パーソルグループとSky株式会社は、sightを通してエンジニアの自分らしいキャリアを応援しています

小売りはテクノロジーでどう変わるのか?──EBILAB小田島氏×トライアルグループ古賀氏が語る「店鋪×テクノロジー」【前編】

小売・流通に革命を起こしてきた、福岡発全国250店舗を有する「トライアル」のIT基盤を支えるティー・アール・イー古賀輝幸氏と、伊勢の老舗食堂『ゑびや』小田島春樹氏。両氏に「店鋪×テクノロジー」をテーマに、テクノロジーで小売は今後どう変わるのか、どんなエンジニアが求められるかなどを語り合っていただいた。モデレーターは、HEART CHATCHの西村真里子氏が務めた。

EBILAB小田島氏×トライアル古賀氏

伊勢で100年超の歴史を持つゑびやのEBILABとは?

西村:今回のイベントはオンライン配信での開催です。オンラインでイベントをやることについてどのように思われましたか。

小田島:オンラインでの開催は、地方にいる人も気軽に参加できるのがいいですね。こういうイベントが増えていけば、もっと面白い世の中になるのではと思います。

古賀:私も拠点が福岡なので、頻繁にセミナーや勉強会が行われている東京がうらやましいと思っていました。オンラインセミナーならどこにいても参加して学べるので、地方格差もなくなりますよね。

西村:そういえば小田島さん、珍しく和装ではないんですね。

小田島:最近、和装でないと怒られることもあるのですが、今日は沖縄から来たので(笑)。僕は株式会社EBILABのCEOを務めています。EBILABは、伊勢神宮の参道で100年以上の食の商いをしてきた歴史を持つ「ゑびや」の情報子会社。その店舗を再建するため、いろいろなシステムを開発し、それらをサービスとして日本全国の小売店や飲食店に販売しています。

小田島春樹氏

▲株式会社EBILAB 代表取締役 CEO 小田島 春樹氏
1985年、北海道生まれ。大学ではマーケティングと会計を専攻。 大学卒業後、ソフトバンクに入社し、組織人事や営業企画を担当。2012年、妻の実家が営む「ゑびや」に入社。2017年に代表取締役CEOに就任。18年にはサービス産業のためのクラウドサービスの開発や販売を行う(株)EBILABを設立。

 

西村:なぜ、ITを使ってゑびやを変えていこうと思われたのですか。

小田島:ゑびやの立地はよく、伊勢神宮 宇治橋前広場から徒歩で1分の場所にあります。実は今から8年前に、来客者が減り売り上げも上がらないので、飲食店を縮小してテナント化していこうという話があったのです。

悪くないとは思いましたが、不動産で収入を得ていくのもそうはうまくいきません。そこで、「クリエィティブ」「データ」「組織」3つの軸で店舗をしっかり儲ける仕組みに変えていくことにしました。

西村:小田島さんはプロフィールもユニークですよね。

西村真里子氏

▲株式会社HEART CATCH 代表取締役 西村 真里子氏

 

小田島:生まれは函館市です。父が公務員だったので4年に1回転校していましたね。その後、東京、伊勢を経て今は沖縄にいるんですが、小さい頃からそういう環境だったから、いろんな地域に行ってもやっていけるのかなと思っています。

西村: 17歳の頃は、半分不登校だったとか。

小田島:そうです(笑)。ネットを使って商売をしていたんです。その頃に商売の面白さに目覚めました。ただ、このままではいけないと思っていた頃、孫正義さんが出ているテレビ番組を見たんです。

この人の下で商売を勉強したいと思い、東京に行こうと決めました。それが高校3年生のとき。東京の大学に進学し、ネットで稼いでは世界中を旅しました。そして卒業後、ソフトバンクに入社しました。

EBILAB小田島氏×トライアル古賀氏

西村:自分で会社経営をしたいという考えは、その頃からあったのでしょうか。

小田島:17歳の頃からネットでいろんな商売をしていたので、いずれ起業したいという思いはありました。

流通業界はムダ・ムラ・ムリの改善を目指すトライアル

古賀:私は学校を卒業後、トライアルカンパニーに入社し、今はシステム子会社のティー・アール・イーの代表取締役を務めています。好きなことはお酒を飲むこと。最近はまっているのは仕事。ですが少し前までは熱帯魚の飼育でしたね。1年半前にクレーンゲームでクマノミをとって、今も育てています。

西村:トライアルではどんなことをやっているのでしょう。

古賀:トライアルの主力フォーマットは、米ウォルマートに学んだ日本型スーパーセンターです。店舗には生鮮食品から食品、生活雑貨、ペット用品、スポーツ用品、自転車など、生活に必要なものをそろえています。

現在、店舗数は240店。年商は約5000億円です。私たちがテクノロジーを使って店舗をスマート化する背景にあるのが、人口減少問題です。人口が減ると、食べ物や生活用品を買う人が減り、市場が小さくなります。かつ働く人も少なくなって、店を運営するのも大変になる。それを効率化するためです。

古賀輝幸氏

▲トライアルグループ 株式会社ティー・アール・イー CEO 古賀 輝幸氏
学校卒業後に株式会社ティー・アール・イーに入社し、流通業務向けシステム開発を行う。2004年より、中国でのシステム子会社立ち上げに参画。その後福岡本社に戻り、小売に関わる。2019年より同社の社長に就任。レジカートやAIカメラなど、店舗をスマート化するリテールAIのビジネスに取り組む。

 

西村:トライアルの第一店舗を作った1992年から、そうした考え方で動いていたのですか。

古賀:当初よりITを使った流通の改革に取り組んでいます。流通業界は「ムダ・ムラ・ムリ」がとても多いと言われています。例えば、多くのメーカーさんはどんどん新しい商品出してR&DやCMにお金がかかる。いろんな場所に営業担当者を配置し、小売に商品を置いてもらうなどの努力をされてます。

このような努力をして商品を並べても、売れなければ値引きをしたり、ひどいときは廃棄になったりします。つまり、このような流通全体の無駄を減らさないと、生産性は変わりません。それが流通業界の課題でした。

小田島:欠品ロスも多いんですね。

EBILAB小田島氏×トライアル古賀氏

古賀:小売業は「K(勘)K(経験)D(度胸)」で運営されていることが多いですね。データを細かく見ていけば、明日何個売れるのかを予測はできます。例えばトライアルの場合、1店舗に4万点の商品があります。現場担当者全員がそれらをすべて予測しながら発注できるかというと、できない。

だから勘や経験で予測し、最後には度胸で発注するんです。そこで我々は小売をITで効率化できると確信して、AIやIoTを持ち込んだのです。

買い物に来ていただけるお客様には「お得」と「便利」を、小売りには「ローコスト運営」「売上」が上がり、「ロス」が少なくなるものを、メーカーには必要な人に対してのみ適切な広告が出すシステムを提供するために取り組んでいます。

ローコスト運営を実現するレジカートとIoTカメラ

西村:具体的にはどんな取り組みしているのでしょうか。

古賀:ローコスト運営に対する取り組みの一例が、レジカートの導入です。

西村:レジカートとはどのようなものですか。

古賀:タブレットとスキャナを搭載したセルフレジ機能付きのカートです。お客さまはプリペイド機能付きの会員カードでログインして、あとは商品のバーコードをスキャンしていくだけ。

最後に決済レーンを通れば、そのまま退店できます。会計レジを通る必要がないので、私たち店舗にとってはレジスタッフの省力化を図ることができます。現在、福岡・佐賀エリアの19店舗に導入しています。

EBILAB小田島氏×トライアル古賀氏



西村:お客さまの反応はいかがですか。

古賀:便利だと非常に喜んでもらっていただいています。レジカートは1店舗に約200台導入しているのですが、休日はそのカートの空きを待つお客様もいるぐらい人気です。

西村:人気なのはレジを待たなくていいという、手軽さがうけているからでしょうか。

古賀:それが大きな理由です。レジの列で待っているとイライラしますが、レジカートならすぐ帰れますからね。もう一つの人気の理由は「クーポンを出す」など、お客様にとってお得な情報を提供するからです。

西村:需要予測もやっているんですよね。

古賀:はい。例えばバナナはスーパーにとって非常に重要な商品です。というのも、バナナを切らすと、お客様は他店に逃げられてしまうからです。そのような重要な商品に関しては、AIを使って需要予測して自動発注できるような仕組みを作りました。

すると、売上額は昨年を超えました。これまでは売り切れる量しか発注できなかったのですが、AIで需要予測ができるので、欠品することもありません。正しく需要予測ができることで売り上げが上がりました。

古賀輝幸氏

西村:どんなデータを使って予測するのでしょう。

古賀:過去の数年分の購買データや気象データなどを学習させるとともに、トライアルでは自社開発したIoTカメラを、売り場のさまざまなところに設置して売り場の状況、商品の状況、お客様の行動などのデータも取得しています。

棚が欠品しているかどうかも、1時間ごとにデータで確認できるようになっています。POSデータは、その日の売れた数しかわかりません。毎日同じ数量の発注では欠品する可能性があります。IoTカメラを売り場に設置したことで、よりリアルタイムに正しい需要が読めるようになります。

西村:お客さまに対してカメラがあることは広報しているのですか。嫌悪感は持たれませんか。

古賀:店頭に「カメラのデータは、商品管理やマーケティングのために利用しています」という文言を掲示しています。初めて700台のカメラをつけてスタートした店舗は、さまざまなメディアに取り上げられたこともあり、お客様には最初から認知していただいていため、クレームなどはありませんでした。

西村:欠品になると、アラートで知らせてくれるのでしょうか。それともモニタリングしている人がいるのでしょうか。

古賀:欠品したくない商品の場合は、作業場のタブレットにアラートが出てくる仕組みになっていて、補充するような実験も行っています。

EBILAB小田島氏×トライアル古賀氏

顧客の行動や購買データはどう活用している?

西村:買物客の行動を捉えたデータは、何に活用するのでしょう。

古賀:買物客の動きを捉えるときに大事になるのは、非計画購買という考え方です。お客様の7割は何を買うのかを決めて、買い物には来ていないんです。

例えば、水を買おうと思って来店しても、A社の水を買うか、B社の水かは特に決めているわけではありません。価格や売り場の状況を見て購買に至ります。これが非計画購買です。

そこで例えばカップサラダを買ったお客様に、レジカートのタブレット画面に「ドレッシングはいかがですか」というレコメンドを出したり、お酒を買ったお客様に、「おつまみを購入するとポイントは10倍です」というお得な情報を提供することで、条件購買を引き出しています。

西村:アマゾンのオンラインショッピングが、そのままリアルな買い物で実現されたイメージですね。

古賀:レジカートやカメラを導入したことで、よりお客様のことが解るようになり、ECサイトでしかできなかったことが、できるようになりました。

最近では、非計画購買の中にある衝動購買を刺激するような施策を展開しています。例えば、あるタイミングでフロア中のサイネージにある商品の映像にして、「この商品はこういう悩みが解決しますよ」と館内放送と連動して訴求する。

するとその商品の認知が高まり、「ちょっと買ってみようかな」という購買欲を刺激することができる。実験店ではこのような施策で売上が伸びています。今後もこのような施策については、さらに深掘りしていくつもりです。

EBILAB小田島氏×トライアル古賀氏

EBILABが提供する「来客予測AI」「店舗分析BI」とは?

西村:小田島さんのゑびやとトライアルの取り組みは似ているような気がしたのですが。

小田島:ロスを減らすというところは同じですが、私たちの飲食店と比べると小売業界は要素が多くて、アプローチする方法を含めて、まったく世界観が違うと思いました。

西村:小田島さんが取り入れているITの仕組みや、そのアプローチの違いについて教えてください。

小田島:僕らがやっていることがわかりやすく紹介されている動画を見てもらいましょう。

EBILAB小田島氏×トライアル古賀氏

この動画に登場する秋吉しのぶさんは以前、旅館で仲居さんをやっていて、ゑびやに入ってからはホールスタッフとして働いていました。彼女は僕らが作っていた来客予測の画面をすごく興味をもってのぞき込んでくる。そして、その来客予測の情報をパートの人たちに「この時間帯にこのぐらいの人数のお客さまが来るので、お茶を何個準備しておいて」という指示していたんです。

「そんなに興味があるなら、自分で作ってみたら」と言ってみると、彼女はパソコン教室に通うようになりました。面白いのはExcelはできないけど、Azureは使えるんですよ。今、彼女は当社のサービスを導入したお客様に対して、より店舗を良くする活用法をアドバイスする役割を担ってもらっています。


Ebiya (Satya Nadella 2019 Inspire + Ready Corenote Video)

西村:EBILABで提供しているサービスは、2つでしたよね。

小田島:もともとは、自分たちのお店を良くするために作ったサービスです。一つは「来客予測AI」。これまでゑびやでは明日来店する客数を、義理の父は勘、僕はスプレッドシートによる計算、料理長はこれまでの経験で予測していたんです。

でも、その数字はバラバラで、誰の言葉を聞けばいいのかわからない。こんな適当なことはないですよね。そこで機械化しようということになりました。明日来店するお客様の数が予測できるようになれば、メニューが何食出るかわかり、仕込みに無駄がなくなります。

来客数を予測する仕組みを作るため、いろんなデータ収集をしました。ただ、来客数の予測だけにそのデータを使うのはもったいないと思い、店舗分析にも活用していたんです。そのとき使っていたツールが僕の好きなExcelでした。

ただ、Excelで店舗を分析する仕組みを作ろうとすると、とても複雑になり、誰もメンテナンスができないものになる。自分が死んだら誰も使えなくなる。そう思い、今から2年前にExcelでやっていたことをテンプレート化し、データを完全移植して作ったのが、もう一つのサービス「店舗分析BI」です。

EBILAB小田島氏×トライアル古賀氏

「来客予測AI」と「店舗分析BI」による業務効率化と売上アップ

西村:どのようなデータを見ていたのですか。

小田島:当時の来客予測は、重回帰分析を使っていました。それで出したアルゴリズムをExcelの関数式に当てて予測していました。また、どんな商品がどんな世代に売れているのかを探るために、今日来ているお客様は30代が何%、家族連れが何%といったデータと、POSから取得したデータを並べて、分析していました。

BIを活用すると、すべての注文データから、年代や属性別の傾向や分析ができるようになります。それをもとに、「このシーズン30代の来客者が多いので、こういう商品を提供したらコンバージョンが上がる」いう予測ができるようになりました。

西村:データを活用した商品開発で、リピートを増やすことができるようになったわけですね。

小田島:僕がゑびやに入ったときは、客単価850円ぐらいの定食屋だったんです。年間の来客数は11万人、年商は1億円ぐらいでした。客単価を上げていこうとしたときに、単なる値上げではお客さまは逃げるだけです。

そこで商品開発を行い、1300円、1500円、3000円の商品を出していきました。そしてデータを活用し、「各商品がどのくらい販売できて、どういう層に刺さったのか」を分析。刺さらなかった商品を削り、また新たな商品を開発して提供することを何度も繰り返し行っています。

EBILAB小田島氏×トライアル古賀氏

ゑびやはテーブル席と座敷席があるのですが、期間中にそれぞれの席に何回、客が座ったか、それぞれの滞在時間や客単価はどう違うかなども見られるようにしました。つまり、店舗内のレイアウトをどう構成したら、坪あたりの収益が上げることができるかも確認できます。「よくビールを飲んでいる30代の男性は、枝豆ではなく、ひものの串を食べていた」というデータも取得できます。

西村:定説とは違うものが、データによって可視化できるのは面白いですね。

小田島:分析に基づいてメニュー冊子のレイアウトを変更したり、タブレットの画面に「この商品を注文した人はこういうものも頼んでいます」というレコメンドを出したりすることができるようになりました。

西村:料理長やホールスタッフの方たちは、そのような改革を受け入れることができたのでしょうか。

小田島:この仕組みを作った経緯はそこにあるんです。ゑびやに入社した時、「僕と仕事をすることは、変化を楽しむことです」と言ったら、もともといたスタッフがみんな辞めてしまったんです。飲食店なのに調理人がいなくなってしまった。

そこでメニューを最小限まで減らし、リスタートしました。ところが、売り上げは下がっていく一方。そこで思いついたのが、伊勢には魚も揚がるし、水産工場もあるということ。そこで下準備をしてもらい、常温物流でもいい魚が届くような仕組みを作ろうと思いました。

小田島春樹氏

セントラルキッチンを街のアセットを作ってやろうという試みです。そのためには、相手方に受注数を伝える必要がある。そこで、Excelで予測する仕組みを作ったのです。従業員がいない状況の中で、どうすれば店舗を効率よく運用できるか。それを考えるきっかけがデータ活用でした。

西村:今のスタッフの皆さんは、データを活用することが当たり前になっているわけですね。

小田島:うちの店はデータを見ながら、日々の業務を進める店だと伝えています。キッチンの上にあるモニターには、「明日は何が何食出る」ということが掲示されるので、それに基づいて受発注することがルールとなっています。

だから入社間もない人でも受発注ができますし、食材ロスはほとんど出なくなりましたね。また当社のサービスは様々な店舗に導入されています。例えば店舗分析BIは百数十社に使われており、売り上げが上がったという報告を多数もらっています。

小売りはテクノロジーでどう変わるのか?──EBILAB小田島氏×トライアルグループ古賀氏が語る「店鋪×テクノロジー」【後編】へ続く