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【後編】シグマアイ大関真之氏と日本総合研究所 東博暢氏が語る──with/afterコロナ時代の「量子コンピューター×超感染症社会」

コロナと共に生きていくポストコロナ社会。テクノロジーをどう活用し、エンジニアのスキルをどう活かしていくべきなのか?日本の量子コンピューター研究の最先端を走る東北大学大准教授/シグマアイCEOの大関真之氏と、スマートシティ・スタートアップ共創を推進する日本総研プリンシパル東博暢氏が、熱い対談を繰り広げた。モデレーターはHEART CATCH代表の西村真里子氏が務めた。

量子コンピューター×超感染症社会

Incubation & Innovation Initiative(III)が今取り組んでいること

西村真里子氏

西村:大関先生のシミュレーションやいくつかのチャレンジを、政治家が政策に導入するハードルの高さに関する質問がきています。東さん、いかがでしょう。

東 博暢氏
:大関先生の話にもありましたが、これから大事になるのがメタ的な思想、つまり世の中どう捉えるかをエンジニアにも求められるようになると思います。そこで2016年に作ったのが、Incubation & Innovation Initiative(III)です。このコンソーシアムを作った時は、ちょうど第四次産業革命の頃。AIが入ってきたことで産業構造が変わると言われていました。

当時は大関先生のような人がいなかったので、技術はどんどん進展しているのに社会実装がされておらず、横を見たら中国がどんどん追い上げてくる。日本は大丈夫なのかと不安に感じていた人も多かったと思います。

同コンソーシアムのビジョンは持続的なイノベーション・エコシステムを構築、日本経済の活性化に貢献すること。そこで産業界主導の異業種連合による新たなオープンイノベーションプラットフォームを構築し、産業界のアセット(ヒト・モノ・カネ・情報・技術)を活用したネットワーク型の新規事業開発戦略を志向することになりました。

大関先生のような技術力と知識を持っている方がどんどん出てくると、それを社会に入れていくことを考えるようになります。そこで民間主導で意識の高い自治体、および国の研究機構と連携し、実証実験を繰り返してきました。

日本だけでなく、イノベーション・エコシステムにイスラエル大使館や米ニューヨーク、シリコンバレーなどと連携し、海外のスタートアップと一緒に新しい産業を創っていこうとしてきました。

しかし新型コロナの感染拡大で、今年からチャレンジを変えました。ビジョンは同じですが、ストラテジーを変更。産業界と自治体が協調して取り組むこととしました。

ポストコロナ、withコロナ社会では、産業界より自治体のほうが、スタートが早いからです。首長の方針を間違えば域内の産業がつぶれ、死傷者が出る。背負っているものの重みが違いますからね。また、地域の首長は大統領選に近いので、条例もいじれます。

この新しいストラテジーの下で、私たちは3つのことをやろうとしています。一つは地域間連携。やる気のある首長同士が組んで、世の中をデザインすること。次に新たな官民連携。今までのように国が調達、発注するというような主従関係ではなく、対等なパートナーシップを結び、地域をどうデザインするかを含め、民間と行政が同じ手口で考えることです。

3つ目は新たな産官学民間金融連携です。大学は今やドゥタンク的な役割が求められています。それをファイナンス的に支援するのが地銀の役割です。研究は資本主義なので金もいる。金融とアカデミアがアップデートすることが求められています。

ポストコロナ社会は新しいパラダイム。ポスト・コロナ・シティ・アライアンス(首長がアライアンスを組んで世の中をデザインしていく)、ポスト・コロナ産業構想(超感染症ありきで、強靱な産業をつくっていく)、ニュー・ノーマル・サービス(市民に使ってもらうための社会実装)をしていくことが必要です。答えはありません。共に考え、ともに創っていかねばなりません。

特に社会実装はエンジニアの腕の見せどころ。例えば、Code forの活動はその一つです。現在、全国各地でCode for活動が活発化しています。エンジニアのパワーを世の中に活かし、それを支える社会にしていかなければならないと私たちは考えています。

これからの超感染症社会には、デュアルモードソサエティが必要

東 博暢氏
:では、これからの超感染症社会において、どう社会を運営していけばよいのか。それがデュアルモードソサエティです。

がデュアルモードソサエティ


平常時はGDPを伸ばしたり、経済指標をKPIにするビジネスモードで社会を運営し、大災害やパンデミックが起こったときは、国民の健康や命を守るためにある程度経済活動を制限してセーフモードに移行する。

今回に当てはめると緊急事態宣言により日本はセーフモードに移り、今は解除され、ビジネスモードに移行し、県境移動を開始するなど、経済活動を開始しました。定期的にこういうことは起こる。毎回バタバタするのではなく、常にデュアルモードで行き来できるよう設計しておけば、スムーズに移行できます。

このような社会システムの実現に向け、政府と話をしています。デュアルモードソサエティでエンジニアが一番活躍できるのは、モードの切り替えの初動部分。一番機敏に活躍できるのがエンジニアなんです。今回の感染追跡アプリもそうです。

いかにシミュレーションし、即座に対応する瞬発力を発揮するのはエンジニアが得意なところだと思います。企業の持続性に関してもエンジニアの役割は重要になると考えています。これは個人的に考えている構想ですが、今後、首都圏と地方の再定義がかかるのではないかと。それを私は勝手にOrtho(オルト)キャピタルと呼んでいます。

今回の新型コロナによって、都市化はパンデミックに脆弱だということがわかりました。つまり、首都という機能を見つめ直すことが必要なのです。そこで今、提唱しているのが自然首都圏を創ること。これは全国の主要都市圏に近接する自然豊かな都市機能を有する圏域で、現在、山梨県や静岡県浜松市、石川県金沢市などの自治体と話をしています。

テレワークが当たり前にできるようになり、物理的な距離も空間的な距離を感じなくなりました。2027年にリニア新幹線が開通すると、山梨と東京は27分で結ばれます。このような時代においては東京が主導的に動く必要がなくなる。関東なら山梨、関西なら奈良や三重などの環境のよいところで居を構え、普段はテレワークで仕事をして、たまに首都圏にいくという働き方ができます。

こういう働き方になると、大阪都構想や九州のONE KYUSHU宣言のように、道州制の議論がまた活発化すると思います。これは完全に明治維新から幕末に戻るという話。このように統治機構も変わるかもしれない、ワクワクする時代なんです。

ネットワーク空間が充実したことで、人間は資本主義経済が始まって以来、やっと場所と時間から束縛されずにより好きな暮らしができるようになった。しかもパンデミックでそういう状況が加速されているのです。

西村真里子氏

西村:コロナをきっかけに、場所などから解放されて働けることに気づいてしまった人も多いでしょうね。

東 博暢氏
:社会デザインや都市計画の分野は、エンジニアにとっても面白い領域。そういうことを考えるシミュレーションに、先ほど大関先生が説明した量子コンピューターや量子アニーリングが使えると思います。

西村真里子氏

西村:量子アニーリングのシミュレーションを使ったアプリや、今までつながっていなかった自治体同士をつなぐインタフェースを作るなど、エンジニアが活躍できそうですね。

東 博暢氏
:創薬の分野で量子コンピューターが期待されるのは、アッセイ作業が膨大なパズルの最適化問題を解く作業だからです。しかもお金もかかる。また自動走行や大関先生が行っていたコロナ対策のような複雑系の塊のような問題も量子コンピューターが合っています。特にコロナ対策は初期値を入れにくいですからね。

西村真里子氏

西村:大関先生のチャレンジは非常に良いなと思いました。これはニュースなどからヒントを得て、チャレンジしているのでしょうか。

大関 真之氏
大関:そうです。そして量子アニーリングだから、スペックがすごいから、高尚な問題を解かねばならないなど、仰々しく考えるのはやめようと心がけています。そんなことが頭にあると足が止まってしまう。困っている人ファーストです。

たとえ量子アニーリングがオーバースペックであったとしても、それは結果論。そのときに組み立てたプログラムや形式、アイデア、手法は他にも転用できます。とにかく、今困っている人を助ける。ニュースを見てこれ必要だなと思ったらチャレンジする。それだけです。

西村真里子氏

西村:これからの社会では、いかにフットワーク軽く、必要なものを生み出していくことが必要になるということですね。本日のイベントに参加されている浜松の村越さんも「361(サーロイン)」、3で作って、6でプロモーションし、1で改善するという考え方が大事になると言っていました。

東 博暢氏
:大学生によく言っているのは、これからは個人のスキルがどれだけ発揮できるかという時代に入っていくということ。エンジニアの皆さんも、自分の市場価値を高めるかに一点集中することをお勧めします。企業もそういう人は引き留めたいと思うので、組織の中で出世することもできるでしょう。

そのためにも、9割は企業の活動をやりながら、1割はCode forのような社会活動をして世の中に貢献していく。自分が組織にいるか・いないかの01ではなくて、どうやって社会と関わりを築いて価値を上げるか。そこに一点集中して、行動するといいと思います。

西村真里子氏

西村:新型コロナ拡大の影響で、社会を意識できるようになったことは、怪我の巧妙かもしれませんね。

【Q&A】視聴者から寄せられた質問を紹介

かなり盛り上がった今回のセッション。続いて、「視聴者からの質問にお答えします!」が開始されました。

Q.東さんへの質問です。自治体の首長と産業が組んで社会を変えていく話で、政府、中央省庁はどのような役割を担うのが良いと思いますか。

東 博暢氏
:まさに今内閣府を含めて政府からヒアリングを受けているところです。これまで日本の統治機構はデュアルモードで設計されていませんでした。首長は大統領制なので即座に決められることも多いですが、霞ヶ関は機能が分担されている。機動力に欠けてしまうところがあり、どうしても危機的な対応は後手に回ってしまうことが多い。自治体は市民に近いので、リアリティを持って足元の経済の崩れが解るんです。

セーフモードのときはスーパーシティが重要で、首長が機動力を持ってある程度決めていけるような体制にする。ある程度落ち着いてきたら、経済を持ち上げるべく中央政府が主導していく。どのモードの時にどこに比重を置くのか、どう権限とお金を差配していくのか、そのバランスを含め、社会の設計をしていくことがこれから必要だと思います。

Q.現在のコンピューターがそうであるように、量子コンピューターも産業的利用に始まり、将来的に個人利用されるようになるとお考えでしょうか。

大関 真之氏
大関:そうなるように僕は仕事をしています。むしろ産業利用をすっ飛ばそうとしているんですよ。僕が狙っているのはリモートワークの最適化など個人向けのもの。「私は何月何日家族と過ごしたい、病院にいきたいのでリモートにしてください」と送信する。

すると「あなたのスケジュールだと、こういう順序で働くといいよ」と最適化された働き方が提示される。その結果はマネージャーにも送信され、マネージャーは、チーム全員の働き方を最適化すべく、スイッチを押す。個人の需要と集団の需要を満たす膨大な組み合わせの中から最適化された答えを見つける。それを量子アニーリングマシンでやりたいのです。

そう考えると産業利用より、個人利用ですよね。経路探索と同じです。むしろ量子アニーリングなどの技術は個人利用にしてしまおうと思っています。その方がワクワクする。産業利用は政府が予算をつけているように、大学の研究から産業との共同研究で作ればいいと思います。これからを楽しみにしてください。

西村真里子氏

西村:そこにはみんなも参加できるんですよね。

大関 真之氏
大関:一人でやるのはしんどいので、こういう感じにやるんだと見せれば、エンジニアもついてきてくれると思うんです。みんなが今までやりたかったことに取り組む。そういう動きを期待しています。

東 博暢氏
:私は首長利用を考えています。地域をどう把握するかに量子アニーリングマシンを使う。どう方針を立てていいのか迷っているのは首長、政治家ですから、これが街の中のプラットフォームにインストールされていれば結構わかる。そこにCode forの活動を組み合わせれば、いろんなアプリケーションができるのではと期待しています。

西村真里子氏

西村:事前打ち合わせで聞いた認知限界の話が面白かったので、ぜひ紹介してください。

東 博暢氏
:情報量が多すぎて、人間が理解するのが不可能になっている、これが認知限界です。しかもポストコロナ時代は、複雑系の判断が増えていく。ではどうすればよいかというと、トラストフレームワークという、信頼のおけるところに対して判断を委託するような仕組みを作ることです。

かつてはその権威者の役割をAIが担うと言われていましたが、今後は量子コンピューターが担うのではと考えています。量子コンピューターのシミュレーション結果で判断する。最終の意思決定者は人間になるでしょうが、いろんなパズルの問題を解き、最適化をするのは量子コンピューターになるということです。

その結果から首長や政治家が決めていく。例えば山梨県ではやまなしグリーン・ゾーン構想を策定し、県民の皆様の生命と経済を両立しながら不断に前進し続けることができる社会「超感染症社会)への脱皮を図っています。つまり、東京や神奈川からの山梨へ移動する人を受け入れながら、どう県の安全を守るか。そこに量子コンピューターが活用できるのではと考えています。

そのときに重要になるのが、IoTです。例えば福岡では店舗の混雑情報をIoTデバイスで取得し、リアルタイムに信号で表示するという仕組みを作っています。この情報を量子コンピューターの初期値として使うのです。その情報を見た人は、混んでいる店舗にはいきません。次に人はどのように動くのかという計算ができるのではないでしょうか。

大関 真之氏
大関:そういうアプリは簡単に作れると思います。

東 博暢氏
:また浜松はデリバリープラットフォームを作っているので、それとIoTと量子コンピューターを組み合わせれば、「今日は混みそうなのでこの店はデリバリーに特化します」という判断もできそうです。

そういうスタートアップのサービスとAPIをデザインし、さらに量子コンピューターを使えば地域のパンデミック対策サービスが作れそうですね。

西村真里子氏

西村:大関先生と東さん、浜松の村越さんもやりますと言ってくださっているので、そういう座組を作りたいですね。

東 博暢氏
:こうしたアプリケーションを作るのは容易なんですが、それを社会経済的に持続させるには企業のサービスに落とし込むことも必要になります。マネジメント側の方にも参加していただけるとうれしいです。

Q.新型コロナ問題が起こっているうちに、政府は適切に対応できると思いますか。

東 博暢氏
:対応しないとまずいことはわかっているので、政府も地方の自律的な活動をサポートする方針に変わってきています。最終的に法律改正が必要になりますが、我々はやれることをやっていくしかないと思います。

Q.量子コンピューターの導入により、現在のセキュリティシステムが崩壊すると言われていいますが、それについてどう考えていますか。

大関 真之氏
大関:素因数分解を素早いスピードで解くことから、現在の暗号では危ないのではという指摘がありますが、セキュリティ的なリスクはまずありません。今の量子コンピューターの能力だからということもありますが、ちゃんと対策も練っています。それがポスト量子暗号の策定です。テクノロジーが進めば暗号化やセキュリティも進む。人類はそんなに柔ではありません(笑)。

西村真里子氏

西村:これからはCode forのキャッチフレーズ「ともに考え、ともにつくる」ことが重要だということがよく理解できました。また、これからの超感染症社会ではエンジニアが活躍する機会が増えることもわかりました。ありがとうございました。

シグマアイ大関真之氏と日本総合研究所 東博暢氏が語る「量子コンピューター×超感染症社会【前編】