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Sky's the limit #05/元 トヨタ自動車副社長が語る”プリウス誕生”

日本のものづくりを支えてきた様々な技術者の挑戦をひも解いていく「Sky's the limit」。第1回は、トヨタ自動車 副社長としてプリウスの開発の陣頭指揮を執られ、三菱重工業株式会社 社外取締役(2012年退任)、アイシン精機株式会社 取締役会長、相談役、顧問・技監(2018年退任)等を歴任されてこられた和田明広氏による、ものづくりへの挑戦をご紹介します。
※本記事の内容は、2011年9月にSky株式会社で実施された特別講演会の内容を再編集したものです。

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エンジニアとしての資質を向上するために


KKDにも、努力と経験が必要

私共は日頃よくKKDという略語を使いました。

KKD、これは何かというと、我々がやっていたころの合言葉です。勘(K)経験(K)度胸(D)。”エイヤーッ”で図面を書き、”エイヤーッ”で物を出荷していたんですよ。でも、”エイヤーッ”でやる限り、やっぱり度胸が必要です。度胸と言ってもいい加減な度胸ではいけないわけですから、物をしっかり見ないと度胸が座らない。その分、いまの人に比べたら、すごくよく物を見ていたと思います。コンペチターの物も見ました。自分たちの図面も見ました。それから、試作品ができれば試作品もよく見ました。

KKDとひと言で言っても、KKDでやれるようになるためには、すごい努力が必要なんです。それがいまの人には欠けていると思います。特にいま、トヨタグループでいつも言っていることですが、KKDをとんでもない誤解をしている場合があります。まず、図面ができると、どうするか。図面をチェックする前に試作品を作る。試作品ができると、どうするのか。試作品をよく見る前にテストに出す。テストに出して○が返ってくると、何も見ないまま、そのまま図面を量産に移す。これはとんでもない。そんな度胸を持ってもらっては困るんですね。

本当の意味でのKKDとは。例えば図面を書いたとします。その図面に、試作サイドから文句を言われる。「こんなものは作りにくい」「こんなものはおかしいんじゃないか」などと文句を言われないように、しっかり図面を見る。その上で試作に出すから、度胸が出来るわけです。

次に、物ができてきたら試験を頼む前に、どこに問題が起きそうか、どこに既知の問題があるのか、といったことを十分手にとって見て、その上でテストに出す。いまの人は、テストで○が返ってくればいいんです。○というのは、合格基準ギリギリであっても、基準を上回ると○になるんですよ。これが、基準のはるか上のレベルの○ならいいんですけど、基準をちょっと超えても試験結果では同じ○です。だから、ギリギリの○なのか、はるか上の○なのかは、本来はよくものを見て、自分の目で判断しなければならないのです。自分の判断基準が確立していけば、また高めていけば、良いKKDになっていきます。

いまの状況では本当のKKDが全然備わっていない。勘もない、経験もないのに、度胸ばかり使っているからロクなものができない。だからリコールを起こしてしまうのだと、私はトヨタの中でわめいているわけです。私に言わせればリコール(が増えた原因)は、決して基準や批判の声が厳しくなったからではないと思います。その内容を詳しく聞いてみると、当たり前のところでミスをしております。確かに私どもはKKDでやってきたわけですけれども、(いま開発に携わる人たちは自分たちの努力不足を)よく反省していただきたいと思います。


デジタルエンジニアリングの問題

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さて、いわゆるCAD / CAMという手段で設計するシステムでは人材が本当に育たない。後輩を育てることができない。それはもう痛切に感じております。皆さんはご存じないと思いますが、昔は各自に大きな製図板があって、ドラフターを使って図面をマニュアルで書いていました。自分がOKだと思うと、その図面を上司にまわしてオーソライズしてもらっていました。

例えば、係長に15人の部下がいたとしましょう。朝、15人のところをクルクルと回ると、部下がどんなところで困っているのか、すぐにわかるんですね。前日からどれだけ進んだのかが、製図板の上でパッとわかります。また、何回も消したり書き直したりしていれば、ここで悩んでいるんだろうなということがわかります。あるいは、タバコばかり吸って遊んでいる人が居れば、全然進んでないから製図板もきれいで、仕事が進んでいないということもよくわかります。それは、A4図面を何枚(仕上げたか)という話ではないんですね。そんな話なら、自慢するわけではないですが、私もA4図面を1日に20枚くらい書いたこともあります。最初にドアロックの下図を書いておいて、いざ部品図の作成となったら、1週間で全部を出図することは訳もないことです。

ですから、大切なのは図面の枚数じゃないということです。(仕上がってくる図面が)よく考えられていて、上司のチェックも済み、出図される図面でなければいけないわけです。しかし残念ながら、いまは係長や課長が部下の仕事をチェックしづらい。中には部下の面倒を見ておられる方もいらっしゃると思います。部下からアピールされるなど相談を受ければ、指導もできますし、いろいろなアイデアを出すこともできますが、CADの場合、上司が毎朝みんなの机の前をクルクルと回ってチェックすることができないのは、非常に由々しき問題なわけです。


第6回/エンジニアとしての資質を向上するために(続き)

 

Sky株式会社 特別顧問:和田 明広

1934年、名古屋市生まれ。1956年に名古屋大学工学部を卒業後、トヨタ自動車工業株式会社(現在のトヨタ自動車株式会社)に入社。トヨタ自動車では、車体設計出身のチーフエンジニアとして、コロナ、セリカなどの開発に従事。1986年には取締役に、1994年には副社長に就任。トヨタ自動車の副社長の時代には、プロジェクトの最高責任者として、プリウスの開発指揮も執る。その後、三菱重工業株式会社 社外取締役(2012年退任)、アイシン精機株式会社 取締役会長、相談役、顧問・技監(2018年退任)等を歴任。