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ファッション・建築はテクノロジーでどう変わる?──ANREALAGE森永氏×noiz豊田氏が対談【前編】

ファッションと建築。いずれも歴史のある業界だ。だが、ANREALAGEのデザイナー森永邦彦氏と、noizの建築家である豊田啓介氏は、私たちが一般的にイメージするファッションや建築とはまったく異なる「ファッション」や「建築」にチャレンジし、新しい価値観を生み出している。その新しい表現を生み出す源とは何なのか。1月24日に開催された「sight update session」では、HEART CHATCHの西村真里子氏をモデレーターに、森永氏、豊田氏による熱い対談が行われた。

ANREALAGE森永邦彦氏×noiz豊田啓介氏

noiz豊田氏が考える「建築」とは?

西村:森永さんと豊田さんは、それぞれファッションと建築の業界第一人者。ぜひ今回はお二人からインスピレーションを得ていきたいと思います。まずは自己紹介からお願いします。

豊田:私たちが今、積極的に取り入れているのがコンピューティショナルデザイン。設計や施工、使い方や価値の現れ方がどう変わるかなどをコンピュータでシミュレーションし、コンピュータ自身にもある程度形態生成を委ねるという手法です。noizはそれを実験的かつ実効的に行っている設計事務所です。

noiz豊田啓介氏

▲noiz 豊田 啓介氏

東京大学工学部建築学科卒業。安藤忠雄建築研究所を経て、コロンビア大学建築学部修士課程修了。アメリカのSHoP Architectsを経て、2007年より東京と台北をベースに建築デザイン事務所noiz(東京・台北)を蔡佳萱、酒井康介と共同主宰。建築を軸にプロダクトデザインから都市まで分野を横断した制作活動を行う。コンピューテーショナルデザインを応用したファブリケーション、システム実装の研究のほか教育活動等も積極的に展開。2017年より金田充弘、黒田哲二とともに、建築・都市文脈のプラットフォームgluonを設立。テクノロジーベースのコンサルティング活動を行っている。

ただ最近、「モノのプログラムだけ作ってください」「未来の社会や業態はどうなるか、そのビジョンを一緒に構築してください」という仕事が増えてきました。そこで、デジタル的な知見のアウトプットがこれまでの建築物とは異なっていても、「これは建築だ」と思いながら、取り組んでいます(笑)。

例えば、森永さんと一緒に組んで取り組んだ「ROLL」というプロジェクトもそうです。この作品のデジタル技術の適用を、コンセプト段階から協力しました。きっかけは森永さんがロボットアームを使いたいと言ったこと。

ですが、布とロボットアームは相性が悪い。そこで布(デニム)をプラスチックで固めてバームクーヘンのようにロール状にして、ロボットアームで削ることにしました。だからコレクション名が「ROLL」なんですね。一つの技術にこだわることで、「布とは」「着るという行為とは」「ファッションとは」という根源的な問いに対する一つの答えを届けられたような気がします。

ANREALAGE森永邦彦氏×noiz豊田啓介氏

西村:森永さん以外にも、ファッションデザイナーさんと組んで何か取り組まれたことはあるのでしょうか。

豊田:「BAO BAO ISSEY MIYAKE」というブランドと組んで、いろいろやっています。BAO BAOさんからリクエストされたのは、柔らかいLEDディスプレイを使った展示をしてほしいということ。そのディスプレイの解像度が低くて、どうすれば柔らかさをうまく出すことができるのかすごく苦労しました。

最終的には、BAO BAO独特の三角形が連続するパターンが、自律的に変化していくアルゴリズムを組みました。それをLEDディスプレイの映像としてアニメーションとして映す。そして、ディスプレイの下に仕込んだファンからランダムに風を送ると、ディスプレイがのれんのように動く。あたかも情報としてのデータが物質と一緒に飛んでいくような表現ができました。

西村:noizのメンバーは情報だけではなく、マテリアルのリテラシーを持っているのでしょうか。

ANREALAGE森永邦彦氏×noiz豊田啓介氏

豊田:モノはモノ、情報は情報というように、違うものとして扱われることが多いですよね。でも実はこの境界はすごく曖昧で、モノだと思っていたが情報だったり、情報だと思っていたものがモノとして扱っていることがあります。

例えば3次元のものを作ることが建築だとすると、僕らは時間の工程や素材、工法、工期など、実際には三次元以上の高次元のものを扱う。それを3次元の形として表すプロフェッショナルでなければならないんです。

このように超高次元のものを扱っていても、建築の世界は図面や模型など、2次元か3次元の伝達方法しか持っていなかっただけ。建築は図面や形で表す形でしかないなど、矮小化しているところがあります。

デジタルであれば、高次元情報をそのまま流通させることができます。つまり、より動的に高次元情報を、客観的に扱えるパスができる。僕たちは建築をもっと高次元なものとして捉え、それを動的かつインタラクティブにすることにチャレンジしているんです。

建築を拡張するとゲームの世界に近づく

西村:建築の幅を拡げていくと、限りなくCGの世界に近づいていくような気がしました。

西村 真里子氏

▲株式会社HEART CATCH代表・プロデューサー 西村 真里子氏


豊田:高次元情報を形や動きなどの他次元で扱うことは、建築は対象外。映画やゲームが対象先になります。例えばフルCGの映画の進化の歴史は面白くて、昔はパッチをいくつかにわけてそれをスライダーで入力していました。

今のCGは制御点が多く、物理シミュレーション関連の技術も圧倒的に進んでいます。1000万分割のパッチを手で入力するのではなく、表情や動き、音声などを有名な俳優さんを呼んできて、モーションキャプチャ―で一発撮りする方が安くて合理的、効果的なんです。

ところが、こうした人体のスキャンやシミュレーションで使われるようなセンサーやシミュレーションは建築領域ではほとんど使われていません。建築物が動いたり変化したりすることを前提としたシミュレーションはまったく行われていないんですね。一方ヒューマンマシンインターフェースの領域では、例えば事故などで腕を失った人向けに、筋電義手が開発されています。

これを動かせる人は、トレーニングするとお腹に3本目の手がついても動かせるでしょうし、4本目の手を背中についても動かせるようになる。手の形をしている必要はありませんし、自分の肉体を拡張していける可能性もあります。

ANREALAGE森永氏×noiz豊田氏

身体と環境は二択で背反だと思っていたものが、どんどんシームレスになっている。つまり、身体を拡張していくことで、環境も身体の一部のように制御することができるようになる。例えば誰でも部屋の照明もスイッチを触らずしてオンオフができる。そういったときに、誰の操作を優先するのか。年齢なのか年収なのか、立場なのか。そういった判断と権限の配分をだれかがしないといけなくなります。

こうした技術が実装された5年後10年後の世界は、建物にOSとしてのAIがインストールされ、優先制御させる設備とセンサーが入っている。その先端技術を今の建築が持っているかというと、まったく持っていないんです。

西村:建物が呼吸するようになってもいいということですね。

豊田:そうです。自律的に変化する建物でも良いと思います。例えば建物のAI、移動媒体、ARのアバターなど。いろんなデジタルエージェントがこれから飛躍的増えていく中、そうした人でない存在がどうこの物理世界を認識し、制御するかが想像以上にクリティカルになっていきます。つまりこれからは、人間ではない視点で、建物や街を作らなくてはと思うんです。

では物理世界をどう認識するかを考えるとすると、ゲームエンジンの世界に近づいていくんですね。だから僕らはゼネコンと話をするより、ゲーム会社と仕事をすることが圧倒的に多くなっているんです。

noiz豊田氏

西村:「SHIBUYA CAST.」はまさにその代表的な事例ですね。

豊田:SHIBUYA CAST.も本当は「風」のパターンだけではなく、季節や天気をシミュレーションし、パネルを動かしたかったんです。建築や都市は1秒の世界から数百年までいろんなタイムスケールを持っています。使っているうちに見える形で変化するもの、10年単位で変化するもの、数カ月単位で変化するものがある。

では今都市や建築にどんな可能性があるかというと、いろいろな情報のレイヤーの中で、今の流動的で遺産的なプラットフォームを作ったらどうなるか、という実証実験を大阪万博の会場で行う予定です。3次元に閉じることなく、4次元、5次元に拡張していく都市を築くための試みです。「2025年大阪・関西万博誘致計画案」は、そうしたモノだけでは表現しきれない高次元の未来都市の展示の一つの形としてPARTYさんと製作したもの。3月29日まで東京・六本木の森美術館の「未来と芸術展」で展示されています。

西村:自分のコンディションや状況によって変わり、建物として地図上に掲載されるものではないものも、すべてを建築として設計していくこと。それこそが、本当の建築だと思っているということですね。

豊田:AR上の建築も価値を持つはずなので、それがどう物理世界とは独立しているか、重なっているか、どっちが価値を持つか、いろんな選択肢が出てくると思っています。

森永氏が手掛けるブランド「ANREALAGE」が目指すもの

西村:森永さん、ロボットアームを使ったコレクションを始めたきっかけは何だったのでしょうか。

森永:ファッションのテクノロジーで代表的なのはミシンです。そのミシンの針の動きだけで、洋服を作ることから脱却したいと考え、豊田さんに相談していたんです。

ANREALAGEは名前の通り、日常と非日常を組み合わせた形でファッションを作っています。テイストは3つ。ブランドの初期は手作業にこだわり、人の手をたくさん施したものづくりをしていました。

次に完全球体など、人の身体から大きく離れた洋服の形にたどり着きました。球体はサイズも男女関係なく誰もが着られます。また、縦横比率を変形させたマネキンに服を着せたらどうなるかというコレクションを展開しました。

ここ6~7年はパリで、今までにない素材や糸をファッションの中に取り入れ、半年に1回ごとに洋服にテーマを設けてコレクションを発表しています。

ANREALAGE デザイナー森永邦彦氏

▲ANREALAGE デザイナー 森永 邦彦氏

大学在学中にバンタンデザイン研究所で服づくりを始める。2003年「アンリアレイジ」として活動開始。2005年東京タワーを会場に東京コレクションデビュー、同年ニューヨークの新人デザイナーコンテスト「GENART 2005」でアバンギャルド大賞を受賞。2011年、第29回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞受賞。2014年よりパリコレクションへ進出。2015年フランスの「ANDAM FASHION AWARD」のファイナリストに選出される。2017年パリコレ以降の作品を展示した「A LIGHT UN LIGHT」展を国内で開催。2019年フランスの「LVMHPRIZE」のファイナリストに選出。

西村:ロボットアームを使うという発想は、どこからインプットを得ているのでしょうか。

森永:日常の中の非日常をテーマにしているので、「ファッションにおける日常とは何か」を観察をしています。例えばミシンで作ること、洋服にサイズがあること、色があることに気づく。洋服の当たり前を見つけ、それに対して非日常なアプローチをしていくやり方です。盲目の方と一緒に、洋服を考えたのもその一例。車の内装など、ファッションの領域を超えたコラボレーションも、ブランドとしては多い方だと思います。

西村:パリでコレクションを発表されていますが、トラディショナルなファッション業界からはどのような存在として認識されているのでしょう。

森永:パリのファッションは、真ん中にエレガンスがあって、いかに美しいものを作るのかという世界です。僕はそれとは異なり、これまでまったく使われていなかったものをファッションに組み込むことで注目されています。先日、FENDIのコレクションでコラボレーションできたのも、そういった取り組みからだと思います。

ANREALAGE森永邦彦氏×noiz豊田啓介氏

豊田:FENDIが日本人デザイナーとコラボするのは、FENDIの長い歴史の中でも初めてだったんですよね。

森永:95年の歴史のなかで初めてのことだそうです。展覧会も最近は積極的にやっています。ライゾマティクスと組んで、「『A LIGHT UN LIGHT』という展覧会も開催しています。

ロボットアームを使った「ROLL」というコレクションは、ジャポニズム2018「「深みへ‐日本の美意識を求めて‐」展で、縄文土器と一緒に展示されました。この展示は、現代美術館参事の長谷川祐子さんが「縄文土器に近いものを感じる」と言ってくれたことで、実現したんです。2019年には「LVMHPRIZE」のファイナリストに選出されました。

日常の中の非日常に着目する

森永:テーマは「日常の中の非日常」です。これは室内で見ると真っ白に見えますが、外に出ると色がまとえる洋服です。中には花柄が浮かび上がる作品もあります。このコレクションは7年くらい続けており、このシリーズをアップデートした作品をFENDIのコレクションで披露しました。

これらの洋服は太陽光があたった部分が変色するので、普段意識をしない洋服の陰の箇所を認識することができます。襟の裏などの色が変わっていることで、気付くことができます。光の反射によって変化する洋服もあります。対象物は同じでも、見ている環境で変わるということを、日常の中の非日常になぞって表現をしています。

ANREALAGE デザイナー森永邦彦氏

西村:このようなコレクションは、素材から探して作っていくのでしょうか。

森永:糸に入れる色素、ガラスビーズをどういう形状にするか、どの大きさにするか、色素であれば、その色素をどういう温度でどういうペレットにして糸にしていくかなど。素材から、かなりの時間をかけて作っています。

西村:豊田さんも縄文土器を使ったアウトプットがあるんですよね。

豊田:新潟県長岡市を中心に活動が行われている「縄文文化発信サポーターズ」の「縄文オープンソースプロジェクト」に参加しました。まず、火炎土器の特徴である紐状の構造から線径データを抽出します。それを使って、縄文的なDNAを持った群生的な形状を生成する。それを建築の形としてビジュアライズしました。

西村:コレクションでもそういったアプローチを取っているのでしょうか。

森永:コレクションを発表する作品は、それを度外視していますね。コレクションは洋服や素材の可能性を含めて、そういうものの実験の場だと捉えています。もちろん、僕らは洋服を販売することで、企業としては成り立つ。コレクションで発表したコンセプトをどう落とし込み、どう販売するかには注力しています。

ANREALAGE森永邦彦氏×noiz豊田啓介氏

西村:コレクションは新しい可能性を見せる場なのですね。豊田さんはいかがでしょう。

豊田:建築の場合、もちろん最終的に人が使うものであることは前提ですが、「建築=3次元の空間」という常識を拡張させたいんです。僕はひねくれているので、既存の建築界の常識に対してあえてこういうチャレンジをしている側面があるのですが、森永さんは純粋に可能性にチャレンジしているのでしょうか。

森永:自分の性格的にはまっすぐなタイプなので、斜に構えての視点はありません。ただ、本当にもし服がこうなったら、服としてどうなんだろうと考えているだけなんです。

豊田:前提を覆してみたい、その外側を見てみたいという純粋な興味なんですね。

森永:そうですね。洋服は身近にあるのにも関わらず、謎の部分もある。またファッション界にも、色展開やサイズ展開、ボタンの位置はレディースとメンズで逆とか、不思議なルールがあります。それらに疑問を抱き、なぜなんだろうと考えることが多いんです。

西村:豊田さんは、それだけが建築ではないだろうとギラギラとした思いでやっているのですか。

豊田:半分はそうですが、今の建築の外側にもっと可能性の領域があるはずだというのが僕の信条なんです。建築はとても重厚長大な産業なので、今までの歴史に引っ張られてしまう。引っ張られないための手段として、斜に構えているんです。

ANREALAGE森永邦彦氏×noiz豊田啓介氏

西村:面白いですね。森永さんが、もし建築をやるとしたらどんな形を作りたいですか。

森永:人を建築スケールにした、人型の建築です。ファッションの魅力は着替えられること。この人型の建物も夏はドレス、夜はパジャマになったり。風でドレスがなびいたり、光でドレスの色が変わったり。着替えはヘリコプターで行う感じですね。ファッションの概念を取り入れた建築はあってほしいと思います。

西村:街の表情を表す建物は面白いですね。豊田さんが服を作るとしたら、どういうものを身にまとわせたいですか。

豊田:森永さんは服と人間の関係性の間に、一度何かを介在させることで関係を変えている。大黒岳彦さん(明治大学大学院教授)が、「情報の概念は、モノとモノとの間の入れものとして伝達するパーティクルではなく、それ自体が独自の要素。物質的な主体視点で理解しようとすること自体から考え直す必要がある」と論じていたんです。

そんな中で、関係性の方に服を着せるのはどうだろうと。例えば人が二人いないと成立しない服があって、二人の位置的な関係性によってのみ形が定義されるとか。そういうことを考えてみたいですね。

ANREALAGE森永邦彦氏×noiz豊田啓介氏

ファッション・建築はテクノロジーでどう変わる?──ANREALAGE森永氏×noiz豊田氏が対談【後編】を読む