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Sky's the limit #06/元 トヨタ自動車副社長が語る”プリウス誕生”

日本のものづくりを支えてきた様々な技術者の挑戦をひも解いていく「Sky's the limit」。第1回は、トヨタ自動車 副社長としてプリウスの開発の陣頭指揮を執られ、三菱重工業株式会社 社外取締役(2012年退任)、アイシン精機株式会社 取締役会長、相談役、顧問・技監(2018年退任)等を歴任されてこられた和田明広氏による、ものづくりへの挑戦をご紹介します。
※本記事の内容は、2011年9月にSky株式会社で実施された特別講演会の内容を再編集したものです。

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エンジニアとしての資質を向上するために


カーナビ開発の例

さて、こうした観点からカーナビ開発の話をしたいと思います。

私が最初にナビを導入したいと、AW(アイシン・エィ・ダブリュ株式会社:以下、AW)の諸戸さんから聞いたとき、「こんなものができるのかな」と感じました。しかし、結果的に良いものができ始め、そろろそろ世の中に出してもいいのではないかという話になったときに、最初に搭載したのがレクサスでした。いわゆる当時のセルシオに載せたわけです。

そのときに私は当時、宅配業者が起こしたトラブルが新聞や噂で話題になっていました。気難しい人のゴルフバッグが、予定通りゴルフ場に到着しなかった。そして、やむなくゴルフ場で道具を調達してプレーした。このとき購入したゴルフクラブや靴の費用はどうしてくれるのか。そして、いわゆる“ニギリ”をやって、(慣れない道具を使ったせいで)これだけ負けた。それをどうしてくれるのか。「負けた分をよこせ」と言うと恐喝になるから言えませんが「あなたは、どうしていただけるんでしょうかねー」というトラブルが週刊誌や新聞に出ていました。

もしこのナビを使って、ナビが間違ったことを指示した結果、予定通りにゴルフ場に到着しなかったというようなことがあれば、絶対に困るから、少なくともゴルフ場だけは全部チェックするように指示しました。その話をいまでも当時、開発に携わった人は言います「ゴルフ場の看板というのは、結構わかりにくいところにあるんですね。それを全部、実際に走って確認しました。おかげさまでそういうトラブルは1件もありませんでした」と。

でもね、私はナビで何回もトラブルに遭いましたよ。

例えば、トヨタの研修所へ行くことになったとき、私は「ナビがあるから任せとけ」と言って、ナビのチェックも兼ねて研修所へ向かいました。そして、研修所の近くまできたらナビは「ここで案内を中止します」と言うじゃないですか。「案内を中止します」と言われても、まだ研修所には着いてない。どこを見ても看板なんてありませんから、仕方なく近くの日本デンソーの保養所に行って、「トヨタの研修センターはどこですか」と訊ねたら、「お前はバカか」というような顔をされ、「もっと手前で山の方へ登らないと行けないよ」と教えられました。

これにはどんな問題があったかと言いますと、地図で目的地から国道に垂線を下ろして、一番距離が短いところまで案内するというシステムを取っていたので、この研修所の場合、目的地が山の上にあって、走っていた道路は山の下にある。でも実際は、そこからでは山に登れなかったわけです。もっと手前へ、ずっと戻らないと山には登れない。そういう状況でしたので、きちんとポイントアウトできない場合には、もっと手前で案内を中止するように修正させました。

あるいは、「行き過ぎた場合にはバックする」というような指示ができなかったわけですね。山の中で「バック」という指示ができないと、ものすごく大回りのルートで、もう1回指示します。(少しバックすればいいものを)山の中で30分以上かかるような指示をするわけですから、実際の目的地は後方にあるんだという指示をしなくてはダメだということです。このように(初期のナビ開発では)いろいろなことがありましたけれども、おかげさまで現在まで市場のトラブルは報告されていません。


よく考えて開発する大切さ

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3、4年前だったと思いますが、フランクフルトショーでアルパイン(Alpine Electronics, Inc:以下、アルパイン)のブースに招待されたときのことです。アルパインのナビの部長の方と、実際に開発に携わっている技術者2人と、合計3人を相手に打ち合わせをしました。そのとき私が、開口一番に「あなたはナビを使うとき、車の進行方向を上にして使っていますか? 北を上にして使っていますか?」と聞いたら、ナビを開発している人が3人とも進行方向を上にして使っていると言うんですよ。これではダメです。こんな人たちにナビの設計を任せたのでは、ロクなナビはできません。

開発者なら、北を上にして使うことが基本です。このナビはいつも嘘を教えると思って運転する。そして、いつも自分でナビを正しい方向に導いてやる。私は問題を見つけてはデンソーやAWに対して、「あそこで間違えたらダメだ」と言わねばならない立場ですので。いまでも北を上にして走っていると、とんでもなく大回りの道を教えたりすることがあるんですよね。それは進行方向を上にして表示していると気が付きません。そんなことからも、遊びに行くときでも、よく考えて、いろいろとチェックしながら行くと面白いものです。ぜひ、ナビに携わっている方は、ノースアップで走っていただきたいと思います。

もたもたしていると、ナビはほかのデバイスにやっつけられてしまいます。もうヨーロッパで「TomTom」にこてんぱんにやられて、大変苦戦をしています。しかしそれでも、良いものを作れば必ず売れるというのは間違いありませんので、いままでの日本のナビの評価を落とさないように頑張っていただきたい。

ただ、ナビも人が多すぎるのでロクなことをやっていないです。例えば、山道を走っているときに、最適なシフトダウンをする(仕組みを開発する)と言うんですね。山道に合わせてスピードをゆるめたり、あるいは速く走るようにする。それが実現すれば良いと思います。ですが、ナビのデータにはサテライト(衛星)から見たアール(カーブの半径)しかない。アールの大きさはわかるが、その道路にカント(片勾配=カーブの外側を高くすることで、走りやすくするための高低差)が付いているかどうかまではわからない。

つまり、非常に大きなカントが付いていれば、手放しで運転してもカーブを通り抜けられますから、カントの大きさがわかるまでは、運転を自動制御することはあり得ないのではないかと思います。しかし、いくら言っても諦めないんですね。早くカントの方を調べればいいんですが、アールだけ調べて、このアールの大きさだと何km/hしか出してはいけないなどと議論しても、そんなものは全然意味はない。(現在のナビのデータでも)上りや下りは若干わかるようですが、上り下りよりもアールにはカントの大小の方が大切だと思うんですね。

もし、逆カント(カーブの外側が下がっている)が付いていたら、それこそ大変危険なことになりますから、よく考えて開発しないといけないという、一つの例だと思います。


第7回/主査の10ヶ条

 

Sky株式会社 特別顧問:和田 明広

1934年、名古屋市生まれ。1956年に名古屋大学工学部を卒業後、トヨタ自動車工業株式会社(現在のトヨタ自動車株式会社)に入社。トヨタ自動車では、車体設計出身のチーフエンジニアとして、コロナ、セリカなどの開発に従事。1986年には取締役に、1994年には副社長に就任。トヨタ自動車の副社長の時代には、プロジェクトの最高責任者として、プリウスの開発指揮も執る。その後、三菱重工業株式会社 社外取締役(2012年退任)、アイシン精機株式会社 取締役会長、相談役、顧問・技監(2018年退任)等を歴任。