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【前編】シグマアイ大関真之氏と日本総合研究所 東博暢氏が語る──with/afterコロナ時代の「量子コンピューター×超感染症社会」

コロナと共に生きていくポストコロナ社会。テクノロジーをどう活用し、エンジニアのスキルをどう活かしていくべきなのか?日本の量子コンピューター研究の最先端を走る東北大学大准教授/シグマアイCEOの大関真之氏と、スマートシティ・スタートアップ共創を推進する日本総研プリンシパル東博暢氏が、熱い対談を繰り広げた。モデレーターはHEART CATCH代表の西村真里子氏が務めた。

量子コンピューター×超感染症社会

●登壇者プロフィール

大関 真之

大関 真之氏
東北大学大学院情報科学研究科応用情報科学専攻 准教授
東京工業大学科学技術創成研究院 准教授、株式会社シグマアイCEO
東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了。博士(理学)。京都大学大学院情報学研究科助教、 ローマ大学研究院等を経て現職。真の産学連携の姿を追い求め、株式会社シグマアイを設立。基礎研究にとどまらず、 応用研究をデンソーや京セラなど多数の企業と共に推進。株式会社シグマアイとD-Wave Systems Inc.の間で日本初の大型契約を締結。代表的な著作「機械学習入門-深層学習からボルツマン機械学習まで-」「ベイズ推定入門-モデル選択からベイズ的最適化まで-」「Pythonで機械学習入門- 深層学習から敵対的生成ネットワークまで-」「量子コンピュータが人工知能を加速する」「量子アニーリングの基礎」「量子コンピュータが変える未来」

東 博暢氏

東 博暢氏
株式会社日本総合研究所 プリンシパル
2004年より特定非営利活動法人にて、ベンチャー支援や社会企業家育成支援、ソーシャルメディアの立ち上げを経て、2006年日本総合研究所入社。2016年2月に、株式会社三井住友銀行と共に、日本の成長戦略の基盤となる先進性の高い技術やビジネスアイデアの事業化を支援しイノベーションを推進する異業種連携の事業コンソーシアム「Incubation & Innovation Initiative(III)」を組成し、全体統括を行うと共に、アクセラレーションプログラム「未来」を運営している。2018年から、IIIに参画する地方自治体と共に、地域の課題解決を通じ、新しい価値の創出し、まちをより魅力的にするためのプログラム未来Smart City Challengeを開始し、令和時代の新たな地方創生に取り組んでいる。また、近年では、情報銀行の立ち上げや、官民連携したスマートシティ政策の推進に従事している。

大関氏がベンチャー・シグマアイを立ち上げた理由とは?

6月19日、県境またぐ移動制限が全国で解除されたことで、地方の観光地にも観光客が戻り始めている。だからといって新型コロナウイルスの脅威が消えたわけではない。

これからは感染症に備え、命と経済を両立する超感染症社会を生きていくことになる。そこにこれからの技術として注目されている量子コンピューターはどう貢献できるのか。

西村真里子氏

西村:大関先生は大学の准教授ながら、シグマアイというスタートアップで新型コロナ対策に関するチャレンジをされています。現在の活動について教えてください。

大関 真之氏
大関:普通の常識で考えると、大学の先生が外の仕事をしてもいいのかと思われますよね。しかし、国も社会も変わろうとしています。私は東北大学の准教授ですが、クロスアポイント制度を活用し、東京工業大学でも准教授として教えています。さらに、シグマアイを創設しました。

シグマアイのトップページの絵には、重要なコンセプト「個人個人の力が総体となって地球を救う」ことを目指そうというメッセージが込められています。「3つの“i”が未来を創造する」の3つのiとは、個性とアイデア、私自身という意味です。

西村真里子氏

西村:参加者から、「大学生ですが、起業している教員はいないのでびっくりしました」というコメントをいただきました。東さん、大関先生のようなクロスアポイントで働いている大学教員はレアキャラですか?

東 博暢氏
:大関先生はクロスアポイントの先駆者で、当時は珍しかったですけど、今かなり増えてきています。

大関 真之氏
大関:僕はこれまでの形式はやめて、変化させていくことを目標にしています。なぜかというと、僕の趣味は履歴書に行を追加することだから(笑)。大学の先生の仕事は新しいアイデアで世界を変える研究をコツコツして、披露することです。

しかし、仕事の成果はポイントとなり、ポイントを増やしていくと出世する。最近は出世だけではなくて、研究者自身の雇用の期間が続くかどうかが成果になります。

長い時間かけてじっくりコトコト煮込んだスープを作りたいのに、雇用期間が短いので、小さな研究を積み重ねて論文を書いて、派手なプレゼンテーションして受賞することをやり続けなければ雇用が続かない。これは本末転倒ですよね。

大きな研究をするために、小さな研究に時間を割くことをやり続ける。研究者になったのは、新しい成果を発表して世の中をびっくりさせたり、新しい技術・発見で誰かを幸せにすること。

それなのに、小さな研究を続けていくと、考えが矮小になってきて、世界の誰かを見て研究するのではなくて、自分のちょっと先しか見なくなります。それが許せなかった。「本当にやりたいことをやるためには?」と考えると、自分たちで資金を確保する必要があった。そのためにはちゃんとビジネスを行い、私たち自身の価値を認めてもらおうと思い、シグマアイを立ち上げました。

量子コンピューターという技術は、まだ社会との間に壁があります。その壁をなくすのがシグマアイの役割でもあるんです。つまり、シグマアイは量子コンピューターを使えること、この技術はこんなに面白いことなんだよ、ということを社会に伝えようとしています。

量子コンピューターを社会でどう役立てるのか

西村真里子氏

西村:新型コロナ対策として、量子コンピューターは社会にどう役立つのでしょうか。

大関 真之氏
大関:量子コンピューター時代の幕開けとして、2019年にGoogleが量子超越性を達成したというニュースがありました。人類は量子力学を自由自在に使える時代が来たのです。

量子力学を使うと、今までコンピューターができなかった仕事、計算方法が素早くできるようになります。具体的には昨年の時点で世界一のスパコンと、53量子ビットでできた量子コンピューターが対決したところ、世界一のスパコンでは到底、おぼつかないような計算を量子コンピューターは一瞬で終えました。

東 博暢氏
:物理の世界では長年、量子をどう実用化するかについて語られてきました。Googleがやり出したことで、あっという間に社会に広がるだろうと。ターニングポイントになるニュースだと思いましたね。

西村真里子氏

西村:すごそうですが、適用範囲が自分たちからは遠い印象があります。

大関 真之氏
大関:素晴らしい技術があっても、僕たちの社会に貢献させるにはどうすればよいかが抜け落ちているからなんです。量子コンピューター界隈で研究を続けていて、感じることでした。

西村真里子氏

西村:大学で閉じているだけではなく、もっと社会に適用しなければという想いから、シグマアイでのチャレンジがあるんですね。

東 博暢氏
:大学と産業界の接点は共同研究しかないですからね。世界の大学では、一度起業して大学に戻ってくる人が山ほどいる。アメリカではそうでないと教授として雇用されない。しかし、日本はそうじゃないんですよね。日本もようやく5年前ぐらいから変わってきました。

西村真里子氏

西村:具体的には、量子コンピューターをどうやって社会に適用していくのでしょう。

大関 真之氏
大関:そもそもコンピューターは計算をするものです。例えば、そろばんは玉を上下に移動させることで、数値を表して計算します。それをより容易にするために作られたのが、電卓です。これがコンピューターの源泉。電流を流すか流さないかでオンとオフを切り替え、そろばんの玉と同じ動作をするわけです。

つまり、上下の動きをするのが今までのコンピューターです。子どもの頃って、足し算するときに指を使いましたよね。エンジニアならわかると思いますが、指の立て方だけで2の5乗まで表現できます。

指は上下だけではなく、横にしたり、また指を折り曲げと伸ばした状態の中間にすることもできる。そういう新しい指の上げ下げに加え、角度という情報を持つことができるのが量子ビットなんです。

角度はいくらでも設定できるので、1つのビットが持つ情報量は膨大なものになります。だから量子ビットを使った計算は高度なことができると思われた。斜め45度回した後に、30度回す、とか。しかし、細かな角度が使えるといっても、それを制御するのは非常に難しかった。

詳細な角度指定などはエラーが多い現状もあります。量子コンピューターは繊細な技術なんです。そこで登場したのは、量子コンピューターの亜種である量子アニーリング。この仕組みは至って簡単です。

指を立てたら「1」。指を折り曲げたら「0」。そして横に倒すこともできる簡易的な「量子ビット」、1でもあり0でもある中途半端な状態のビットを作ります。その後、レンジでチンするように計算時間20マイクロ秒(100万分の1秒)という一瞬のスピードで、横倒しのビットを「君は上に行った方がいい、下に行った方がいい」という「0」「1」の判定をしてくれるマシンです。

0と1の選択をするだけではありません。例えば0は右、1は左だとすると、「私の人生は右に行くべきか」「左に行くべきか」というように、いくつもの連続した組み合わせが出てきます。この選択肢は2048種類。その2048個の選択の中で、「あなたにとってこの組み合わせが一番いいですよ」という答えを出してくれるのが、量子アニーリングのスキームです。

量子アニーリングマシンとは何か?

大関 真之氏
大関:実際に量子アニーリングマシンがどれだけすごいかは、D-Wave Systemsで試すことができます。アカウントを作れば無料で1分間、D-Wave Systemsのマシンが使えます。D-Wave2000Qという現行機は2048量子ビットを搭載。何がすごいかという消費電力の低さです。20フェムトワット(10のマイナス15乗)なので、電力消費はほぼありません。

2048の量子ビットで01の選択をするのですが、1回の計算は20マイクロ秒と非常に短い。だから、同じ問題を1000回解くことも一瞬でできます。もちろんうまい解き方を知っていれば、適切な組み合わせを見つけることは今のコンピューターでも素早くできます。

しかし一見すると解き方のわからないパズルの問題を、量子アニーリングマシンはあっという間に解いてくれる。そこに強い期待が集まってD-Waveが登場して以降、実問題への応用の機運が高まりました。量子アニーリングマシンのプログラミングに使うのは二次関数です。数学的には難しいことはやっていません。

では、どんな問題に適用したか。一つは無人搬送車への応用です。工場内には多くの無人搬送車が動いており、渋滞が起こっていました。無人搬送車の右に行くか、左に行くか、前に行くか、止まるかという選択を一瞬に行うことで、渋滞を減らすことができるのではということに気づき、量子アニーリングを適用しました。

無人搬送車

このように工場内ではすでに自動運転が始まっており、その最適化に量子アニーリングが使われています。これをスケールアップしていくと、街での応用が可能になると思います。

西村真里子氏

西村:スマートシティで実際、量子アニーリングは使えると思いますか。

東 博暢氏
:普通に使えると思います。私がなぜ物理ではなく、街作りをやろうと思ったかというと、基本的に都市工学は工学系で設計し、昔の力学で説いている問題からなんです。

今までの私たちはある種、機械的に設計された暮らしをしていました。ところが、ポストコロナになった瞬間にテレワークに切り替わり、個人が解放されました。個人がどういう動きをするかはコントロールできません。

つまりコントロールできないことに対し、工学系を組むのは限界があるのです。工場は工学系のシステムの中で動いているので、システム化するのは容易です。街に出た人がどう動くかわからない中で、自動走行車や無人宅配ロボットをどうコントロールしていくか。これはもう工学では説明できません。

そこで、AI活用を考えました。AIの理論の一つであるベイジアン(ベイズ統計)も、この素材とこの素材を組み合わせると、こう硬くなるといった問題を解くのに使いますが、量子コンピューターはもっと複雑です。例えば、こういう社会になりたいという問いを投げたら答えが出てくるというような。そこが、これまでのスパコンとは全く違う点ですね。

西村真里子氏

西村:量子アニーリングに任せればスピーディーに回答が出てくるということですね。参加者から「D-Wave本体を導入する場合、いくらぐらいかかるか」という質問がきています。

大関 真之氏
大関:10数億円ぐらいかかりますね。

量子アニーリングを新型コロナウイルス対策に用いる

西村真里子氏

西村:大関先生は量子コンピューターを新型コロナ対策にも活用したんですよね。

大関 真之氏
大関:新型コロナ対策として、このようなWebページも作りました。先ほど紹介したカナダのベンチャーD-Wave Systemsは、新型コロナ対策に取り組む人々に対し、量子アニーリングマシンを無料で無制限に開放するというプレスリリースを3月発表しました。

実はその1週間前にD-Wave Systemsから「君たちも協力してほしい」という依頼がきていたんです。もちろん協力するよと回答したのですが、先方からの提案は「問題解決に困っている人が出てきたら、君たちに紹介するので手伝ってほしい」というものでした。でも、問題を探してからやるのでは、だめなんですよ。

リリースに「for planning which hospital to allocate critically ill patients(患者さんをどこに搬送すればいいか)……」と書かれているように、重症患者の搬送計画の最適化する定式を構築しました。このスピード感が大事だと思います。これが最初のチャレンジです。

次にPCR検査のリソースが足りなくなったので、どこに集中的に割り当てると、患者さんを発見しやすいかを研究して即座に実装したのが、チャレンジ2。さらにチャレンジ3では、軽症者は宿泊施設、重傷者は医療施設など搬送するというニュースを聞き、即座に段階別に分けられた場所に搬送する最適化問題を実行しました。

チャレンジ4は、感染収束に伴う公共施設や商業施設の運営スケジュールの最適化です。チャレンジ5は、オフィスとリモートワークを併用した働き方の最適化、そして最も直近の提案は、人々の行動を誘導して商業施設の混雑ピークを低減させるために、移動や到着のタイミング、買い物の時間など、人々の行動の最適戦略の提案です。

このチャレンジをNHKがニュースで取り上げてくれたのですが、「滞在時間を半分にすると、滞在者数のピークが半分になる」という点にフォーカスが当たってしまったため、SNSで「当たり前のことを言っているじゃないか」と突っ込まれました(笑)。案外と単純なものでもないのですが。

僕たちの提案は滞在時間を半分にするだけではなく、どの時間にお店にくればいいかというところまで最適化して示すような取り組みです。このような現在の社会問題を解く手段としても、量子アニーリングマシンは使えるんです。

このように今の問題に適用されることを見せると、量子コンピューティング、量子アニーリングとちょっとかけ離れたものだと思われている技術も今の技術になる。僕たちがやるべきことは、新しい技術・発見で誰かを幸せにすること。そしてやると決めたら躊躇せず、とにかくやってみせる。それがシグマアイのモットーです。

西村真里子氏

西村:チャレンジの詳しい内容はこのページで確認できます。エンジニアが触れるソースも公開する予定なんですよね。

大関 真之氏
大関:チャレンジ4からオープンにする予定なので、ぜひ遊んでください。私たちはコンビニや教育施設を対象としましたが、様々な施設に適用できると思います。適用する際には、僕たちが手伝うことももちろんですが、フィードバックをいただければ足りない機能を加えることもできます。

僕たちだけが量子アニーリングの技術を使えるだけではなく、この技術を多くの人に知ってもらうことが大事なんです。願わくはそれがエンジニアであってほしい。目の前の問題を解決するために実装してみせるのがエンジニアの使命だと思います。そのときに量子アニーリングを知っていれば、最強じゃないですか。

西村真里子氏

西村:参加者からの質問です。古典コンピューターで得られた解と比較しているのでしょうか。またここまでの組み合わせだと古典コンピューターで解けないのでしょうか。

大関 真之氏
大関:比較しています。最強のアルゴリズムを使っているので、普通のコンピューターでも量子アニーリングに勝ってしまうこともあります。量子コンピューターを使わなくてもいいという批判があるかもしれませんが、「毎回新しい問題に対してどう解けばいいのか、問題の解き方を全部調べますか」ということ。

もちろん、量子アニーリングはどんな問題も一番早く解けるわけではありません。だが、気軽に使え、世の中の問題に対応する柔軟性がある。だから僕は量子アニーリングを愛しているんです。

シグマアイ大関真之氏と日本総合研究所 東博暢氏が語る「量子コンピューター×超感染症社会【後編】に続く