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Sky's the limit #03/元 トヨタ自動車副社長が語る”プリウス誕生”

日本のものづくりを支えてきた様々な技術者の挑戦をひも解いていく「Sky's the limit」。第1回は、トヨタ自動車 副社長としてプリウスの開発の陣頭指揮を執られ、三菱重工業株式会社 社外取締役(2012年退任)、アイシン精機株式会社 取締役会長、相談役、顧問・技監(2018年退任)等を歴任されてこられた和田明広氏による、ものづくりへの挑戦をご紹介します。
※本記事の内容は、2011年9月にSky株式会社で実施された特別講演会の内容を再編集したものです。

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短期的に判断したのでは、良い商品はできない


将来の車の動力源は

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さて「自動車の将来はどうなるか」ということについて申し上げたいと思います。私が思うには、やっぱり将来の車は、電気自動車になるのではないかと思います。

プリウスでハイブリッドをやったとき、世の中の人をはじめ、コンペチターやジャーナリストはどう言ったか。

皆さんもご存じかもしれませんが、「この車はトランジェント(過渡性/ 一時的)な車で、たぶん10年くらいしかもたないでしょうね」と言われていました。私は、GMの人にも、ベンツの人にも同じように申し上げました。「確かにトランジェントです。でも、私は10年ということはないと思いますよ」と。

プリウスを出したころは、皆が将来の車は燃料電池の車になるのではないかと思っていました。私もそう思っていましたし、必死に燃料電池の車の開発をやっており、トヨタ自動車は燃料電池の車を市販しました。しかし、燃料電池はなかなか普及しません。あるとき、GMとベンツの両社が口をそろえて、燃料電池の燃料は、天然ガスではなく水素にしますという話をしました。それを聞いて私は、この両社はもう燃料電池を諦めたんだなと思いました。

これは私の直感ですけれども、これから先は燃料電池よりも電気自動車の方が、先に増えてくるのではないかなと思います。では、すでに電気自動車は世に出ていますが、いまの電気自動車は、大変に重く、価格も高くなっております。重くなるのには、いろいろと理由がありますが、高くなってしまう理由は、バッテリーが高いということに尽きると思います。バッテリーの方は企業努力でまだまだ価格の下がる余地はあると思いますし、あちらこちらでスマートグリッドの話がありますから、中古のバッテリーをスマートグリッドで使えば、自動車に被せられる電池代は少なくなって参りますので、電池の問題は次第に解決するのではないかと思います。

ただ、車が重いのはなぜかというと、これは電池を入れる格納容器が重くて、格納容器を含めた電池全体が大変重く、このように重い物を車に積むと、車がもろくなりますから頑丈にしなくてはいけない。そうした悪いサイクルが回っているわけです。これは何とかしてクリアしなくてはいけない。私も及ばずながら知恵を出して、何とかこれを解決したいと思っています。もっと安全で軽いバッテリーの搭載方法はないのかという議論をやっております。これが成功しますと、電気自動車は燃料電池車はもちろん、ガソリン車よりも増えてくるのではないかと思います。

ちなみに、電気自動車というのは、1km走るのにいくらの電気代が必要かご存じでしょうか?ご存じの方もお見えになるかもしれませんが、1kmあたり1円とか2円です。同じくらいの大きさの車にガソリンを積んで走ると、1kmあたり15~20円かかるんですね。クラウンなどもっと大きい車ですと、もっともっとかかります。

電気自動車が、いま仮に1kmを1円で走っているとして、この先に電気代が少々上がったとしても、2円なり3円という話です。これが、5円になることはないんですよね。もし1kmあたり5円必要になるくらい電気代が上がったら、それこそ大変なことです。電気というのは自動車にだけ使うわけではなくて、家庭ではいろいろなエネルギー源として利用されるので、とんでもない値段になることはないと思います。もっとも、電気代が高くなるときには、おそらくほかの燃料の価格も同じように上がっていると思われますので、やっぱり(将来の車の本命は)電気自動車ではないかなと、私は思いますが、重量と価格の他にもバッテリーの学習効果という問題があり、現在中古車の一充電当たりの走行距離が使い方により新車で400kmだった車が200kmになってしまっているという問題で、現在この問題の解決の目途はたっていないのが現状です。


ACCに見る自動化の功罪

それから、以前私の友人のお孫さんが、皆さんのような会社に入りたいということで、私のところに話がまいりましたので就職先を紹介しました。その話は、残念ながらファイトが足りないということでダメだったのですが、その彼が「なぜ自動車関連の仕事をしたいのか」ということは、自動化のうれしさを実感したからでした。

ACC(オートマティック・クルーズ・コントロール)というのがありますよね。要するに、自動追従して走って行く車ですね。これは大変に楽だといえば楽なのですが(限界もあります)。最初にオートマティック・クルーズ・コントロールを搭載したのは、トヨタではないかもしれませんが、私が副社長をやっているころにも出しました。そのときの方式は、前の車と接近し過ぎたときには、エンジンブレーキをかけるという車でした。エンジンブレーキをかけるだけですから、これは大変スムーズなんです。さらに安全が確認されれば加速もします。要するに、これらをエンジン制御だけでやっていました。これに対して、開発をやっている立場としては物足りなさを感じ「ブレーキをかけたい」と思い、問題があると判断した場合、自動的にブレーキをかけるようにしました。私はそのころ、ブレーキは運転手に任せるべきだと言っていました。車は、人間が運転しているわけですから、基本的なことを人間に任せないで全部自動化するのは、決して良い面ばかりではありません。

自動化することが安全なのであれば、例えば職業運転手が運転をする電車などは、ほとんど自動制御でやっていてもトラブルを起こすこともある。ましてや自動車はレールの上を走っているわけではありませんので、それを全部自動化して運転するなんて、大変危険なことです。こういう話をすると自動化を開発している人に怒られますけれども、私はそう感じていました。このように私は、ブレーキはやっぱり運転手に踏ませるべきだと思っていたのです。その友人の孫は、「トヨタの車はブレーキをガクガクと踏む。ガクガク踏んで、その後も急に加速をする。あれをもっとスムーズにしたい」ということで、ぜひ会社に入ってそういう仕事をやりたいと書いていました。これは確かにもっともなことだと思います。

いまのACCはブレーキをしっかり踏むし、ブレーキを踏まなくてもよくなったら今度はしっかり加速するんですよ。その結果、1割くらいは燃費が悪くなってしまったと思います。エンジンブレーキの場合は、燃料をオフするだけですから燃費には全然影響がない、むしろ燃費は良くなる方向ですし、その後に加速するときも急いで加速しなくても前の車に追いつくわけで、ゆっくり加速していきます。そういうジェントルな車を作れば、燃費は大変良いのです。

当時、高速道路をセルシオ(現レクサス)で走っていたとき、自分でよく注意して走っているときの燃費と(エンジン制御だけのACCは)ほとんど同じ燃費で走っていました。けれど自動でブレーキを踏むようになったら、どう見ても1割は燃費が悪くなったんですね。道路が混んでくると、ますます燃費が悪くなる。何を申し上げたいかと言うと、自動化が必ずしもあらゆる面で良いわけではないということです。

第4回/エンジニアとしての資質を向上するために

 

Sky株式会社 特別顧問:和田 明広

1934年、名古屋市生まれ。1956年に名古屋大学工学部を卒業後、トヨタ自動車工業株式会社(現在のトヨタ自動車株式会社)に入社。トヨタ自動車では、車体設計出身のチーフエンジニアとして、コロナ、セリカなどの開発に従事。1986年には取締役に、1994年には副社長に就任。トヨタ自動車の副社長の時代には、プロジェクトの最高責任者として、プリウスの開発指揮も執る。その後、三菱重工業株式会社 社外取締役(2012年退任)、アイシン精機株式会社 取締役会長、相談役、顧問・技監(2018年退任)等を歴任。