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Sky's the limit #02/元 トヨタ自動車副社長が語る”プリウス誕生”

日本のものづくりを支えてきた様々な技術者の挑戦をひも解いていく「Sky's the limit」。第1回は、トヨタ自動車 副社長としてプリウスの開発の陣頭指揮を執られ、三菱重工業株式会社 社外取締役(2012年退任)、アイシン精機株式会社 取締役会長、相談役、顧問・技監(2018年退任)等を歴任されてこられた和田明広氏による、ものづくりへの挑戦をご紹介します。
※本記事の内容は、2011年9月にSky株式会社で実施された特別講演会の内容を再編集したものです。

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短期的に判断したのでは、良い商品はできない


21世紀の車「プリウス」の開発

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さて、プリウスの話をさせていただきます。もともと(トヨタ自動車は)毎年新しい車を作り、次々とモデルチェンジしていました。しかし、「新しい」といっても「根本的に新しい車」を作っていませんでした。そして、これから先もこんなこと繰り返していては、いけないと考え、私の前の副社長が「G21」と称して「21世紀の車を考えろ」と指示しました。

私はさっそく、その「21世紀の車」を開発をするグループを作りました。そのとき、このプロジェクトのために開発能力が落ちないよう、ゆっくり育てたいと思う人を中心に、人を集めてグループを作ったわけです。そのグループのトップが、いま会長をやっている内山田(※1)です。これも、新しい車とはどういうことかということから始め、(準備に)2年以上かけたと思います。

(※1)内山田トヨタ自動車 代表取締役会長の敬称につきましては、講演内容に基づき略させていただいております。

トランスポーテーションデザインというのは、基本的に客室の大きさが問題なのであって、昔は車体の全長や全幅が、低くて長くて幅が広い車が立派に見えるというよう言われていたわけです。しかし、これから先はそんな時代ではなくなるのではないだろうか。部屋が広ければ、幅も、背の高さも、長さも、できれば小さい方が良い。できるだけ小さい車体で、部屋の大きな車を作っていくにはどうしたら良いのだろうか。そうしないと軽い車にはならない。もちろん、小さい車を作れば軽くなるわけですし、たぶん軽くすれば燃料も節約できるはずだ、と議論が進みます。私も「ああしたら、こうしたら」と燃料節約のいろいろなアイデアを出しました。その後、ずっと開発ばかりではなかなかファイトが湧かずマンネリになり、どうしても見方や判断が甘くなるので、市場の荒波にさらされて良い商品に替えていく時と考え、この車を世の中に出す決断をしました。

開発グループから「こういうシステムを作れば、これだけの燃費になります」という提案があったわけですが、私は、これでは不満足だと言いました。要するに、そこで私が考えたのは、いまある技術そのままではなく、これから先、さらに開発に2年くらいはかかるわけですから、その間にもっと努力をすべきだと考え「もっと燃費を良くしよう」と発破をかけたわけです。それが世間で「燃費を倍にしろという指示が、私から出た」と言われている話です。いずれにしても、頑張れと言ったわけです。そして、本当に燃費の良い車ができてきました。


本当のユーザメリットとは

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もう一つ、(プリウスの開発話のなかで)あまり話されていない内容ですけれども、「燃費の良い車ができたので、ガソリンタンクの容量を半分にしたい」という話が出てきました。燃費が倍になれば、40ℓのタンクは20ℓの容量でいいのではないかと、主査をはじめとする全員が言ってきたので、私は一喝しました。そして、「燃費が良くなってユーザが一番うれしいのは、どういう点だ?」と訊ねました。まず、ユーザは燃料がなくなるたびに、いちいちガソリンスタンドに行って給油しなくちゃいけないだろう。例えば(トヨタの施設が多い)蓼科に走って行って燃料を入れたとする。自分がいつも行くガソリンスタンドで入れる燃料よりもはるかに高い。帰って来るまでに燃料を入れなくても良いということは、ユーザにとってものすごくメリットがあることだという話をして、「給油回数が減るということは、ユーザにとって本当に良いことだから、燃料タンクの容量は減らすな」と、言いました。

それから、もうひとつの観点として、皆さんも考えていただければわかると思いますが、40ℓのガソリンタンクを持っている車が、40ℓの燃料を全部使えるかというと、すべてを使い切れないわけです。(ガソリンが減ってくると)最後はどうしても不安になるので、少し残すわけですよ。そうすると実際は30数ℓしか使えない。容量20ℓのタンクの車を作ったら、20ℓどころか、10数ℓの燃料しか使えないことになる。これでは、せっかく燃費が半分になっても、同じ距離が走れないわけですから、とんでもない話です。ガソリンタンクの容量は減らすなと、すぐに命令しました。その結果、プリウスの何が一番お客様から喜ばれているかというと、燃費が良くて、ガソリンスタンドに行く回数が減ってありがたい。そういう話が一番多いわけです。

私も実は、3代目のプリウスを買いました。私はまだ会社で多少の仕事をやっているものですから、会社の方で購入してくれると言ってくれましたが、「まあいいや」と言って、自分で購入しました。そうして購入したプリウスに乗っていますと、私の運転では平均で25km/ℓくらい出ました。

また、私の先輩でトヨタの常務をされていた方が、初代のプリウスを購入され、「和田さん、プリウスって燃費が良いですね」と仰るので、「どのくらい出ましたか?」と聞きましたら、「いやあ、25km/ℓ出ましたよ」と仰った。私も「25km/ℓ出れば良いでしょうね」と話しました。普通の車では12、3km/ℓしか出ませんし、下手な走り方をすると10km/ℓ、大きな車ですと6、7km/ℓくらいしか出ないわけですから、25km/ℓ走れば十分ですねという話です。いまは初代のプリウスよりも、車体もだいぶ大きくなりましたけれども、3代目のプリウスも25km/ℓくらいは出ると思います。

ただ、一般の方に「プリウスの燃費はどのくらいですか?」と訊ねると、だいたい20~22km/ℓしか出てないんですね。これは、よく頭を使って運転しないからでして。もっとも、エンジンが温まらないうちに目的地に着いてしまうような場合は別です。例えば、通勤に使っていて毎日5~7kmくらいのしか走らないという人の場合は、20km/ℓくらいしか出せないかもしれません。

10km以上の通勤に使われている方は、うまく頭を使って走れば24~25km/ℓになります。例えば、信号が赤になりそうなので、早めにアクセルから足を離すというような運転をしていれば25km/ℓくらいは軽く出ると、私は思います。このように燃費が大変良くなりました。

同時期にホンダさんの車も出ましたので、私もホンダさんの車をチェックしました。他社の車の話をするのは口幅ったくて申し上げにくいのですが、ある程度バッテリーを積んでいないと、交差点で止まっている間にエンジンをかけざるを得ません。これではメリットが少ないのではないかと感じます。やはり市場からも、同じような評価があるようです。

第3回/短期的に判断したのでは、良い商品はできない(続き)

 

Sky株式会社 特別顧問:和田 明広

1934年、名古屋市生まれ。1956年に名古屋大学工学部を卒業後、トヨタ自動車工業株式会社(現在のトヨタ自動車株式会社)に入社。トヨタ自動車では、車体設計出身のチーフエンジニアとして、コロナ、セリカなどの開発に従事。1986年には取締役に、1994年には副社長に就任。トヨタ自動車の副社長の時代には、プロジェクトの最高責任者として、プリウスの開発指揮も執る。その後、三菱重工業株式会社 社外取締役(2012年退任)、アイシン精機株式会社 取締役会長、相談役、顧問・技監(2018年退任)等を歴任。