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小売りはテクノロジーでどう変わるのか?──EBILAB小田島氏×トライアルグループ古賀氏が語る「店鋪×テクノロジー」【後編】

小売・流通に革命を起こしてきた、福岡発全国250店舗を有する「トライアル」のIT基盤を支えるティー・アール・イー古賀輝幸氏と、伊勢の老舗食堂『ゑびや』小田島春樹氏。両氏に「店鋪×テクノロジー」をテーマに、テクノロジーで小売は今後どう変わるのか、どんなエンジニアが求められるかなどを語り合っていただいた。モデレーターは、HEART CHATCHの西村真里子氏が務めた。

EBILAB小田島氏×トライアル古賀氏

流通・小売業界が変わるために必要なこととは?

西村:「店舗×テクノロジー」で日本を代表する事例を生み出しているお二人に、日本の店舗をテクノロジーでアップデートするために必要なことを聞いてみたいと思います。
まず、トライアルさんが導入しているシステムは、他企業への横展開が可能なのでしょうか。

古賀:我々が開発したレジカートやIoTカメラは、トライアル以外にも使ってほしいと思っています。

西村:今はまだ購入できないんですよね。

古賀:今は実験したいという店舗があれば、それに応える準備をしている状況です。私たちの目標は、流通業の生産性を上げ、日本を元気にしていくこと。どんどん横展開をしたいですね。しかし、このような仕組みを導入する際、最も問題になるのが企業トップのマインドです。

古賀輝幸氏

▲トライアルグループ 株式会社ティー・アール・イー CEO 古賀 輝幸氏

西村:どういうことでしょうか。

古賀:トップが必要だと認めないと、導入できないんです。企業トップが「テクノロジーを導入して変わっていくことが必要だ」というマインドがあることが大事だと思います。

小田島:日本の店舗をテクノロジーでアップデートしていくためには、3つ大事なことがあると思います。第一は経営者が今までの成功体験にとらわれず、チャレンジするという考えにスイッチすること。これは一番大事なことです。

第二に店舗側の人間にテクノロジーのことをちゃんと伝えられる人材を作ること。店舗側の人間はエンジニアが言うテクノロジーの話はわかりません。エンジニアも店舗側の人間が言う業務がわからない。そこを通訳できる人材が必要です。第三は安価に導入できること。

経営者からすると、新しいテクノロジーの導入は結果が見えない投資。チャレンジしやすい価格で提供することが必要です。我々が提供しているサービスは月額1万9800円。今後はさらにチャレンジしやすいように、月額2980円のサービスも出す予定です。

小田島春樹氏

▲株式会社EBILAB 代表取締役 CEO 小田島 春樹氏

西村:2980円のサービスでは、どんなことができるのでしょう。

小田島:簡易的な日報機能やイベント機能、来客予測などができるサービスを予定しています。

西村:成功事例が出てくると、テクノロジー導入の心理的障壁が低くなりそうですね。

小田島:KKDの世界なので、データ活用するとしないのでは雲泥の差です。データ活用すると必ず良くなります。

どんなエンジニアを求めているのか

西村:お二人の現場では、今どんなエンジニアを求めていますか。

古賀:当社では福岡に約120人、東京に約20人、中国に約300人のエンジニアがいます。技術に長けている人、企画力に優れた人など、いろんなレイヤーのエンジニアを求めています。

流通業を変え、人々が豊かに買いもの体験ができるようにすることが僕らのミッションであり、ビジョン。それに共感して、テクノロジーで実現したいという人に来ていただきたいですね。

EBILAB小田島氏×トライアルグループ古賀氏

小田島:当社のCIOは、ゑびやの元店長です。エンジニアになりたいと勉強して、エンジニアになりました。僕自身は人はやりたいという気持ちがあれば、何者にもなれると思っています。現状を変えていきたい、変わってみたい、やりたいことがある、そういう人を応援できる組織体でありたいなと思っています。

店長からエンジニアとは逆に、機械学習のデータサイエンティストが厨房スタッフになることもできます。彼はデータサイエンティストの仕事を4割、厨房の仕事が6割。ひら@寿司データアナリストと呼ばれています。

西村:いろんなかけ算ができることで、より働きがいも豊かになりそうですね。

西村真里子氏

▲株式会社HEART CATCH 代表取締役 西村 真里子氏

小田島:自分の可能性を、自分で決めないエンジニアが好きなんですよ。一つ条件があるとすれば、仲間を愛して仕事を楽しめることです。

西村:EBILABの拠点はどのようになっているのでしょう。

小田島:伊勢、沖縄、東京、北海道に拠点があります。伊勢はノーコードでかけるものやデータベース、Azureを使った開発がメインです。沖縄はサーバーサイドやフロントサイドの開発。北海道で一部、機械学習の開発を行っています。東京は営業のみ。米アトランタにマーケティング担当、シンガポールにCFOがいます。

EBILAB小田島氏×トライアルグループ古賀氏

西村:Zoomなども使いこなされているんですよね。そういうノウハウも他の企業に提供できそうですね。

小田島:めちゃくちゃ持っていますよ。僕らはリモートじゃないと、そもそも仕事できません。どうしたらリモートでもコミュニケーションがとれて、お互いが信頼できる関係でいられる環境にできるかを追求してきました。

ZoomとMicrosoft Teamsは常時接続しており、基本ミュートしているのですが、普通のオフィスだと周囲の話し声などの雑音聞こえてきます。

ではそういうリモート環境でも、普通のオフィスで働いているのと同様どうすれば嫌じゃない感じで雑音が聞こえる環境にできるかと考えた結果、大きなモニターにZoomやTeamsの画面を写して、その周りに5.1chスピーカーを配置して、音を小さく絞るなんてことをしたり。

西村:そうすることで、そこにいる感が得られるってことですね。

小田島:最近は、そんなことを追求し始めました。離れていても他人を排斥しない、他人を陥れない心優しきエンジニアたちが活躍できる場にしたいと思っています。

EBILAB小田島氏×トライアルグループ古賀氏

西村:挑戦し続ける、お二人の姿勢が素敵ですね。EBILABではデータサイエンティストだった方が、キッチンにも立っているという話がありました。その場合、給与がどうなるのかなと。データサイエンティスト100%で働くより、低くなるのではと思ったのですが。

小田島:店舗の生産性を上げ、収益を上げていけば、東京と変わらない給与を支払うことが可能になると思います。例えば僕の店は従来、アルバイトを含めた一人あたりの売り上げは390万円でした。今は1400万円を超えています。利益率も高い。

以前はコピー機の営業をしていた人が今は店長になっているのですが、月給20万円だった給料が今は年収600万円もらっています。これはうちだけではなく、そういう企業が地方に増えてきているんですよ。

西村:料理人もやりながら、エンジニアもできると。これまでと遜色ない生活ができるということですね。

小田島:しかも東京と違って家賃も安く、満員電車もありません。実態として生活の幸福度は相当高くなると思いますよ。

【Q&A】会場から寄せられた質問を紹介

後半は、視聴者のみなさんからの質問に答えるスタイルで進められました。

EBILAB小田島氏×トライアルグループ古賀氏

Q.お二人が、いいプロダクト/システムを開発する上で肝だと思うポイントを教えてください。

小田島:業務を知っていることにつきると思います。課題を解決するための手段として、何が必要か、プロダクトで解決するのか、デザインやクリエイティブで解決するかを考えていく。そうすれば外すことはないと思います。

古賀:私も同じで、ビジネスを理解していることが重要だと思います。我々のビジネスは小売りと共にある。だから、当社のエンジニアの中には店長を1~2年経験した人もいます。

現場で起こっていることを理解して、それに対してどういう解決方法を出していく。自分自身が現場で困った経験、いろいろ考えた経験があるからいいプロダクトが生み出せると思います。

そしてもう一つがプロダクトへの愛があること。どれだけ情熱をかけられるか、どれだけ時間を使って改善点を考えることができるのかにかかってくると思います。

古賀輝幸氏

Q.天災などで通信が突然切れて復旧するのに時間がかかる場合は、どのようなインシデント対応をしますか。

古賀:私たちは1200~1300坪ぐらいの広い店舗を持っています。多数冷蔵ケースがあるので、電気が来なくなるとそこの商品は廃棄になってします。完全ではありませんが、発電機を設置している店舗もあります。

通信は基本的に別々の会社で2回線を引き、片方で障害が起こってもリカバリできるようにしています。店内の通信設備がダメになった場合は、スマホを使った通信で対応するようにしています。

小田島:クラウドとつながっているPOSレジは、ネットが落ちるとトラブルが発生しますが、ローカルで対応する方法を用意しています。それでも釣り銭機が出せないなどうまくいかない場合は、手切りするので問題になることはありません。

また、画像解析の仕組みは1日止まっても、重大な欠損が起こるわけではないため、気にはしていません。これまでで一番困ったのは、台風で電源が落ちて冷蔵庫が止まったこと。このときは松阪牛をどうしようと焦りました。

小田島春樹氏

西村:電子マネー決済はどう対応しますか。

古賀:我々のキャッシュレス決済手段は、現金か自社のプリペイドカードによるものだけなので、特に対策はしていません。電子マネーに対するニーズは多いので、他の小売さまに提供していくためにもこれからは取り込みたいと思っています。

小田島:うちはキャッシュレス決済に対応しています。ただ周りの店はまだまだ現金対応が多いので、キャッシュレス決済が使えなくなってもクレームになることはありません。

Q.古賀さんへの質問。棚の欠品監視は全商品やっていますか。アイテム数が多いので監視コストが大変そうです。

古賀:最初は全てにつけようとしましたが、1日の中で2~3個しか売れない棚には設置せず、今は回転が早い商品と、プラスのメリットのある商品群を中心に監視しています。特に生鮮食品や飲料、中でも飲料は重点商品として監視しています。

Q.小田島さんへの質問。細かいデータをちゃんと従業員に入力してもらう方法や仕組みはありますか。

小田島:昔、Excelでデータを入力する場合は、POSから出てくる会計レシートのデータを、45分から1時間かけて手で入力していました。クラウド系のレジに変えたことで、レシートのデータをCSVに落とせるようになりました。

そこでCSVに落とし、Excelに書き込むRPAを作成しました。しかし、仕様が変わると作り替えていかなければなりません。そこでAPIでつないで、自動で入力する仕組みを作り上げていました。入力をしない方法を考えるところに至りました。

Q.秘伝のタレのExcelからツール化するまでどのくらい時間がかかったのでしょうか。

小田島:僕が入社した2012年3月1日時点では、ゑびやのデータベースは紙。つまり食券の枚数でカウントしていました。8年前にこれをExcelに手入力するところからスタートしました。Excel版のDBができ、そこからグラフを作っていきました。スタートからかかった時間は8年ですね。

小田島春樹氏

西村:本業の仕事がある中で、お二人は新しいテクノロジーをどこで学んでいるのでしょうか。

古賀:会社でも仕事が終わった後も、常に学んでいます。本を買ったり、勉強会に行ったり。仕事が終わった後は、とにかくいろんなところで学びましたね。そして現場に行って、何が必要とされているのか、現場の状況を見る。これも勉強です。新しいテクノロジーが出てきたら、どこに適用すると効果がありそうか、いろんなタイミングで考えています。

小田島:Excelなどは知らないうちに身についていました。人事や財務、経営、マーケティングなどについては、本を読んで学びました。今は沖縄のプログラミング教室に週2回通い、プログラミングを学んでいます。その教室の講師はうちの社員なんです。今、学んでいるのはRubyです。

西村:古賀さんは、Amazon GOを見に行かれましたか。

古賀:行きました。ただ、一般公開前だったので、店の窓に張り付いて、中の様子を確認したという感じです。シアトルからシリコンバレーに着いた瞬間に、一般公開されたと聞き非常に残念な思いをしました。別の人がまた戻って動画を撮ったりしました。

西村:どんな感想を持ちましたか?

古賀:商品を選んで、そのまま出てOKというのは革命的だなと思いました。ストレスのない買い物体験は、非常に求められていることがわかりました。その後、いろんな会社が模倣しましたが、一番優れていたのはAmazon GOだと思います。

古賀輝幸氏

Q.古賀さんへの質問。カメラのために店舗レイアウトの変更やわずかな棚、陳列のずれが問題や効率低下になったりしませんか。

古賀:ある程度ずれたりしても、画角に入っていれば問題にはなりません。なので陳列のずれとかは気にしていません。

Q.トライアルのテクノロジーを使った店舗と使っていない店舗では利益率がどのくらい違うのでしょうか。

古賀:これを言うと怒られます(笑)。

小田島:ボストンコンサルティングの書籍によると、テクノロジーを使っている店舗と使っていない店舗では30%利益率が違うと書かれていました。当社も売上は5倍、利益は20倍近く上がっています。

もちろん、テクノロジーだけではなく、組織論やクリエイティブなども入れていますが、既存の箱を最適化することでそれぐらいはいきましたね。

古賀:言える範囲だと、カートなどを導入したことで、売り上げが5%伸びるという結果は出ています。

西村:テクノロジーを入れると、明らかに売り上げは上がるということですね。

西村真里子氏

古賀:カートは便利なので、来店頻度が増えるという結果になりました。

小田島:単価を上げても客数を落とさない方法はあることがわかりました。また店舗はテーブルが178席あっても160席でも売り上げは変わらないこともわかりました。

そこでピーク時にしか使わない18席を減らして、あわび串を販売するテイクアウトコーナーやかわいい商品を販売するお土産店をつくり、坪あたりの売り上げを上げることができました。

西村:お二人の事例は、経営者としてテクノロジーを導入する際の、判断になるものだと思います。

小田島:システムは入るのですよ。ただそれを使ってどうすればいいのかというアイデアのところまで行き着かないと効果は出ないと思います。

古賀:数字の結果で人は動きます。データドリブンの企業にならないとそこで終わるでしょうね。

小田島:そこまで導いてあげる、そこまでケアしてあげることで、はじめてデータとアクションが重なって、店の収益につながると思います。

EBILAB小田島氏×トライアルグループ古賀氏

Q.自社開発のカメラがとても気になります。小さくて軽そうだけど、何グラムなのですか。重要視した機能は何ですか。

古賀:重要視したのは1台あたりの価格です。当社のカメラは小売りの現場に設置するので数が必要です。最初の店舗は700台、次は1500台設置しています。

また小さな店舗でも200台は必要なので、価格が安くないとつけることができません。次に棚につけてもお客さまが商品をとるのに邪魔にならない大きさにすること。サイズ感は気にしています。自社で開発しているのは1種類です。

西村:最後の質問です。お二人はテクノロジーで小売をどんな世の中にしていきたいですか。今後、見ている世界観を教えてください。

小田島:店舗ビジネスに携わっている方々が、もっと報われる世界にしたいですね。そこで働く人たちが時給や給与のほかに、お金をもらえる方法を考えることもそうですが、その人たちの出口も用意できるようにしたいと思います。

古賀:日本の流通は世界規模でみても生産性が低い。一説にはアメリカの3分の1とも言われています。だから給与も出せない。我々が開発したリテールAIで小売りの生産性を上げ、お客さまはより便利、よりお得に、関係する卸し業者やメーカーも儲かり、従業員がいい気分で働けるような環境にしていきたいと思います。

西村:流通や小売業界に挑戦するエンジニアが増えてくればいいですね。ありがとうございました。

小売りはテクノロジーでどう変わるのか?──EBILAB小田島氏×トライアルグループ古賀氏が語る「店鋪×テクノロジー」【前編】