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Sky's the limit #04/元 トヨタ自動車副社長が語る”プリウス誕生”

日本のものづくりを支えてきた様々な技術者の挑戦をひも解いていく「Sky's the limit」。第1回は、トヨタ自動車 副社長としてプリウスの開発の陣頭指揮を執られ、三菱重工業株式会社 社外取締役(2012年退任)、アイシン精機株式会社 取締役会長、相談役、顧問・技監(2018年退任)等を歴任されてこられた和田明広氏による、ものづくりへの挑戦をご紹介します。
※本記事の内容は、2011年9月にSky株式会社で実施された特別講演会の内容を再編集したものです。

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エンジニアとしての資質を向上するために


細分化と部分最適の弊害

それからもう一つ。最近、仕事内容を分割し過ぎているという問題があります。その結果、例えばブレーキの担当者は、早くACCにブレーキ制御を追加し、使いやすく完璧なブレーキシステムにしたいと提案する一方で、燃費悪化を見逃している。つまり全体を見て、これはやるべき、これはやるべきではないと判断する人が、どんどん減ってきているんです。これは何事もそうだと思います。人が増えて、物事を細分化する。細分化するから細かいところの最適化ばかり考えている。部分最適ばかり狙ってしまい、全体最適の観点が抜けてしまっている。これが最近の大きな問題です。

実はいま、ある新しい車をやろうと私なりに考えています。非常に面白い車をやろうと思って仕掛けています。しかし、私が開発をやっていたときは、まずは車の全体像を描きます。全体像ですから当然、紙に手書きしていました。手書きといってもドラフターは使いますが。ところが現在、どこの自動車会社でも1/5くらいの全体図を手で書くことはありません。部分を全部書いてから、それを集めて全体図をつくり、これから1/5図を書かせて検討するんです。そういうシステムしかできないんですよ。

今朝も、仕事を頼んでいる人にレポートをもらいますと「なかなか大づかみに物が決まっていかないから困る」という話をしていました。彼も言うんですね、いまのシステムでは細かいところから積み上げていき、それを全体に戻さないと全体像が見えない。

基本的に、全体像を描くのは最初だと思うんですね。そういう設計の進め方ができないことが非常に問題だということを、彼とも話していました。いまのデジタル化、CAD / CAMの時代。これは避けては通れないわけですけれども、非常に難しい問題です。

人を育てるのはOJTが基本

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要するに仕事をたくさん経験することが最も大切です。ブレーキも考え、エンジン制御も考え、自分でやらないにしても、それらを一緒に考え開発していくという事はできるわけですから、自動車のすべてをコントロールして、経験を増やさないと大づかみなものが頭に浮かばない。

例えば、3次元CADというものがあります。私は3次元CADは必要なものだとは思いますが、設計者を育てるには、百害あって一利ないものだと思います。

それはなぜかと言いますと、3次元CADに入力するだけでも時間がかかるんです。これは時間のロスです。それから、3次元CADに慣れてしまうと、3次元CADで表現されたものを見ないと、2次元の図面を見ただけで、3次元の状態を頭に思い浮かべられなくなってしまう。我々は2次元の図面を見て、それが3次元ではどうなっているのかがわかります。私の同世代の人間はみんなわかります。それがわからない人は、みんな落ちこぼれてしまうわけですよ。ところがいまの人は、2次元での図面から、3次元の状態を思い浮かべられないので、結局3次元CADに入力するしかない。しかし、自動車はそんな簡単なものではないですね。3次元CADで描いた立体図を眺めたからといって、それで良い悪いを判断できるような簡単なものではありません。それは、自動車だけではなく、設備の設計などもそうです。

私がアイシン(アイシン精機株式会社:以下、アイシン)に行ったときに、部下が「3次元CADで製造ラインを設計しました。見てください」と私のところに持ってきました。私がそれを見て、「こんなに大きなスペースいらないじゃないか」と指摘しました。パッと見て「ここも余分だ、ここも余分だ」という話になる。結局「CADでやっていると寸法が決まっていて、ここも同じ、これも同じと、ただ組み合わせるだけになるから、こういう結果になるんだ。もっと頭を使え」と怒ったことがあります。3次元CADを使うと、素人でも設計ができるかもしれない。でも、本当に一番良いのは2次元の図面から3次元が頭に浮かぶ人が、設計を進めていくということだと思います。しかし、なかなか難しいですね。

それから、皆さんにこのようなこと申し上げると、技術進歩に逆行する提案ではと言われるかもしれませんが、いまは人が多くなりすぎOJTで人が育たない。すなわち経験できる範囲が小さすぎる状況になっていると思います。

アイシンは、いち早くアイシン・エンジニアリング(アイシン・エンジニアリング株式会社:以下、アイシン・エンジニアリング)というのを作りました。トヨタ自動車も私が副社長をやっているころに、特許部長がエンジニアリング会社を作りました。当初は、特許資料を作るための会社だったのですが、だんだんと派遣業務に進出して、一時期、トヨタテクニカルディベロップメント株式会社という大きな会社に成長しておりました。

実はその後、派遣業務の歴史が古いアイシンの方に問題が顕在化し、エンジニアリング(工学技術)が、エンジニアリング会社がないと成立しないんです。“ミソ”になる部分が、エンジニアリング会社に移ってしまって本体に残っていない。その後、エンジニアリング会社をアイシン本社が吸収しましたが。

私がアイシンに移ったときに、いろいろなヒアリングをしました。アイシンはドアロックやレギュレーター、ドアフレームなど車体に関する機能部品をやっているわけです。私はもともと車体屋ですから、みんなに詳しく聞きました。私が「いま、ドアのレギュレーターの担当者は何人いるのか?」と聞くと「3人です」と答えます。私は、3人でも多いなぁと思ったのですが、車種も多いし3人くらいならいいかと。重ねて「本当に3人なのか?アイシン・エンジニアリングの人もいるだろう」と確認してみると、「はい、おります」と言うわけです。「全部合わせると何人だ?」と訊ねると、「8人です」と答えた。これは、とんでもない話なんですね。

また、車体のガラス窓のレギュレーターに8人もいる。私に言わせれば、あれは1人でいいと思います。8人もいるとどうなるかと言うと、変わったシステムに手を出し始めるんですね。

ワイヤー式というものです。ワイヤー式のレギュレーターは、以前、トヨタも大変痛い目に遭ったことがあるんです。いま一緒に仕事をしている人の中に、ずっとベンツに乗っている人がいたので、「ベンツに乗っていて何かトラブルが起きたことはありますか?」と聞くと、「ドアーガラスがドンと落ちたことがあります」と言っていました。これはワイヤー式レギュレーターのワイヤーが切れたんです。

勿論、現在ではワイヤー式レギュレーターも完璧なものに進化し、またこの利点を活かして使い勝手の良いドアーを成立させていますが。

第5回/エンジニアとしての資質を向上するために(続き)

 

Sky株式会社 特別顧問:和田 明広

1934年、名古屋市生まれ。1956年に名古屋大学工学部を卒業後、トヨタ自動車工業株式会社(現在のトヨタ自動車株式会社)に入社。トヨタ自動車では、車体設計出身のチーフエンジニアとして、コロナ、セリカなどの開発に従事。1986年には取締役に、1994年には副社長に就任。トヨタ自動車の副社長の時代には、プロジェクトの最高責任者として、プリウスの開発指揮も執る。その後、三菱重工業株式会社 社外取締役(2012年退任)、アイシン精機株式会社 取締役会長、相談役、顧問・技監(2018年退任)等を歴任。