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失敗プロジェクトから学ぶトラブルを防ぐ極意【前編】──DX時代に身に付けたいプロジェクトマネジメント講座!#4

DX(Digital transformation)による激しい変化の潮流の中で、ITプロジェクトをいかに成功に導くか。その成否の鍵を握るのが、ステークホルダー・マネジメントである。なぜ、ステークホルダー・マネジメントが重要なのか。
1月25日に開催された「DX時代に身に付けたいプロジェクトマネジメント講座 #4」では、プロジェクトマネジャーとして、数々の大規模プロジェクトを指揮してきたアスカプランニング 代表取締役社長の永谷裕子氏をゲストに招き、語っていただいた。

十返文子氏と永谷裕子氏

ステークホルダーについて改めて考える

プロジェクトマネジメントにおいて、ステークホルダー・マネジメントがうまくいかないと、様々なトラブルに見舞われ、失敗プロジェクトに至ってしまうこともある。そこで今回は、トラブルを防ぐ極意の一つとしてステークホルダー・マネジメントに焦点を当てる。

ゲストの永谷氏は、25年近くアメリカと日本においてインターナショナル・プロジェクトに従事してきた。本講座の講師・十返文子氏は、永谷氏がPMI(米国プロジェクトマネジメント協会)日本支部の事務局長を務めていたときの部下で、「私のキャリアにおいて、お母さん的存在」だという。

十返文子氏

▲本講座 講師を務める 十返 文子氏
楽器メーカーの販売応援員から着メロ制作を経てディレクターに。いわゆる大規模案件を経験する中で2007年にプロジェクトマネジメントと出会い、人生が一変。現在は、学生から経営層まで幅広い対象者にPMの魅力を伝える自称「全年齢型PMお姉さん」。 PMP®、情報システム学修士(専門職)、教育士(工学・技術)。


現在、永谷氏はグローバル・プロジェクトマネジメントのコンサルタント、大学・大学院の非常勤講師、IIBA(International Institute of Business Analysis:ビジネスアナリシス(BA)」の普及・啓発活動を行う団体)日本支部の理事、東京地方裁判所(IT専門)の調停委員として活動している。

今回のテーマは「失敗プロジェクトから学ぶトラブルを防ぐ極意」だが、そもそもなぜプロジェクトが失敗に至るのか。その要因の1つが「ステークホルダー・マネジメント」だと永谷氏は語る。

永谷裕子氏

▲株式会社アスカプランニング 代表取締役社長 北海道大学大学院非常勤講師
永谷 裕子氏

MBA取得後25年近くアメリカと日本においてインターナショナル・プロジェクトに従事。現在はグローバル・プロジェクトマネジメントのコンサルタントや研修講師を務めている。PMP®、MBA、工学博士。

 

まずは、ステークホルダーという言葉の理解から始めよう。「プロジェクトマネジメントの知識体系である『PMBOK』は英語で理解した方が早い」と永谷氏。PMBOKはPMIで発行されたプロジェクトマネジメントガイド。英語で記述されているため、日本語に訳しきれない部分があるからだ。

ステークホルダーは日本語で「利害関係者や関わっている人」と訳される。では改めて、Stakeholderを英語で考えてみたい。「Holder」とは、持っている人。では「Stake」とは何か。「Stakeには杭という意味がある」と永谷氏。アメリカでは開拓時代、東部から西部へと開拓が進んだ。

当時は土地の登記制度もない時代。「ここからここまでは自分の領地だとするために、杭を立てたんです。つまり私はこの土地に関係しているという証明するためのものが杭だった」と永谷氏は説明する。だがら、PMBOKではプロジェクトの関係者、つまり杭を持っている人として「Stakeholder」と表現しているという。

永谷裕子氏

Stakeは所有権があるため、同時にリスクもある。プロジェクトのStakeholderにも責任が生じる。つまりプロジェクトに参画する責任である。だが、Stakeholderの中には、「忙しいので、プロジェクトには参加したくない」「たまたまこのプロジェクトにいるだけ」「プロジェクトなんて失敗してしまえばいい」という人もいる。

プロジェクトマネジャーは、そういう人たちを無理矢理引きずり込むのではなく、自ら「やります」という気持ちで参画してもらい、貢献したくなるように仕向けなくてはいけない。「これはとんでもなく難しいこと」と永谷氏は強調する。

DX時代のITプロジェクトとは

永谷氏がプロジェクトマネジャーとしてキャリアを歩み始めた頃のプロジェクトは、経理のシステムを作る、物流のシステムを作るなど、手書きで行ってきた業務をコンピュータ化するというものだったという。

だが、現在のビジネスはITと密接に関係しており、ITなしではビジネスは成り立たない。DX時代におけるITプロジェクトは、経営戦略を実現するものでなければならないのだ。なぜ、その情報システムを構築する必要があるのか。

大事なのは「Doing a project right」より、「Doing a right project」。永谷氏は「場合によってはIT以外で実現することもあるかもしれない。こういう考えの下に運営するのが、DX時代のITプロジェクト」だという。DX時代のITプロジェクトはビジネス戦略を実現するもの。「部門横断的になるため、多様なステークホルダーが存在する」と語る。

永谷裕子氏

PMBOKでは、ステークホルダーを次のように定義している。
「プロジェクト、プログラム、またはポートフォリオの意思決定、活動、もしくは成果に影響したり、影響されたり、あるいは自ら影響されると感じる個人、グループ、または組織」

SAPのフルパッケージやCRMシステム導入プロジェクトであれば、会社のほとんど全員がステークホルダーになるというわけだ。ではその多くの社員がみな同じ思いで、プロジェクトに参画してくれるかというと、そうではない。

例えば、管理部門は数字で表せるようなプロジェクトの進捗を望む。実際にシステムを構築するメンバーは、具体的な指示をプロジェクトマネジャーに望む。また、現場でそのシステムを使う人は、自分の仕事が楽になることを望む。

プロジェクトマネジャーは様々なステークホルダーの立ち位置、期待値、思考の形を把握して、対応することが必要になる。これができなければ、プロジェクトは失敗します」(永谷氏)

ステークホルダー・マネジメントとは?

ステークホルダーをマネジメントするとはどういうことか。PMBOKガイドでは、ステークホルダー・マネジメントを次のように表現している。

「ステークホルダー・マネジメントのプロセスは、ステークホルダーの期待を分析し、ステークホルダーがプロジェクトに影響を及ぼす程度、またはプロジェクトから影響を受ける程度を評価し、プロジェクトの決定およびプロジェクトの計画と実行を支援するためにステークホルダーからの関与を効果的に引き出すための戦略を策定するという、プロジェクト・チームの作業を支援する」

「つまり、ステークホルダーはどのぐらいプロジェクトから影響を受け、どのくらい影響しているのか。プロジェクトの決定、意思決定に各ステークホルダーがどのくらい関わっているのか、分析しなさいと書かれている」と永谷氏。

永谷裕子氏

例えば、築地市場の移転プロジェクトには、仲買人をはじめいろいろなステークホルダーがいる。永谷氏をはじめ、都民もステークホルダーである。だが、都民よりも仲買人の方が移転プロジェクトに与える影響は大きい。このように大勢いるステークホルダーそれぞれが、どの程度プロジェクトに影響を及ぼすか考える必要があるということだ。

またPMBOKにはステークホルダー・マネジメントについて次のような表記もある。

「ステークホルダーのニーズや期待に応え、課題に対処し、ステークホルダーの適切な関与を促すために、ステークホルダーとコミュニケーションをとり、協働する」

ステークホルダーにプロジェクトへの関与を促すための方法は、コミュニケーションしかないと書かれているのだ。

ステークホルダーを特定し、戦略を策定する

プロジェクトマネジメントにとって、ステークホルダー・マネジメントが重要であることはわかった。では何から取り組めばいいのか。当たり前と思われるかもしれないが、「まずはステークホルダーを特定すること」と、永谷氏。

プロジェクト憲章に登場する人から始めて、ステークホルダーを漏れなく洗い出すのだ。しかしながら日本のプロジェクトの場合、「往々にして重要なステークホルダーがここで抜けてしまいがち」と永谷氏は指摘する。

欧米ではジョブディスクリプションがあり、その人の立ち位置や役割、権限などが明確化されているため、漏れることがない。一方、日本の場合は、ジョブディスクリプションがなく、役割や権限が明確化されていないため、ステークホルダーに漏れが生じてしまう。

とはいえ、ステークホルダーが100人以上いるような場合は、プロジェクトマネジャーはステークホルダー全員に注力することはできない。そこでPMBOKでは、権力と関心度をマトリックスで表し、分析するツールを提供している。それがグリッド分析だ。

これを活用し、ステークホルダーをマッピングしていくのである。次に良いエンゲージメントに持っていくために、ステークホルダー・マネジメント計画を立てるのである。ステークホルダー・マネジメント計画とは、主要なステークホルダーの現状の関与度を分析し、より良くするための戦略を策定することである。

永谷裕子氏 title=

例えばA氏、B氏、C氏というステークホルダーがいるとする。A氏はプロジェクトも潜在的影響も認識していない。B氏はプロジェクトに関わりたくないと思っている抵抗状態。C氏は中立の状態。この三者を支援・支持の状態に持っていくにはどうすればよいか。

答えはコミュニケーションをすること」と永谷氏。だが、それぞれ異なるコミュニケーションの取り方が必要になる。そしてそのコミュニケーション戦略を考えるのが、ステークホルダー・マネジメント計画であり、「これがプロジェクトの成否を決める」と、言い切る。これまで様々なプロジェクトをマネジメントしてきたが、モノや技術の問題で失敗したことがないという。

「一度、ミドルウェアが調達できなくて1カ月ぐらいプロジェクトが止まったことがありました。その時も私がやったのは、重要なステークホルダーである技術者と相談して、その結果をプロジェクトの関係者とシェアしたこと。プロジェクトが失敗するのは、重要なステークホルダーが不認識や抵抗の段階に行くこと。これが生々しいプロジェクトの実態です」と、永谷氏は熱く語った。

永谷裕子氏

失敗プロジェクトから学ぶトラブルを防ぐ極意【後編】 Coming soon