームの中にストーリーがない半面、プレイヤーごとにストーリーがあるんです。

神山:Ingressは映画ではできない、フィクションが叶わないドラマが、次々と生まれています。

川島:インタラクションがスマホのゲームの中で行われているだけではなくて、実際にクラウドファンディングでセスナを借りて、アラスカまで飛び、難攻不落のポータルを崩しに行くようなことをするプレイヤーもいますからね。

西村:お二人が組んだら、今までにない面白いゲームができそうですね。ぜひ、作っていただきたいです。

川島:何かできればいいですね

神山:こちらこそ、ぜひ。

Q.もう一つの視点という話があったが、私はゲーム製作者だがゲームで素直に遊べません。制作者視点を排除できない。神山監督は映像鑑賞の時に製作者の視点を完全に排除して一本最後まで純粋に楽しめるのでしょうか。そのコツは?

神山:僕は楽しめます。誰もが複数の視点で映画を観ているそうなんです。単純にストーリーを追いかけていくという見方がありますね。次はどうなるのか。先を予測しながらストーリーを追う見方、過去に自分が体験したものと今起きている映像と照らし合わせながら見る視点。そして1時間経つから、そろそろ解決するだろうという違った見方です。

「こういうカットは作るのが大変だっただろうな」という制作者側の見方をすることもありますが、最初の1回は純粋に楽しめます。

川島:僕も楽しめます。株式会社ポケモンの石原恒和社長は、伝説的なゲーマーなんです。囲碁の腕前もスゴイですし、バックギャモンのスマホゲームでも日本国内で一桁台になったこともあるぐらい。Ingressを紹介したら、すぐ始めてくれました。忙しい方なのに、Ingressもかなりやりこんでくれたんです。

Googleの社内イベントで石原社長に、ポケモンがどのように世界を変えていったかという講演をしていただいたんですね。その講演の最後で、「ところでみなさん、Ingressをやっていますか?」と問いかけ、六本木界隈に多重コントロールフィールドをどうすれば引けるかという解説を淡々と始めたんです。

Ingressを知らない社員は、何が画面で行われているかがわからない。ですが、その全力で楽しむ姿勢が、Pokémon GOが誰からも面白いと思えるゲームにつながったんじゃないかと。こういう楽しむ気持ちは、仕事とは別に持つことが大事だと思います。

 

神山健治監督と川島優志氏対談

神山:そうですね。自分の作品を見なくなる時期がありますが、それも良くないと思います。ある日本の起業家が話していましたが、その方は自分の会社の商品は自分でお金を出して買うんだそうです。商品の価値がその金額に見合っているかどうかが実感できると。それにも通じる話だと思いました。

Q.僕はプログラムを勉強してエンジニアになりました。絵を描いたりするのは苦手で、弱点だと思っています。その弱点を攻略したいのですが、そのやり方やモチベーションを維持するコツがあれば聞かせてください。

神山:好きじゃないことをやるのは、なかなか難しいことです。新人の時に、上司に「好きに絵を描いていいよ」と言われて絵を描いたら、色のない絵ができ上がりました。その時、「致命的に色感がない。色感と構図はもって生まれた感性で作られる。だからお前に美術監督は無理だ」と言われました。

その時、僕は愕然としましたが、苦手なことを言葉にしてロジックで攻めることにしたんです。たくさん色が使えている人はどんな色を使っているのかを推理して、言葉にする。理屈で色の数を増やせるようにしたら、気がついたら、自然に好きじゃなかった色も使えるようになっていた。ガムシャラにやるのもいいですが、構造の部分を一度言語化してみることもお勧めします。

この方法は苦手な英語の克服にも使えると思っています。英語で何が苦手なのか考えたら、読めない文字があることを発見したんです。小文字のbとdが入っていると、単語が読めなくなるんです。そこで文字からアプローチするのではなく、音で覚えていくように視点を変えたら、開くのも嫌だったテキストが開けるようになりました。苦手だと思っていることを言語化することは有効です。

もう一つの方法としては、人に聞いてみること。質問しまくることです。「致命的な色感と言われましたが、これはどうやって描いているのですか」というように。すると天才タイプの人は説明できないので、「色は目で出すんだよ」などと言うのですが、観察していると隣に色を置いたりして確認しているんです。そんなかんじで苦手を克服したことがあります。

 

神山健治監督と川島優志氏対談

川島:僕もいまだに英語は苦手です。Googleに転職する前に働いていたロサンゼルスのデザインプロダクションの入社する際の面接で、マネージャーに英語のプレゼンをしたんです。無事入社することができ、1年後のクリスマスパーティーで当時のマネジャーと飲んでいたとき、「マサ、お前が1年前に入るときに、プレゼンしてくれたけど、何を言っているのかさっぱりわからなかった」と言われたんです。

僕は渾身の英語プレゼンをしたはずなのに、見せたもの以外は何も伝わっていなかった。
彼としては1年経って、ずいぶんとお前は英語が話せるようになったなという意図で言ってくれたのですが、それ以来、英語は苦手。息子にも発音を馬鹿にされる。それでも、話すしかないんです。

自転車と一緒で乗るしかない。話せば聞いてくれる。人間対人間なので、通じ合っているだろうと押し切る。そして分からないときは、プライドを捨てて聞くこと。こいつ英語がわからないんだなと思われたとしても、必ず聞いた方が良い。そして覚える。その繰り返しだと思います。

神山:相手は聞かれると意外に喜んでくれますからね。

Q.Pokémon GOを開発する上で一番大変だったこと。それをどう解決したのかを教えてください(技術面で)。

川島:僕はエンジニアではないので技術面を答えるのは難しいですが、現場の人間はあらゆる面で大変でした。Pokémon GOをローンチしたときは、ナイアンティックの社員は全体で50人。その内、専任のエンジニアは10人程度。その人数でものすごい量のアクセスを捌いてました。

大変なミスをしたり、上手くいかなかったりしたときに、チームの強さや本当の姿が出ます。大変だったのは、シカゴでポケモンGOの公式イベントを最初に開いたときに、通信障害が発生したことです。

何万人もの人がそこに集まっていたのに、プレイができない状態になったんです。そのときに現場で創業者のジョン・ハンケがステージの端に座り、一人ひとりに対応していったんです。その場所から逃げ出したくなるような問題が起こったときに、目の前のこと一つ一つに逃げずに取り組んでいく。それが一番大切なことだと思います。

神山健治監督と川島優志氏対談

神山:たくさんありすぎて思い出せません(笑)。日々、問題が発生します。スタッフと話しているうちに、誰かが対策を思いついたりするので、絶対、解決のできない問題はありません。僕だけの哲学かもしれませんが、最終的にゴールに行ければいい。なので、途中で失敗したり、解決できないことがあったら、一旦止めて、最短でゴールでいける方法を考えようと、フレキシブルに動くことだと思います。

川島:そうですね。ゴールを自分で決めたらそこに向けてやりきること。シカゴのイベントは、翌年も開催したんですよ。ちゃんと向き合って大成功させました。失敗を失敗で終わらせない。ちゃんと目標を定めてそこまでいくんだというガッツを持つ。それが最終的には力となり、キャリアを形成していくと思います。

西村:神山監督、川島さん、貴重なお話、ありがとうございました。

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