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日本テレビ土屋敏男×バスキュール朴正義が対談──テクノロジーでエンターテインメントはどう変わる?【前編】

エンジニアが活躍することが期待される業界の第一線で活躍するトップランナーをお招きするトークセッション「sight update session」。第6弾は、日本テレビ『電波少年』のプロデューサーであり、現在はVRや3Dスキャナを活用したエンターテインメントを生み出し続ける日本テレビ土屋敏男氏と、バスキュール朴正義氏が「エンタメ×テクノロジー」をテーマに語り合った。

日本テレビ土屋敏男氏×バスキュール朴正義氏

新しいコンテンツは、新しいテクノロジーから生まれる

「進め!電波少年」シリーズでTプロデューサー・T部長として話題を集めた日本テレビ土屋敏男氏と、2020年に「きぼう宇宙放送局」の開局を目指すバスキュールの朴正義氏。二人の出会いは、2013年2月に放送されたNHKと日本テレビ初の共同制作番組だ。

常に面白いことや、新しいエンターテインメントに取り組んできた土屋氏と朴氏は、テクノロジーの進化で、エンタメがどう変わっていくと考えているのか。注目している分野、テクノロジーとは何か。HEART CATCH西村真里子氏をモデレーターに進められた対談の様子を紹介する。

西村:土屋さんは日本テレビに入社して、今年で40年なんですよね。土屋さんといえば、すぐ『電波少年』シリーズが頭に浮かんできます。当時はまだ大きなプロフェッショナルカメラで撮影するのが一般的だったときに、ヒッチハイク企画でハンディのビデオカメラを用いるなど、いろいろなチャレンジがあった番組でした。

西村真里子氏

▲株式会社HEART CATCH代表・プロデューサー 西村 真里子氏


土屋
:電波少年が始まったのは、1992年でした。電波少年は基本、スタジオセットを用意せず、ブルーバックの前に司会を立たせて、顔だけを映し、それをバックのCGアートに合成。びっくりしたときに司会者の目が飛び出したり、耳が大きくなったり、という映像効果をつけたこともこの番組から始まったと思います。

実はそれができたのは、世界に数台しかなかった機械にたまたま行ったソニーの技術展で出会ったからなんです。感情のデフォルメに使えると考えたんですね。有吉弘行と森脇一成のお笑いコンビ「猿岩石」が、海外でヒッチハイクしてゴールを目指すという企画も新しいチャレンジでした。

この番組が立ち上がる少し前に、ソニーからハンディサイズのHi8ビデオカメラが発売されると聞き、新製品発表会を見に行きました。これはテレビで使えると直感し、ヒッチハイク企画が生まれました。

ソニーのエンジニアは苦々しく思っていたかもしれませんが、技術は開発者が思ったものとは違う形で世の中に広がると思っています。

日本テレビ土屋敏男氏

▲日本テレビ放送網株式会社 社長室R&Dラボ シニアクリエイター 土屋 敏男氏
昭和31年9月30日静岡県静岡市生まれ。1979年3月一橋大学社会学部卒。同年4月日本テレビ放送網入社。「元気が出るテレビ」「ウッチャンナンチャンのウリナリ!」などバラエティ番組を演出。「電波少年」シリーズではTプロデューサー・T部長として出演し話題になる。2017年萩本欽一のドキュメンタリー映画「We Love Television?」を監督。一般社団法人1964TOKYO VR代表理事。東京大学情報学環教育部非常勤講師。今夏大阪で3Dスキャナを使った観客参加型ライブエンタテインメント「NO BORDER」企画演出。


西村
:そのヒッチハイク企画では、カメラマンではなく、ディレクターがそのカメラで撮影していたんですよね。ワークフローも変わったんですか?

土屋:そうです。それまではカメラマンが撮影し、VE(ビデオエンジニア)、音声、照明、さらにカメラアシスタントを入れると5人の技術スタッフが必要でした。ディレクターが民生機で撮影するとなると、技術スタッフがゼロになるからです。

普通の車に乗せてもらうには、3人が限界なので、以前のワークフローではヒッチハイク企画なんてできなかったんです。だから、ヒッチハイク企画なんて思いつかない。

僕はたまたまハンディサイズできれいな映像を撮れるビデオカメラを見つけたから、ジャンプできた。新しいコンテンツは、新しいテクノロジーから生まれる。これは確信に近いものがあります。

土屋氏がプロデュースする「テクノロジー×エンタメ」

西村:土屋さんは、その後もインターネット上の3次元仮想世界「セカンドライフ」内でテレビ番組を収録するなど、さまざまなチャレンジをされているんですよね。

土屋:セカンドライフもそうですが、間寛平さんの「アースマラソン」をYouTubeで配信したり、「1964 TOKYO VR」という1964年の東京を再現するプロジェクトも企画しました。

昨年の夏は、COOL JAPAN PARK OSAKA(クールジャパンパーク大阪)で、「NO BORDER」という3Dスキャナで来場者のアバターを生成し、そのアバターがステージ上で踊るライブエンターテインメントを興行として展開しています。

実際に踊っているのは、DA PUMPのメンバーなんです。だから車椅子の人や70代、80代の人でも、赤ちゃんを抱っこしたお母さんでも、キレキレのダンスが踊れる。言葉を使わないエンターテインメントなので、国境なく楽しめます。

国別に踊るシーンや、最後には心が温かくなるコンテンツもいいなと思い、一人ひとりハグやハイタッチをしたり、握手をするというシーンも作りました。

日本テレビ土屋敏男×バスキュール朴正義

西村:スキャンもショーの一部なんですよね。スキャンにはどのくらい時間がかかったのですか?

土屋:200人の中から40人を選んで、ショーの中でスキャンしました。スキャンにかかる時間はたった1秒。5分で等身大のアバターができます。ワンショットで踊るシーンは、SNSでダウンロードできます。吉本の芸人さんも参加されていて、芸人さんと一緒に踊れるようになっています。

西村:今までの経験の中で、「NO BORDER」はどういう位置づけなのでしょう。

土屋:今までにないものが作れたと思っています。普通のライブイベントとは異なり、NO BORDERは自分が拡張される。これまでとは違う楽しさ、心の震えがあるエンタメができたと思っています。

このように「テクノロジーを使って新しいコンテンツを生み出す」ということを30年ぐらいやってきました。

西村:新しいコンテンツを生み出すテクノロジーをどうやって見極めているんでしょう。何かコツがあるのでしょうか。

日本テレビ土屋敏男×バスキュール朴正義

土屋:偶然ですね。僕が常に思っているのは、今までにないものを創りたいということ。ですが今ある技術で新しいことを生み出すのは難しい。だから、新しいテクノロジーに常にアンテナを張ってそれを使えるものを考えるんです。

電波少年の時も、Hi8ビデオカメラの使用はもちろん、CGをセットに使うというと、すごく技術の人たちに怒られました。「こんなもの、放送できるか」と。ですが、「これしかない」と返しました。

4Kから見るとリュミエール兄弟みたいな映像だけど、一応映っている内容もわかるし、何より生活の中にカメラが入ることで、今までにないものが絵になるんです。それがインパクトになると思いました。

最近では、ディレクターが民生カメラを持ってロケすることは当たり前になりましたが、実はこれは日本だけで拡がったもの。アメリカやヨーロッパのテレビ現場ではこんな風景はお目にかかれません。ローカルな発明なんです。

朴氏が立ち上げる宇宙放送局「きぼう」とは?

西村:朴さんは昨年、国際宇宙ステーション(ISS)に放送局を開設するという新しいチャレンジをリリースされましたね。

:僕はバスキュールという会社を2000年に設立しました。ネット時代の新しいクリエイティブフォーマットを生み出したいと思ったからです。インターネットが出てきたことで、これまでつながらなかったもの同士がつながり、新しい何かが生まれるかもしれないと期待しながらトライしています。

みんながつながることで、どんなことができるのか。ネットだけでは同時に1万人くらいが繋がってくれたら御の字ですが、テレビ×ネットなら100万人、1000万人が双方向につながる状況をつくれるかもしれない。とはいえ、テレビはドメスティックな世界。世界中の億単位の人々を同時につなげるにはどうすればよいか。どんなテーマを掲げればいいのか。

そのときに浮かんだのが宇宙です。宇宙なら国境や文化、世代を超えて、人々に興味をもってもらえる普遍的テーマを提供できるかもしれない。ISSにスタジオを開設して双方向のライブ番組を配信できれば面白いなと思い、JAXAとスカパーJSATと共にプロジェクトを進めています。

バスキュール朴正義氏

▲株式会社バスキュール 代表取締役 / クリエイティブディレクター
株式会社LivePark 共同創業者 / チーフクリエイティブオフィサー 朴 正義氏
2000年にバスキュールを設立。広告企画制作、サービス開発、空間演出など、数多くのプロジェクトのクリエイティブディレクションを担当し、カンヌライオンズ、D&AD、ニューヨークADC賞、文化庁メディア芸術祭など、300を超える国内外のクリエイティブ賞を受賞。最近では「DATA-TAINMENT」をキーワードに、イベント/プロダクト/スポーツ/都市開発/宇宙開発など、既存の領域を超えた新しいクリエイションに挑んでいる。2015年、日本テレビとともに新しいメディア体験づくりに挑むJV(HAROiD→LIVEPARK)を設立。2019年、JAXAとスカパーJSATとともに宇宙メディア事業構想を立ち上げ、2020年を目標に「きぼう宇宙放送局」を開局予定。

西村:なぜ、ISSとのコラボレーションが実現したのでしょう。

:ISSも20年が経ち、老朽化が進んでいます。世界的な宇宙開発は月や火星が主流となってきており、地球に近いISSは民間にオープンしていこうという流れになっています。

そんなとき、手を上げたら、やらせてもらえることになりました。ISSは90分で地球を1周します。日本列島の上を通る時間は3~4分。ちょうど1曲流せる時間です。どのように双方向のコンテンツを実現するのか、NASAにもプレゼンしました。

とにかく宇宙開発はセキュリティが厳しく、いろいろ難しいことも多いのですが、これまでの中で一番といってもいいくらい刺激的なプロジェクトですね。

西村:双方向ということは、宇宙飛行士と地球の人たちがコミュニケーションできるんですね。ゲストが行くこともあるのでしょうか。

:民間人が宇宙に行くには60億円ほどかかりますし、訓練も必要なのでゲストがISSに行くことはないですね。例えば電波少年でディレクターがカメラマンになったように、宇宙飛行士がカメラマンやディレクターとなり、コンテンツを配信するというイメージです。

日本テレビ土屋敏男×バスキュール朴正義

土屋:以前からあるコンテンツとの違いは?

:従来の宇宙飛行士との交信コンテンツは、JAXAやNASAなど公的機関による活動の一環で、双方向といってもあらかじめ決められた内容のコミュニケーションしかできないんですよね。KIBO宇宙放送局では「宇宙の民主化」をテーマに掲げ、選ばれた人しか扱えなかった宇宙を民間人でも自由にできるというのがチャレンジの一つでもあります。

ISSは宇宙開発のための実験施設なのですが、本プロジェクトは宇宙を舞台にすると、人々の間にどんなコミュニケーションが生まれるのかというコミュニケーション実験と位置付けてトライしてます。

ちなみに、ボクらのような民間企業が宇宙飛行士にモノゴトを依頼する際に支払う時給はなんと550万円。そのお金を支払って、宇宙飛行士に地球とつながったインタラクティブなディスプレイと地球がみえる窓を一緒に映してもらう、というのが僕らからJAXAへのオーダーなんです。具体的なコンテンツ企画はまだこれからなんですが、意味のあることしないともったいないんですよね。

土屋:1分約10万円ということですか。

:はい。カメラをセットする時間もチャージされるので、実施にあたっては宇宙飛行士が迷って時間を浪費しないように、わかりやすいシステムやマニュアルづくりをしないといけません。しかもマニュアルは、宇宙飛行士の出身国が異なるので基本英語ですべて用意しなければいけない事情もあります。

西村:朴さんは、ネット時代の新しいクリエイティブを生み出すことから始まり、今や宇宙放送局を作ろうとしています。どうしたらそんなジャンプができるのでしょう。

:ジャンプをするには勇気を持つことです。僕が土屋さんと最初に仕事をしたのは、2013年2月頭に放送されたNHKと日テレの初の共同制作番組「60番勝負」。放送開始60年を迎えた日テレとNHK両局が、「テレビの未来」をテーマに60の企画に挑戦しました。

面白い企画に、視聴者が「イィ」ボタンを押すことで投票できる仕掛けも入れていました。ただ当時は「バルス祭り」など、Twitterでも大量の投稿があるとサーバーが落ちていた時代。そこに僕たちは「超大量のアクセスが来ても、楽勝です」と意気込んでプロジェクトに参加しました。

にも関わらず、なんと本番の5時間前に一番上流のGoogleのクラウドサーバーに障害が起こってしまったんです。「これはいわば天変地異が起こったようなものです。しょうがないですね」なんていいわけは、テレビ局の偉い方たちには通りませんでした。

このままGAE(Google App Engine)の復旧を待つという手もあったんですが、思い切ってAWS(Amazon Web Services)に乗り換え、事なきを得ました。最新テクノロジーを使うという触れ込みの番組でしたが、最初は間に合わず、手書きのフリップで視聴者に尋ねるというアナログ技で乗り切り、番組開始30分後にようやく投票システムが稼働。これも勇気があったからできたことです。

日本テレビ土屋敏男×バスキュール朴正義

2020年代にテクノロジーがあるから面白くなるエンタメ領域とは?

西村:今回のテーマはテクノロジー×エンタメです。テクノロジーによって拡張されたり、面白くなるというエンタメ分野は何でしょうか。

土屋:2020年代のエンタメ領域で、注目テクノロジーはインターネットですね。

西村:えっ、どういうことですか?

土屋:「バカバカしい、今ごろ何を言っているんだ」って、思いますよね。たしかに、インターネットが登場したとき、みんなこんなにつながっちゃうんだと衝撃を受けました。

すでに登場から何年も経っているのですが、インターネットをちゃんと使い切った、儲からないことも受け入れて、作っているエンターテインメントがまだない気がするんです。その辺に何か面白くなるものがあるのではと思っています。

西村:ディスラプティブなものが出てきていないということですか。

土屋:皇太子のご成婚パレードの時に感じたのですが、テレビは「間もなくパレードが来ます」という絵にすごく力があるんです。何かが起こりそうというのがテレビなんだと。

だから浅間山荘事件の時も、何も起こっていない映像を何十時間も視聴者は見ていました。これがテレビなんだということがわかったのですが、インターネットに関しては、まだそういうことが発見されていないと思うんです。

日本テレビ土屋敏男×バスキュール朴正義

西村:今さらインターネットと思ったら(笑)、深い話でした。朴さんはいかがですか。

:インターネットです(笑)。2020年代は、日常生活そのものがエンターテインメントになると思っています。

例えば、NIKE+をはじめ健康アプリは様々なログをとることが、エンターテインメントになっています。仕事をすることも、家事をすることも、全てエンターテインメントとして楽しくなる。そういう視覚だけではなく、あらゆるものごとの解像度が高まっていく時代になっていくんじゃないかと考えてます。

西村:5G時代だからこそ、一つ一つの行動にエンタメが入っていくと。

:常識に思われている24時間の使い方も再定義され、楽しく最適化できるようになると思います。最近、デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉がよく使われていますが、テクノロジーが見え隠れしている間はまだまだ初期段階で、何年かかるかわかりませんが、街のあらゆるところにテクノロジーが浸み込んでいき、ミラーワールド的な世の中になっていくんだろうなぁと思います。

西村:FacebookやTwitterなど、いまあるサービスも変わっていくと思いますが、お二人はいかがですか。

:SNSで一般の人々が力を持つと思っていたのですが、より企業がパワーを持つようになってしまいました。SNSはアド(広告)がひどすぎるというか、アドが儲かりすぎているのが問題です。人々のトランザクションにこそ価値があるのだから、アドで儲けすぎてはいけないというルールを作れば、素敵な流れができるかもしれません。

日本テレビ土屋敏男×バスキュール朴正義

西村:土屋さんが本当に面白いものを追求すると、今登場しているSNS以上に集まる場所が出てくるかもしれませんね。

土屋:テレビ会社の人間は、テレビという守られた中で、純粋に面白いモノだけを作る特異なクリエイターたちとしかコンテンツを作っていない。だから、テレビの外に出ていくと風が冷たくてビックリするんです。

テレビからビジネス寄りのインターネットに触れたとき、最初は異様な感じがしました。これからは今のインターネットの真逆、ビジネスではないものやアート的なものから大きく世界が変わるような気がしています。

西村:儲けるだけではなく、本当に面白いことを追求している人がエンタメを変えていくと。それができる一番近くにいるのは、どんな人でしょう。

土屋:僕が一番近いかも(笑)。パソコンを最初に作った人やSNSを最初に作った人にしても、テレビの番組で革命的なものを作った人たちにしても、だいたい「バカかお前」と言われるような人なんです。

そういう人たちの中に、次の時代を引っ張るパワーとコンセプトを持った人がいるんです。みんなが「この人だよね」と言われているような人は、実は絶対そうならない。

日本テレビ土屋敏男×バスキュール朴正義

西村:時給550万円の宇宙飛行士を雇う朴さんも、それに近しい存在なのでしょうね。朴さんが注目している、本当に面白いものを作っているエンジニアやクリエイターがいれば教えてください。

:毎回、土屋さんに会うと、いつも幸せそうだなと感じます。なぜ、そう思うのか。ライフワークをつかみにいっているからなんです。だからいろいろな面白いプロジェクトを立ち上げることができる。バスキュールも会社を維持することよりも、プロジェクトを起こす会社でいたいと思っています。

そこでライフワークにできるようなプロジェクトを見つけてほしい。それが社員のハッピーにつながるからです。今は副業がOKの時代です。みなさんもライフワーク探しみたいなものはぜひ、やった方がいいと思います。

土屋:今足りないのは、デストロイヤー、破壊者だと思うんですよ。イーロン・マスクのような破壊者が出てこないと、つまらないままかもしれません。

日本テレビ土屋敏男×バスキュール朴正義が対談──テクノロジーでエンターテインメントはどう変わる?【後編】