パーソルグループとSky株式会社は、sightを通してエンジニアの自分らしいキャリアを応援しています

『宇宙兄弟』編集者のコルク佐渡島庸平氏とJAXA高田真一氏が語る──「宇宙×テクノロジー」で広がる可能性とは?【後編】

JAXAの協力を得てリアルに描かれた『宇宙兄弟』編集者であるコルク佐渡島庸平氏と、JAXAで宇宙関連の民間事業創出を目指す新しい研究開発プログラム「J-SPARC」プロデューサーである高田真一氏。HEART CATCH西村真里子氏のファシリテートにより、「宇宙×テクノロジー」をテーマに熱い対談が繰り広げられた。

コルク佐渡島庸平氏とJAXA高田真一氏

宇宙ビジネスで「これから求められる人材」とは

西村:人材に関する話題も出ましたが、改めてこれからの宇宙ビジネスで求められる人材像について教えてください。

高田:「知る」ことに貪欲になれる人ですね。担当が縦割りになっている組織構成は、宇宙に限らずあると思いますが、それをどうつなげていくか、お互いを知っていくか、そういう姿勢を持っていることが重要になると思います。

佐渡島:ハードには必ずソフトウェアが必要なので、そこは確実にITエンジニアの領域です。さまざまな状況を想像する力が、どのくらいあるかということが重要になる。知識の幅が相当広くないとしんどいと思いますね。

西村:相手のことを知るための機会は、用意されているのでしょうか。

西村 真里子氏

▲株式会社HEART CATCH 代表取締役 西村 真里子氏

高田:日常の会議の中で、他の領域にも入っていくことです。今はJAXAでも最初の開発段階から、UI、使い方を意識したデザインのフィードバックができる流れになってきています。

佐渡島:アプリ開発でもUI/UXのところまで想像して開発できるかが大事ですよね。それと同じだと思います。今連載中の『宇宙兄弟』では、月面で事故が起きているんです。地球からロケットは簡単に飛ばせないし、宇宙船も壊れている。

地上で誰と誰が話し合い、それを誰が宇宙飛行士に伝えるのか、またその情報をどのくらい宇宙飛行士に渡すのか、そんな話し合いのシーンを書いているんです。これはまだ誰もシミュレーションしたことないことです。ですが、小山さんはJAXAの壁打ちになってくれる人と話して、そういうシーンを想定して描いているんですよ。

高田:宇宙兄弟のシーンって、実際にありうるなと思って。かなりリアルです。だから、面白い。

西村:それぐらいの想像力と、いろんなシチュエーションを考えていかないと、とっさの判断ができないということですね。

コルク佐渡島庸平氏とJAXA高田真一氏

みんなで宇宙ビジネスを盛り上げるためのコミュニティ活動

西村:『宇宙兄弟』のようなコンテンツが登場したこと、J-SPARCの取り組みができたことで、私たちは宇宙を近く感じるようになりました。もっとみんなで宇宙ビジネスを盛り上げていくようにするには、どのような活動を必要でしょうか。

高田:J-SPARCでは、宇宙を利用してできそうなビジネスはすべてやろうとしています。たとえ宇宙に関係ないなというものでも、何かしら紐付けたらできるようなアイデアがあれば、どんどん取り込んでいきたいと思っています。

今、僕は「楽しむ」というテーマでいろいろ取り組んでいます。国際宇宙ステーションや地球低軌道の領域で蓄積したノウハウを使って、ベンチャーや大手教育機関と連携して、宇宙飛行士に求められる能力を分析し、それを次世代の人材育成に活かすことにもチャレンジしています。非認知スキル向上も視野にいれた、文科省の学習指導要領の見直しにあわせて事業を進めていこうと。

JAXA高田真一氏

▲国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 (JAXA) 新事業促進部 J-SPARCプロデューサー 一般社団法人 スペースポートジャパン (SPJ) 共同創業者兼理事 高田 真一氏

西村:チャレンジしたい場合は、手を上げるんでしょうか。

高田:まずは僕たちのノウハウ、経験などの情報とともに、我々はこういうことを目指していると伝え、民間企業にアイデアを提案してもらうのです。実際に事業化に向けた共創活動に移行するかどうかはその企業の担当者と会って、話をします。

そして提案されたアイデアに事業性があるのか、実現可能性があるのかを議論する。できそうだとなると、J-SPARCという枠組みで具体的に動き出すのです。提案してもらうのが、チャレンジの一歩です。

西村:2018年までなかった仕組みですね。

西村 真里子氏

高田:探査、例えばはやぶさのミッション、最先端技術の塊を引っ張っていくようなJAXAのプロジェクトは絶対必要ですが、もっと裾野を広げる、産業としてやっていく側面が必要だと思いました。その役割を担うのがJ-SPARCです。

一例をあげると、宇宙食は宇宙飛行士が宇宙で食べるものですが、まだ市場ボリュームとしては小さい。しかし、栄養バランスも取れて、種類も豊富で、保存期間も長く、放射線にも強い。そういうメニューを作れるノウハウも持っています。つまり宇宙食は、防災食としても使える可能性があるわけです。

J-SPARCには、今、防災食の開発者たちと協働で、宇宙・防災食というテーマで取り組んでいるメンバーもいます。これまでそうしたコミュニティはありませんでしたが、宇宙と教育、宇宙と食、コミュニティをたくさん作っていくことがJ-SPARCの重要な取り組みなんです。

私たちの夢は、地球低軌道の場を民間活動の場にしていくこと。それを実現できるようなものを作っていきたいですね。

西村:佐渡島さんは宇宙を盛り上げるコミュニティ活動について、どのように考えていらっしゃいますか。

佐渡島:リアルな地域のコミュニティだと、そこに人が住んでいるので、若い人から老人まで、どのように地域としてまとめるかが重要になる。宇宙ビジネスは多岐にわたっていろんな人がいます。宇宙という言葉だけで興味を引くのは、もはや難しくなってきている。

例えば高田さんが取り組んでいるものでも、宇宙からのデータを活用してビジネス化するのはデータの専門家です。宇宙旅行にしても、旅行の快適さが重要な要素になります。つまり、宇宙がメインではない宇宙ビジネスに可能性があると思っています。

佐渡島 庸平氏

▲株式会社コルク 代表取締役 佐渡島 庸平氏

例えば同じ青と呼ばれる色でも何十種類もあるように、ビジネスの解像度が高くなると、それにふさわしい言葉が与えられていきます。もはや宇宙くくりではなくて、自分たちがどういうビジネスをやっていきたいのか、概念を鋭くしていくことが大事ですね。

本来、ITベンチャーはITインフラを提供する企業です。料理アプリを作っているのであれば、料理ITベンチャーというように、キャラクターの方を名乗った方がよいと思うのです。

だから宇宙事業も、解像度の高い宇宙関連のビジネスがうまくいき、それを標榜した人とのコミュニティが作られていくんだろうと考えています。

西村:今後は細分化していく必要があるかもということですね。

佐渡島:それらを表現する言葉が作られていくタイミングが来ているんだと思います。

【Q&A】視聴者から寄せられた質問を紹介

ここで第一部は終了。10分間の休憩を挟んで、乾杯の合図とともに後半が始まりました。

コルク佐渡島庸平氏とJAXA高田真一氏

後半は、視聴者のみなさんから寄せられた質問に、佐渡島氏と高田氏が答えるスタイルで進められました。

Q.宇宙から地震の仕組みなどを研究できるのでしょうか。

高田:地震は地殻変動など下から見るイメージがありますが、小型の衛星で地球を観測する技術が進んでいます。宇宙から観測するメリットは、地上で見にくいところもくまなく見られること。レーダーの衛星を高頻度にアップデートして、地上の変化を見つけるなどは面白い研究分野だと思います。

西村:山火事など、火種を早めに発見して、そういう地球規模で起きている災害が宇宙の視点でできるといいなと思います。宇宙のデータを使って、SDGsチャレンジみたいな取り組みみなどは考えられるでしょうか。

高田:アメリカやオーストラリアだけではなく、東南アジアでも頻繁に森林火災が起こっていますからね。火災などの変化をいち早く見つけ、消防隊や救護隊を最適な経路で向かわせるような仕組みづくりに、衛星データの活用が期待されています。

西村:例えば衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」の整備や、合成開口レーダー「SAR(サー)」を搭載した衛星を打ち上げるなど、データ活用に関する話題が近年、増えています。日本では、衛星データの活用がブームになっているのでしょうか。

高田:ブームになっているのは日本だけではなく、世界中です。衛星のデータを取得しただけではまだまだ遠い。それをいかに使える状態にしていくかが重要です。それもまだ遠い。

よく言われるのが、漁業に衛星データを活用する場合、漁師さんからすると大事なのは衛星データではなく、どこに行ったら魚が捕れるのか、消防隊ならどこに行ったら火事が消せるのか、それを知りたい。そこまでの粒度に落とし込めるようにすることが、チャレンジなんです。

コルク佐渡島庸平氏とJAXA高田真一氏

西村:宇宙の可能性を知ることができるカンファレンスなどがあれば教えて下さい。

高田:宇宙ビジネス関連のカンファレンスは、増えてきています。代表例は「SPACETIDE」で、民間による日本最大規模の宇宙ビジネスカンファレンス。同コンソーシアムでは年に数回イベントを開催しています。

同カンファレンスに行くと、いろんなベンチャーがあることがわかりますし、どこにビジネスのチャンスがあるのか、そういうトレンド感もつかむことができます。

西村:佐渡島さんは、ビジネスに結びつけていけるようなコミュニティ作りなどはされているのでしょうか。

佐渡島:宇宙関係でビジネスをやろうとするとコストが高すぎて、ベンチャーだとなかなか取り組めないと思います。ですが、先ほども言ったように宇宙インフラが整備され、そういった企業とベンチャーが連携して、ビジネスが立ち上がってくると思います。

最初から宇宙、と思ってベンチャーを立ち上げるのはしんどいと思います。というのも日本のベンチャーはVCのお金がようやく回るようになったレベルで、なかなか投資をしてもらえないからです。

特に宇宙ビジネスのような企画には、なかなか投資されない。シリアル・アントレプレナーがもう少し増えてくれば、いろいろ変わる気がします。

コルク佐渡島庸平氏とJAXA高田真一氏

Q.宇宙ビジネスに携わるパーツメーカーです。日本はモノづくりにおいて技術力の高い国ですが、その強みを生かすことで、世界で優位性を出すことはできるでしょうか。

高田:出せるでしょうね。日本はモノづくりが強いので。日本の宇宙船やロケットは性能も良くて安定しています。その領域を広げていきたいという考えがある。

佐渡島さんもおっしゃっていましたが、JAXAではインフラや衛星のデータを作ることはしていますが、その先にどう使われていくか、我々に届くところまでは距離があります。その間にぶっ飛んだアイデアが出てくれば、そこにものづくりの強みがもっと活かされていくはずです。

Q.エンジニアとしての想像力&創造力を、鍛えるために気をつけていることは?

高田:『宇宙兄弟』をはじめ、いろんな視点でいろいろなものを読むことですね。そうすることで想像力は膨らみます。一方の創造力の鍛え方としては、アメリカのベンチャーが挑戦していることや、宇宙ではない分野で取り組んでいることを、自分のフィールドでどう応用できるかを考えてみることです。私も、時間があれば思考を試みています。

佐渡島:現実は具体的な1秒の積み重ねです。僕らはその現実の中で、具体的な行為をしています。サービスを作ったりするときは、それを使っていることを抽象的に想像します。

例えばネットで買い物をする行為は、商品を探したり、カートに入れたりなどたった10分間ぐらいの行為です。ですが、エンジニアやサービスを作る人たちは仕様書を書いて整理しますが、実際はその仕様通りには進んできません。

つまり頭の中で、時間が短縮されて抽象的な行為だけで済んでしまっているんです。『宇宙兄弟』で小山さんとよく、月面にうまくトリップしましたねという話をします。月面基地でどんな事故が起こるか、普通は抽象的な事故だけが思いつくんだけど、小山さんは事故が起きている月面基地の中で、時間をしっかり1秒1秒過ごすようなことをするんです。

コルク佐渡島庸平氏とJAXA高田真一氏

事故が起きた宇宙船で朝ご飯は、トイレはどうするのか。温度が保たれているのだろうか。寒くなったらどうするのか。通信はこの間にここが壊れているから、無理じゃないとか。随分前の回になりますが、小山さんから非常に難しい質問がきました。T-38の腹はどうなっているのか。わからないので、下から撮影した写真がほしいと。

実は宇宙飛行士はT-38という飛行機で訓練をするのですが、六太が初めてT-38を見るのは、日々人が乗っている機体、つまりT-38の腹を見るわけです。ですが、飛行機の写真集で腹を写しているものはありません。月面でのこともそれと同じで、監修をしてもらっているJAXAの山方さんに細かくいろいろ聞いています。

高田:想像力および創造力は大事ですね。宇宙船こうのとりも、いろんなパターンのシミュレーション訓練をします。こんな不具合が出たらどんなリアクションをするのか、チームでどんな会話をして不具合を乗り越えるのか、不具合シナリオを1000本ぐらい想像して、訓練を創造しました。

従って、本番はむしろ楽なことが多いです。どれだけその世界に自分が入って想像して、リアルに起きそうなことを考えられるかが、成否を分ける鍵になるんじゃないでしょうか。

佐渡島:『宇宙兄弟』の中でも、NASAの人はどれだけ意地悪なんだという描写があります。ここが壊れて、ここも壊れてと、全部同時に壊れる訓練のシーンがあります。ITエンジニアのみなさんも、不具合テストがどのくらいできているのかは、想像力や創造力の働かせ方によって大きく変わってくると思います。

コルク佐渡島庸平氏とJAXA高田真一氏

Q.今までできていないことで、どんなもの・ことが宇宙からのセンシングでできれば良いと思いますか。

佐渡島:宇宙からではないのですが、自分の肉体への細かいセンシングに興味があります。例えば今、僕はFitbitで心拍数を記録しています。もし、僕の身体は今日、肉と魚とどっちを食べたがっているのか、教えてもらえる機能があればうれしいですよね。

高田:環境問題に、宇宙がもっと貢献できればいいなと思っています。例えば海洋プラスチックゴミが大量に漂流していると、アラートを上げるとか。地上では見えないものを広範囲に可視化できるのが宇宙の強みなので。

佐渡島:what3wordsのようなサービスも面白いですね。what3wordsは3メートル四方の場所がわかるんです。今いる場所を3つのワードで表現。その3つのワードをタクシーアプリに送ると、ぴったりの場所に迎えに来てくれるんですよ。これは衛星を使ってはいませんが、こういうサービスも面白い。

コルク佐渡島庸平氏とJAXA高田真一氏

Q.宇宙ビジネスの次に取り組んでみたいテーマはありますか?

高田:宇宙ビジネスといってもたくさんあるので、宇宙ビジネスを通してやりたいことをやっていくこと。僕が力を入れている領域は、宇宙輸送ビジネスと、国際宇宙ステーションのような地球低軌道という場を使ったビジネスです。有人宇宙活動も視野にいれています。まだまだハードルが高いですが、一つずつ確実にしていくことです。

JAXAで独自の有人宇宙ロケットは、まだ実現していません。今、僕は兼業でSpaceport、日本で水平型宇宙港を作ることにも携わっています。その拠点が日本はもちろん、アジアにとっての宇宙利用のハブ、そして有人宇宙旅行も含めた宇宙輸送のハブとなればいいと取り組んでいます。宇宙旅行のベンチャーも出てきていますし、日本から宇宙に飛び立てるようにすることが、今の目標です。

佐渡島:新しい産業が立ち上がったときに、ベンチャーやJAXAの人たちは、世間から応援してもらいたいのですが、自分たちのやっていることがうまく伝えられないんですよ。そこを紹介している作品とコラボしたらいいと思っています。

僕もこれからくる産業を予想して、そのジャンルを作っていきたい。例えば今、注目しているのが予防医学。医療漫画やドラマは山のようにある。かつての医療は感染との戦いでした。その状況下で医者がやることは公衆衛生です。

コルク佐渡島庸平氏とJAXA高田真一氏

公衆衛生がほぼ終わり、感染がなくなると、医者は人の身体の中から病気を見つけて、治すことが仕事になりました。ですが、80歳や90歳になって癌が見つかったら、それを治療するという選択肢だけではなく、癌と共に生きていくという選択肢もあります。

病気と共に生きく中で、健康をどう設計していくのか。人類が初めて、健康という状態を保って、120%自分の力を出すにはどうすればよいのかを考える時代なんです。医者は人が120%の状態を保てるように、体や心のアドバイスをするような職業に変わっていこうとしているのです。

新しい医療漫画は予防医学をテーマにしようと考えていますが、この予防医学という言葉がいけていないので、その辺も今後、考えていかなければなりません。コーヒーとチョコレートに凝っている人の恋愛漫画とかも面白いなと思っています。僕はVCの人よりも、どの産業が次に来るのかなど、いろいろ調べているので、詳しいんですよ(笑)。

西村:どういう業界が来るのかなどのニュースを集めたい人は、佐渡島さんのTwitterやYouTubeをフォローすることをお勧めします。高田さんの活動はどう追えばよいですか。

高田:J-SPARCの活動についてはHPのチェックと、メンバーのSNSをフォローすることをお勧めします。今後はJ-SPARCとして、SPACE TIDEなどのイベントへの参加も検討しています。イベントもチェックしてほしいですね。

西村:宇宙をテーマとしたイベントもできればいいですね。ありがとうございました。

『宇宙兄弟』編集者のコルク佐渡島庸平氏とJAXA高田真一氏が語る──「宇宙×テクノロジー」で広がる可能性とは?【前編】