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iU学長・中村伊知哉氏×ちょまどさんが「漫画×テクノロジー」を語る──デジタルアップデートには漫画の力が必要だ!【後編】

日本政府が推進する「クールジャパン戦略」で世界に誇る最大のコンテンツ「漫画」。だが一方で、日本は漫画のデジタル化に遅れをとってきた。漫画がテクノロジーと掛け合わされることで、どのような未来が描けるのか──。
HEART CATCH代表の西村真里子氏をモデレーターに、「iU」学長の中村伊知哉さんとITエンジニア兼マンガ家の千代田まどか(ちょまど)さんが、熱い「漫画×テクノロジー」トークを繰り広げた。

漫画×テクノロジー

「漫画×テクノロジー」が及ぼすこれからの変化

西村真里子氏

西村:オタクの方たちが持っている力が、実はいろんなものを打破することにつながる気がするんですけど、ちょまどさん、いかがでしょう。

千代田 まどか(ちょまど)さん
ちょまど:私のオタクのパワーの源泉は煩悩なんです。私が何かやるきっかけは常に煩悩。自分がやりたいと思う心ですね。

私がプログラミングを覚えたきっかけは、自分の創作BLサイトを作りたい、世界中の腐女子と交流したいという煩悩からでした。当時SEOを少し勉強したのも、ネットで何らかの検索をしたときに、私の描いたあまり健全ではないBL絵が出てくるを見せるのはよろしくないと思ったからで。

いかに検索エンジンに拾われず、腐女子コミュニティの相互リンク内だけで完結させるか、ということに情熱を燃やし、検索アルゴリズムを勉強して逆SEOみたいなことをしていました(笑)。

英語を勉強したきっかけもハリーポッターの原書を読みたいからだったし、フランス語検定の3級をとったのも、当時はまっていたBL小説の推しがフランス人だったからなんです。

西村真里子氏

西村:ちょまどさんをはじめ、オタクの人たちは好きなことを掘り下げているパワーを持っているということですね。

千代田 まどか(ちょまど)さん
ちょまど:私はよく知らないんですけど、聞いた話によると、オタクって昔は蔑称だったんですよね?

西村真里子氏

西村:オタクという言葉のイメージが、昔と今では違うんですよね。

千代田 まどか(ちょまど)さん
ちょまど:アメリカにもオタ友が何人かいるんですけど、英語の『オタク』はアクティブなイメージなんです。私の中でもそう。すごく好きなものがあって、それを掘り進んでいくイメージ。私はすごく尊敬の意をもってオタクと言っているし、自分がオタクということに誇りを持っているんです。

西村真里子氏

西村:ステキですね。

中村 伊知哉氏
伊知哉:中国もそう。インテリの大学生が英語や日本語が読める人から、「オタク」という文化が広がったんです。だから、最初からオタクはポジティブに捉えられている。

「世界中の揉め事を仲裁してつなぐのはオタクしかない」と言い切るイタリア人のオタク研究家もいます。オタクの一人ひとりは小粒だけど、全体をゆるくつないでいく柔らかいパワーがあると。それを聞いて、僕は「なるほど」と思いました。

西村真里子氏

西村:伊知哉さんが立ち上げた「世界オタク研究所」はどんな活動をしているのですか。

中村 伊知哉氏
伊知哉:アニメや漫画、ゲームの愛好者の対象となるコンテンツ、さらにはそれを支えるコンテンツ産業を対象とした研究機関構築を目指すプロジェクトです。国内外の研究者や制作者、コンテンツ産業界が研究の成果や情報を共有する場の構築を目指して活動しています。世界中の人たちがクリエイティブな世界に参加できる仕組みにしたいと思っています。

西村真里子氏

西村:みんなで世界とつながるコンテンツを作ることになったら、ちょまどさんはどんなものを作り上りますか。

千代田 まどか(ちょまど)さん
ちょまど:国の擬人化漫画「ヘタリア」のようなものをやるのがいいと思います。みんな、愛国心があるので、自分の国のキャラは超かわいく、かっこよくする。

さらに、アトリビュート(※対象の性質や設定などを示す付加情報)をたくさん入れて、推しを作る。オタクは推しがあってなんぼ。推しへの愛を形にできるような企画がいいと思います。

西村真里子氏

西村:国際問題が起こっても、擬人化してキャラで戦わせたら、一歩引いて考えられるかもしれませんね。擬人化外交というのでしょうか。

千代田 まどか(ちょまど)さん
ちょまど:国のトップの会談は、全員バ美肉(バーチャル美少女受肉:美少女の3Dアバターに自分の魂を入れる(=受肉する)こと)すればいいのにと思います。バ美肉はテレビ番組でも取り上げられるなど、一般的になってきているんじゃないかなと。首脳陣がみんな美少女キャラになれば、会談が女子会みたくなって国同士がもっと仲良くできるかもって妄想してみました(笑)。

西村真里子氏

西村:世界オタク研究所で世界紛争が起きたときは、バ美肉でと提案してみるのはいかがでしょう。バ美肉もオタクの次に輸出できるといいですよね。

中村 伊知哉氏
伊知哉:漫画に影響を及ぼすテクノロジーとして、次に来るのはAIです。AIとデータに乗り遅れたら、日本は死んでしまう。だから漫画とAI、漫画とデータに今真剣に取り組まないといけない。

ようやく手塚治虫さんの漫画をAIで解釈して、「ぱいどん」という作品を作りました。他の国が気づいていない間に、キャラクターやストーリー作りを含め、研究機関を巻き込んでAIにマンガを作らせることをやっていきたいと思っています。

西村真里子氏

西村:iU大学や世界オタク研究所では、どんなプロジェクトを進めているのでしょうか。

中村 伊知哉氏
伊知哉:例えば、僕は吉本興業の社外取締役でもあるのですが、理化学研究所のAIのチームと、M1グランプリでチャンピオンになれる漫才をAIで作るチャレンジを始めました。

今はまだAIに漫才のDVDを学習させている段階ですが、漫画の方が学習のためのストックがたくさんあるので、きっとやりやすい。これは漫画大国である日本だからできることだと考えています。

西村真里子氏

西村:AI化して、次の創作につなげていく。それが実現すると日本は漫画という世界でさらに強みを発揮できそうですね。

【Q&A】視聴者から寄せられた質問を紹介

イベント後半は、視聴者からの質問に答える形式でセッションが行われました。

Q.熱中できるものが見つからないと悩む人に、ちょまどさんならどんなアドバイスをしますか

千代田 まどか(ちょまど)さん
ちょまど:熱中できるものが見つからないのは、すごくつらいと思います。熱中までもいかなくても楽しいと思うことをやってみたらいかがでしょう。
私は熱中するものを見つけようと思って動いたことがありません。そのときに楽しいと思ったことをやっているうちに、見つかるものだと思う。焦らなくても大丈夫と思います。

西村真里子氏

西村:漫画には、いつからはまったんですか?

千代田 まどか(ちょまど)さん
ちょまど:子どもの頃、小児ぜんそくがひどくて、よく入院していたんです。結果、同年代の友達を作る機会が少なく、病院ではゲームで遊んだり、マンガを読んだりしていました。そのうちに気づいたら、ゲームや漫画が好きになっていたんです。

先ほど昔の漫画は読まなかったと言いましたが、母と父は同じ少女漫画が好きで出会ったらしく、その思い出の少女漫画は読みました(笑)。

中村 伊知哉氏
伊知哉:それはどんな漫画?

千代田 まどか(ちょまど)さん
ちょまど:タイトルをど忘れしましたが、フランス革命が舞台でオスカルが出てくる。

西村真里子氏

西村:「ベルサイユのばら」ですね。

千代田 まどか(ちょまど)さん
ちょまど:それだと思います。私はあれでうっかり男装ヒロインにハマりました。BLの次に。大学の頃ハマった『桜蘭高校ホスト部』も男装ヒロインで最高だったなあ。

Q.日本の漫画の素晴らしい表現力は、どこから生まれたんでしょうか。

中村 伊知哉氏
伊知哉:元々あったんだと思います。鳥獣戯画は12世紀のものですが、すでにその頃には漫画的な表現がありました。それをずっとキープしてきたんです。

西洋の文化のように王侯貴族が作らせたのでも、大事にしてきたものでもない。庶民の間で培ってきた表現力を、作る側も楽しむ側もみんなで大事に育ててきた。それが漫画文化のすごさだと思っています。

西村真里子氏

西村:そういえば、今SNSでは「あまびえ」っていう妖怪を守って、神的なキャラに進化させるのが話題になっていますね。

中村 伊知哉氏
伊知哉:日本ではしんどいことがあると、そういうコンテンツを生むんですね。例えば中国と日本が尖閣諸島でもめていたときに、中国の人たちは日本人を日本鬼子(リーベングイズ)と悪口言っていた。

それを日本のネット民が逆手にとって、日本鬼子(ひのもとおにこ)ちゃんというキャラに変えたら、中国の人たちにウケた。そういうオタクのノリは、ゆるいけど国をつなぐパワーを持っていると思うんですよ。

千代田 まどか(ちょまど)さん
ちょまど:去年、台風で被害がたくさん出たんですけど、そのときもTwitterでは令和を幼女、平成をお兄ちゃんにするなど、元号を擬人化してバズっていました。平成くんに「令和ちゃんそれはやりすぎだよ」と言われても、幼女の令和ちゃん「わかんない」と。

「令和ちゃんはまだ生まれたばかりだから、仕方ないよね」とTwitter民はみんな、許す、許すと。こういうのも日本だなって。本当に良い国に生まれたなと思っています。日本以外でたぶん、生きていけない(笑)。

Q.音楽はサブスクリプション+ライブでのグッズ販売にシフトしました。漫画もそういう方向性にいく可能性はあると思いますか。

中村 伊知哉氏
伊知哉:表現のジャンルの中で、音楽が最初にネットの洗礼を受けました。20年前にP2P技術を用いたNapsterの登場で、急激にビジネスモデルを変えないといけなくなった。そこで音楽はサブスクリプションやダウンロードなど低価格で提供して、ライブ+グッズ販売というビジネスにシフトしました。

映像もサブスクにシフトしているように、漫画もサブスクのビジネスが大きくなっていくと思います。今のところマンガは世界に出て行く際にはアニメ化してネット配信し、グッズを売るというビジネスを展開しています。実はアニメのコンテンツで入ってくるお金よりも、その後のグッズや二次展開の市場の方が10倍大きいんです。

コンテンツでファンを掴んで、グッズや二次展開で稼ぐ。今後はアニメ化を経るのではなく、漫画から直で2.5次元ライブにするなどのやり方も出てくると思っています。最近は、漫画業界も他業界とつながっていこうとする動きがあるので、期待しています。

Q.漫画やアニメ業界のクリエーターの働き方改革を、AIで加速させるにはどういったことが必要でしょうか。

中村 伊知哉氏
伊知哉:大手IT企業に協力してもらって、プロやアマチュア関係なく、すべてのクリエーターがAIを使える環境を作ることだと思います。

西村真里子氏

西村:そうした課題に取り組むスタートアップもありますよね。吹き出しの中の文字を自動翻訳する技術を開発する、大学発ベンチャーも出てきました。これからの漫画を加速するようなスタートアップを知っていればご紹介ください。

中村 伊知哉氏
伊知哉:CiPでファンドを作っているのですが、その投資先の候補にはAIでキャラクターを生むことに特化しているスタートアップがあります。AIでキャラクターを1000個作るテクノロジーはあるが、それをどうやってビジネスにするか。そこには人が必要なんですよね。

千代田 まどか(ちょまど)さん
ちょまど:線画を上げるとAIで自動彩色してくれるサービス『PaintsChainer』を、2017年に見つけて感動したことを思い出しました。

西村真里子氏

西村:そういうものを組み合わせると、新しい漫画が創作できそうですね。

中村 伊知哉氏
伊知哉:彩色、翻訳だけではなく、小説を書くAIもある。部分部分でAIを使い、漫画家さんが全体を編集・構成して作品を作っていく。しばらくは、そういう使い方になりそうです。

Q.今後、漫画にどんなテクノロジーが必要になってくると思いますか。

中村 伊知哉氏
伊知哉:ブロックチェーンです。漫画家が出版社を通さず、自分の権利を手元で確保しながら、世界に作品をループさせる流通の方法ができるようになると思います。

Q.絵を描く際に、意識的にこういう物理的なパラメーターをこういじる(例えば力強い印象にするには線を太くするなど)といった考えや、バリエーションの一部を教えてほしい。自分の個性が表れているのはどこだと思いますか。

千代田 まどか(ちょまど)さん
ちょまど:難しいですね。絵に自分らしさを求めたことがあまりないので。常にそのときに書きたいものを衝動のまま描くのが私のスタイルです。絵を描くときに気をつけていることは、そのキャラっぽくなるようにすること。

例えばこのページを見てもらえればわかるんですけど、C(言語)ちゃんは普段は何も考えているのかわからないキャラなので、何を考えているかわからないように描く。

CちゃんがモードC++に入るとC++ちゃんに超進化します。すると戦闘力が高まり、「ブーストかけるぜ!」が口癖になる(C++用の有名なライブラリBoostから来ています)ので、その口癖が似合うキャラに描く。私の答えはそのキャラに愛があるので、「そのキャラに見えるように描く」です。

Q.仕事×マンガ×オタ活する時間配分や、ちょまど流仕事術があれば教えてください。

千代田 まどか(ちょまど)さん
ちょまど:時間は常に足りないですね。時間をどうやりくりするかは私の人生の課題です。そのときに、一番パフォーマンスが出るものをやることにしています。もちろん仕事上の優先順位があるので、選べる猶予があるのであれば、ですけどね。

Q.漫画から派生したコンテンツとして、アニメやVTuberなどがあると思いますが、この先、テクノロジーの進化で、どんな二次元コンテンツが生まれると思いますか。

千代田 まどか(ちょまど)さん
ちょまど:私は腐女子を一番こじらせていた高校生の時、よくその場にキャラがいるような幻覚・幻聴があったんです。それができるようになってほしい。「俺の嫁を召喚してほしい」ってことです。夢のキャラ召喚装置Gateboxは既にありますが、さらにもっとカジュアルに推しを召喚したい。それが実現できたら私の寿命は30年ぐらい延びると思います(笑)。

中村 伊知哉氏
伊知哉:いいですね。壁をサイネージにしてデジタル空間にすればできそう。

西村真里子氏

西村:私もやっとオタクの「オ」の字が見えてきた気がします。最後にお二人からのメッセージをお願いします。

千代田 まどか(ちょまど)さん
ちょまど:テーマが最高だったので、私自身楽しみましたし、皆さんも楽しんでいただけたのならうれしいです。貴重な機会をいただき、ありがとうございました。

中村 伊知哉氏
伊知哉:僕の著書「超ヒマ社会をつくる」を書いたきっかけは、テクノロジーに仕事をさせたら、超ヒマになると思ったからなんです。無駄な仕事はテクノロジーにやらせて、楽しく漫画を読んだりして楽しむことが大切だと改めて感じました。

iU学長・中村伊知哉氏×ちょまどさんが「漫画×テクノロジー」を語る──デジタルアップデートには漫画の力が必要だ!【前編】