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Sky's the limit #07/元 トヨタ自動車副社長が語る”プリウス誕生”

日本のものづくりを支えてきた様々な技術者の挑戦をひも解いていく「Sky's the limit」。第1回は、トヨタ自動車 副社長としてプリウスの開発の陣頭指揮を執られ、三菱重工業株式会社 社外取締役(2012年退任)、アイシン精機株式会社 取締役会長、相談役、顧問・技監(2018年退任)等を歴任されてこられた和田明広氏による、ものづくりへの挑戦をご紹介します。
※本記事の内容は、2011年9月にSky株式会社で実施された特別講演会の内容を再編集したものです。

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主査の10ヶ条


必ず自分の方策を持っておく

さて、こうした講演の機会をいただいた際に、よく申し上げるんですが、私どもの仕事の指針である、「主査の10ヶ条」というのがあります。もう亡くなられましたが、私が尊敬している先輩の長谷川 龍雄さんという方が、この「主査の10ヶ条」というものを書いて、みんなに配ってくれました。この方の「主査の10ヶ条」は、非常に高邁な「10ヶ条」なものですから、少しわかりやすくして書きました。本日は、その一部をご紹介申し上げたいと思います。

まず、これは私の仕事のポリシーでもあるわけですけれども、自分で進むべき方向が見えていなかったり、自分でこうしたいとの意思がハッキリしないまま、部下に「考えろ」とか「やれ」と押しつける、自分で方策がわからないのに、無理やり押しつける事はしない。私が課長や係長をやっていたころ、良い先輩がたくさんいました。

その中には、口だけで指示する主査もいましたが、私たち(部下)がどうしようもなく行き詰まり、「なんと言われても、これ以上できません」と図面を持って行くと、おもむろに紙と鉛筆を出して「こんなものはどうだ」と指示してくれる主査がいました。もちろん、初めから完璧なアイデアがあるなら、我々も悩むことはありません。つまり、「こんなアイデアだったらどうだ」と方向を示してくれるわけです。そうするとそれに対して、我々も最大限の努力でそれに報いようとするわけです。

要するに、自分に何のアイデアもないのに、「ああしろ、こうしろ」という上司にはなりたくない。やっぱりアイデアが大事です。自分の方策をきちんと持った上で、指示すべきであるということ。もちろん、(アイデアを)持っているなら、自分で最後まで書けばいいわけですが、実際にはそんなことはあり得ないと思いますけれども。


広い目でものを見る

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それからもう一つ、設計者はできるだけ大きく、広い目でものを見ることです。やっぱり設計者というのは、いろいろなものに明るくなければいけないんですね。アイシンに来たときに、「アイシンで偉くなり、役員になったからもう、体裁が悪くてスーパーマーケットには行けない」と言った人がいました。それを聞いて私は、そんな人はすぐ首を切れと言ったんです。私は、100円ショップにもしょっちゅう行って、どうすればこれが100円で売れるのかと「考える」。これは、大変大切なことだと思うんですよね。

いろんなものが、だいたいいくらで売られていて、いくらぐらいなら皆さんが喜んで買ってくれるかというのは、非常に立派な情報です。だから、いろいろなものに注力しなければいけないと思います。

テレビでもカメラでも同じです。いまテレビなんてどうですか。つい最近まで40インチの3D対応デジタルテレビが40万円ぐらいで売られていたのが、いまは20万円ぐらいじゃないですか。半年も経たないうちに、半額になっているわけですよね。いまや32インチのテレビは10万円を切った値段で買える時代です。この前まで25万円か30万円くらいでした。それぐらいのスピードで値下がりしています。下がり方がすごいということは、それを作っているメーカーが儲からないということでもあるんでしょうが、全体的にいろんなものが下がっているということでしょう。IC部品も下がっているでしょう。コンデンサ部品も下がっているでしょう。本当にいろいろなものが値下がりしています。今日もテレビを見ていたら、ニコンのクールピクスが1万円を切って売り出されているんですね。いずれにしても、そういうことも幅広く知っているべきだと思います。

ユニクロなどもそうです。ユニクロの商品がいくらぐらいで買えるか。どうすれば、こんな商品がこの値段でできるのかを考えることが大切です。ユニクロの話は面白いです。日本国内ではユニクロといえば、「まあまあ」の商品という評価ですよね。しかも、そのほとんどが「Made in China」。最近はベトナム製のものもあるかもしれませんが、昨年の上海万博のときに上海に行くと、中国ではユニクロは「品質が良い」という評価なんだそうです。これは中国だけの話ではなくて、別の国でもユニクロの商品は「品質が良い」と言われていました。確かに、私も最近のユニクロの商品には、そんなに品質の悪いものはないと思います。この品質の物が、よくこの値段で売れるなといったようなことは、やっぱり体験しないとわからないものですから、「あいつユニクロなんか行って、浅ましいな」などと感じるのは感覚が鈍い人です。ですから、そういうことがないように、ぜひ幅広くさまざまなものを目で見て、耳で聞いて、勉強をしていくべきだと思います。


その場で、早く決断する

今日持ってきた「WEDGE」にも掲載されていましたが、いま、日本が中東で非常に苦戦していると言うんです。なぜ苦戦をしているか。もちろん技術的には中国や韓国よりも評価されている。では何が一番良くないかというと、日本にいろいろなことを頼むと「検討します」と言われ、本社の回答待ちになる。さらに、その回答がなかなか返ってこない。要するに返事が遅い。ひと言で言えば、決めるのが遅い。

私が昔から言っていることですが、私は育ちが悪いもので、育ててくれた親はいつも「明広お前、遅いことはネコの子でもやるからな」といって叱られておりました。とにかく、物事は早く決断をしなければいけないと思います。

ある人が「こんなに会社が儲かって、どうしたら良いでしょう。どうしましょう」と言ってきました。私は、別に調達でもないし関連会社の社長でもないので、儲かったならどうすればいいとは言えませんので、「どうして、そんなに儲かったんですか?」と訊ねました。その方が言うには、「あなたの言うとおりに仕事したら儲かったんです」と言うんですよ。確かに私は、技術面であれこれ指導をした記憶はありますが、それ以上の記憶がないものですから、「それは、どういうことですか?」と詳しい話を聞きました。するとその方が言うには「とにかく早く決めることだ(と言われたとおりに仕事をした)」と。その方は、自分はもちろん、役員にも「即断即決をしなさい」「その日のうちに決めなさい」そういう風に言っているそうです。(即断即決のために)いつ何時ミスが出て、そのミスが大きな問題にならないかと冷や冷やすることもあるとも話しておりましたけれども、それでもやっぱり「早く決めること」これは大切なことだと思います。

大きなプロジェクトにおいては、いろいろ許可を求めに、部下がサインをもらいに来るわけです。そのときに「検討しておく」みたいなことをやっては絶対にダメなんです。まず相手が説明をしている間に、マイナスポイント、つまり問題点を考える。半分は部下の話を聞きながら、資料を見ながら、同時に反対因子を常に考えておく。そして相手の説明が終わるまでに自分で反論できない「なるほど」と思ったら即座に判を押す、サインする。そういう風に私は努力してきたつもりです。ぜひそれをお願いしたいと思います。

だいたい、部下がサインをもらいに来るというときは、嘘を言いに来ていると思わないといけないんです。

まともな内容であれば、勝手に出しておけばいいわけですから。わざわざ稟議をもらいに来たりするときは、後ろめたい気持ちがあるから一生懸命に説明に来るのであって、そういう風に見て、しっかり聞くことです。そして聞いている間に、頭の中で反論を考えて結論を出してやるということが必要ではないかと思います。


第8回/主査の10ヶ条(続き)

 

Sky株式会社 特別顧問:和田 明広

1934年、名古屋市生まれ。1956年に名古屋大学工学部を卒業後、トヨタ自動車工業株式会社(現在のトヨタ自動車株式会社)に入社。トヨタ自動車では、車体設計出身のチーフエンジニアとして、コロナ、セリカなどの開発に従事。1986年には取締役に、1994年には副社長に就任。トヨタ自動車の副社長の時代には、プロジェクトの最高責任者として、プリウスの開発指揮も執る。その後、三菱重工業株式会社 社外取締役(2012年退任)、アイシン精機株式会社 取締役会長、相談役、顧問・技監(2018年退任)等を歴任。