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ファッション・建築はテクノロジーでどう変わる?──ANREALAGE森永氏×noiz豊田氏が対談【後編】

ファッションと建築。いずれも歴史のある業界だ。だが、ANREALAGEのデザイナー森永邦彦氏と、noizの建築家である豊田啓介氏は、私たちが一般的にイメージするファッションや建築とはまったく異なる「ファッション」や「建築」にチャレンジし、新しい価値観を生み出している。その新しい表現を生み出す源とは何なのか。1月24日に開催された「sight update session」では、HEART CHATCHの西村真里子氏をモデレーターに、森永氏、豊田氏による熱い対談が行われた。

ANREALAGE森永邦彦氏×noiz豊田啓介氏

新しいことに挑戦するきっかけと源は?

西村:新しいことに挑戦し続けるきっかけは、どこから来ているのでしょう。

豊田:森永さんは、最初からファッションの道に進んだわけではなかったですよね。

森永:ファッションの専門学校に行ったのは、20歳過ぎてから。早稲田大学では社会科学部に所属し、ソーシャルとサイエンスを専攻していました。

ファッションをやりたいと思ったのは、大学に入学してからですね。予備校時代に、当時早稲田大学でファッションデザイナーとして活動していた神田恵介さん(keisuke kandaデザイナー)の話を聞いて、彼に憧れて、早稲田でも洋服作れるんだと思って進学してしまいました。

ANREALAGE デザイナー森永邦彦氏

▲ANREALAGE デザイナー 森永 邦彦氏

大学在学中にバンタンデザイン研究所で服づくりを始める。2003年「アンリアレイジ」として活動開始。2005年東京タワーを会場に東京コレクションデビュー、同年ニューヨークの新人デザイナーコンテスト「GENART 2005」でアバンギャルド大賞を受賞。2011年、第29回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞受賞。2014年よりパリコレクションへ進出。2015年フランスの「ANDAM FASHION AWARD」のファイナリストに選出される。2017年パリコレ以降の作品を展示した「A LIGHT UN LIGHT」展を国内で開催。2019年フランスの「LVMHPRIZE」のファイナリストに選出。


西村:神田さんの影響もあるかと思いますが、何がきっかけでファッションが面白いと思ったのでしょう。

森永:コムデギャルソンやマルタン・マルジェラなど、これまでのファッションの概念を打ち破るような洋服がたくさん出てきたことです。僕が考えていた装いやファッショナブルとは違う、何かの概念を変えられる強いモノがあると思い、ファッションにのめり込んでいきました。90年代後半のことです。

豊田:ファッションの歴史を知らないので、森永さんが打ち合わせでこういう話をしてくれるのが面白いんです。建築は学問的に体系化されていますが、ファッションって歴史でも理論でも意外なくらいに体系化されていませんよね。理論などを学べるものが出てくると面白いと思うのですが。

noiz豊田啓介氏

▲noiz 豊田 啓介氏

東京大学工学部建築学科卒業。安藤忠雄建築研究所を経て、コロンビア大学建築学部修士課程修了。アメリカのSHoP Architectsを経て、2007年より東京と台北をベースに建築デザイン事務所noiz(東京・台北)を蔡佳萱、酒井康介と共同主宰。建築を軸にプロダクトデザインから都市まで分野を横断した制作活動を行う。コンピューテーショナルデザインを応用したファブリケーション、システム実装の研究のほか教育活動等も積極的に展開。2017年より金田充弘、黒田哲二とともに、建築・都市文脈のプラットフォームgluonを設立。テクノロジーベースのコンサルティング活動を行っている。

森永:サイクルの速さもありますが、ファッションは残っていかないことを美学としていますからね。来年の今頃、まだ発売していないものを今考えているんです。1周半ぐらい早いですよ。ファッション業界のスピードは、尋常ではないと思います。

西村:2019年「LVMHプライズ」では、森永さんをはじめ、サスティナブルをテーマとしているブランドがたくさん残りました。その流れもファッション業界で出てきているということでしょうか。

森永:作り出すことだけにずっと注力してきた産業なので、着なくなったときにどうなるのかという視点は抜けていたんです。近年は、そこに対してアプローチするようになってきました。

僕がチャレンジしたのは、トウモロコシのデンプン質から糸を作り、それを土の中に入れて水分と温度を与えることで、微生物によって生分解されるコレクション。微生物に食べてほしいところ、欲しくないところを予めプログラミングして糸を配置。ナチュラルなビンテージ加工を施した服です。このコレクションをLVMHプライズで披露しました。

豊田:今までの服になかった時間のスケールを織り込むことは、誰もやっていない領域ですね。

西村:建築は時間のスケールが違うという話がありました。ファッションのようにトレンドを追いかけることはあるのでしょうか。

西村 真里子氏

▲株式会社HEART CATCH代表・プロデューサー 西村 真里子氏

豊田:建築にも間違いなく、トレンドがあります。例えば最近では、エシカルなものやポリティカルなもの、スタイル的に無形なものなどに注目が集まっています。

世界で活躍する建築家に贈られるプリツカー賞も、最近は社会的な活動をしているかどうかなど、3次元ではない価値領域も含めてバランスを考え、人選している。例えばヴァージル・アブローがルイ・ヴィトンのデザイナーに選ばれたのもそれと無関係ではない気がします。

森永:LVMHプライズでグランプリを受賞したのも、南アフリカ出身のデザイナーでした。そういう面はあると思います。

ファッション・建築で活躍できるエンジニア像

西村:このイベントの参加者は、大半がITエンジニアです。どのようなITエンジニア、プログラマがチームとしてやりやすいのか、ITスキルのある人とコラボレーションする際に重視している点について教えてください。

豊田:プログラマの定義次第ですが、うちはコンピューティショナルデザインをするので、ビジュアルコーディングする人、コードだけを書く人、一人で両者をやる人というように濃淡はありますが、社員の半分がプログラマという感覚ですかね。その中でデザイナーとプログラマのスキルセットの混ざり方にいろいろあってほしいというイメージです。

ANREALAGE デザイナー森永邦彦氏

今、求めている人材は、むしろ建築経験にはこだわらず、数学系のプログラミングをやっていた人です。僕らのところに来ると、その人が持っている専門性だけではなく、新しい技術領域、価値領域に対して広げながら、同時に掘りさげることが必要になってくる。そういう建築外の専門性を強く持っていて、でも繋ぐことに興味がある人とは一緒にやりたいです。

森永:テキスタイルを織る機械であるジャガード機には、プログラムが入っています。そのプログラムを書くのではなく、ジャガード機に何か違う機能を入れて、新たな創造ができるエンジニアがいたらうれしいですね。そうすればテキスタイルの織り方や編み方、質感も含めて、今までと違うものが生まれると思うからです。テキスタイルは縦横の世界なので、そこをもう一軸加えたいと思っています。

ファッションは時間軸が早い割に、プロダクトには時間軸が内包されません。例えばその時、その時の柄、どんどん違う柄が織り上がっていくなど、そういう流動的でアクシデント的なものを作れたらいいなと思います。

ANREALAGE デザイナー森永邦彦氏

西村:そういうかけ算をしてくれる人を求めているということですか。

豊田:テクノロジーによって表現の可能性が変わるきっかけはある。そういうエンジニアに期待したいですね。

【Q&A】会場から寄せられた質問を紹介

盛り上がった対談後、会場からの質問タイムに入りました。

ANREALAGE デザイナー森永邦彦氏

Q.森永さんの考えるファッションが一般化した世界は、どのような風景になりますか?
また、そういう状態を望みますか?

森永:ファッションのあり方は特殊です。一般化して多くの人が着れば着るほどファッションから遠ざかってしまうと思っています。他と違うことが価値を持っていくのが、今までのファッションが歩んできた歴史なんです。

例えばシャネルが登場するまでは、女性はコルセットで身体を締めつけるのが当たり前でした。シャネルは女性をコルセットから開放し、当時は男性の下着として使われていたジャージ素材をドレスに仕立て、提案したのです。

これは当時にとって非常にファッショナブルな出来事でしたが、今では一般化しています。今、私たちは黒色の洋服を当たり前に着ていますが、これを当たり前にしたのはコムデギャルソンです。ファッションとして出てきたものが、新しい景色が見える世界を望んでいます。

ANREALAGE森永邦彦氏

Q.領域の拡張や、前提に対する疑問視する視点は持っていると感じるが、逆に縛りや、ここは守るべきとして持っていることは何かあるんでしょうか。拡張するだけではなくて、守らなければならないもの。自分のルール、コントロールの領域についてあれば教えてください。

森永:例えばアイコンなど、物資的ではないものもファッションとして成立していると考えています。本質と社会の間にある皮膜のようなものが、ファッションが果たす役割だと思っている。守らなければならないものや、コントロールする領域については特に考えていません。

豊田:モノじゃないものもありうるということですね。

森永:画面の中でどういう自分を装うかさえもファッション、ファッションの考え方はどんどん拡張されていると思います。

西村:豊田さんは図面や建造物ではないところでも建築になっていると述べていました。その上で、建築家として何か縛りはあるのでしょうか。

豊田:自分の職業を問われたときに、説明する言葉がなくて困っています。最終的に建築家と名乗りますが、僕の言う建築家とはみなさんが思っている建築家とは違う広義の建築家。複数の次元を統合するスキルを持っているのが僕のイメージする建築家なんです。ただ、そのアウトプットがこれまでの建築には限っていないというだけです。もちろん建築や住宅の設計もしますよ。

ANREALAGE森永邦彦氏×noiz豊田啓介氏

Q.領域をまたいで仕事をしていく上で、他分野の情報をどのようにキャッチアップしているのか教えてください。

森永:僕は検索ですね。妄想したことに対して検索して、それに関わっていそうな人を見つけています。

豊田:僕は本やメディアです。Twitterでもいろんなジャンルの人をフォローして、関係のないことも流れるようにしています。また国籍や出自の多様性が保たれた環境をとても重視していて、例えばうちの事務所は、常にメンバーの過半数が外国人であることをルールにしています。そしてもう一つのルールは、一次情報のリサーチは英語に限定していること。特に新しいデジタル環境や技術関連の情報は日本語で出てくるのを待っていると圧倒的に遅れてしまいますからね。

Q.豊田さんが服を、森永さんが建築や都市を手掛けることになったら、どんなことをやりたいですか。

森永:大きいものが好きなので、地球上で一番大きな建築に手掛けたいですね。衛星写真でわかるぐらいの。

西村:森永さんや豊田さんが、理想としている世界に対してどういう活動すれば、お二人の世界が拡がっていくのでしょうか。

豊田:遊ぶという感覚を堂々とやれる雰囲気を企業の中に作ったり、専門性を多焦点にする努力をすることが大事だと思います。

自分の専門性を守る価値観に閉じず、遊びというポジティブな失敗を通して、他に強みを2~3点作っていく。その点を通じて面ができます。点の位置だけとかその深さとかだけではなく、そうやって複数の点で形成される面のデザインで自分の個性や特性を作っていくことができる人が増えると、僕らはコラボレーションしやすくなります。そういう価値観があると企業が変わっていくと思います。

ANREALAGE森永邦彦氏×noiz豊田啓介氏

森永:僕は服によって、人生がいろいろ変わる経験をしています。信じている人は少ないかもしれませんが、服は日常を変えてくれる。そういう視点で洋服を見てくれる人が増えるといいなと思います。

西村:マインドを変えてみるより、服を変えてみると冒険や挑戦ができる。遊びを服選びにも取り入れる。身近にできることですね。

Q.異なる分野の人と共同作業するとき、バランスを考えたり、自分の役割を意識しますか?

豊田:バランスを無視したり、バランスをとったりして進めています。プロジェクトで固定するわけではなく、時間もプレイヤーもバラけます。それを前提とした中で、波乗りのようにこの瞬間には締め、次の瞬間には開くということをしています。

森永:他の業種の人と仕事するときは、感覚的なものを言語化してしっかりコミュニケーションをすることを意識しています。

ANREALAGE森永邦彦氏×noiz豊田啓介氏

Q.サスティナビリティやエコが求められる時代になった未来、収益性やビジネスモデルはどう変わるべき、変わるはずだと思いますか。

豊田:ビジネスモデルは変わっていいきます。例えば博覧会のようなイベントでも以前は入場者数といえば、入場ゲートをくぐった人体の数がKPIだった。しかし、これからの博覧会はアバター来場やシステム構築参加など、身体性や場所性、時間の制約などを超えた、様々な参加と貢献の形が提供されるようになります。こうなるとKPIも変わるでしょう。建築という領域の中でもモノと情報がシームレスになる。ビジネスモデルも変わっていかなければ、価値が出なくなると思います。

森永:ファッションには大量生産をして、在庫を残すというのが悪という概念があります。ではなぜ在庫ができるかというと、色展開やサイズ展開が豊富にあるからです。そのボーダーを超える方法で、洋服自体のキャパシティを増やすことが求められてくると思います。

西村:お二人が取り組んでいることから、いずれも伝統あるファッションと建築の業界が変わりつつあると感じました。今日はありがとうございました。

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