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Sky's the limit #08/元 トヨタ自動車副社長が語る”プリウス誕生”

日本のものづくりを支えてきた様々な技術者の挑戦をひも解いていく「Sky's the limit」。第1回は、トヨタ自動車 副社長としてプリウスの開発の陣頭指揮を執られ、三菱重工業株式会社 社外取締役(2012年退任)、アイシン精機株式会社 取締役会長、相談役、顧問・技監(2018年退任)等を歴任されてこられた和田明広氏による、ものづくりへの挑戦をご紹介します。
※本記事の内容は、2011年9月にSky株式会社で実施された特別講演会の内容を再編集したものです。

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主査の10ヶ条


掃除をすること

少し話が逸れますけれども、昨日テレビを見ていたら「やせる技術」の川原さんという人の本が売れていて、その方に講演を依頼する人が増えているという話を紹介していました。その人が最後に言われたのは、指導のときに最初に言うのは「掃除をしなさい」ということだそうです。「掃除が一番大切です」と言うんですね。それはなぜかというと、「後で片付けるからいいわ」と思って置いておくと、必ず溜まる。それは、太ることと一緒。今日、余分に食べたから、明くる日に減らすのではなく、常に減らすということを考えなければいけない。

そんな風にすぐに考える、すぐに物事を実行するということは似通っているわけです。ですから掃除を好きにならないとダメですと言っていました。これを聞いて私は「大好きなことだ」と思いました。4S(整理・整頓・清潔・清掃)とか5S(4S+躾)とか言いますが、4Sも5Sも基本は掃除ですよ。掃除がなければ、清潔にもなりません、整頓もできません、整理もできません。整理、整頓、清潔などとたくさん言いますが、結局は掃除なんです。だから昨日、その番組を見ながら「ああ、この人は良いこと言うな」と思って、さっそく家内に話すと、家内はぶつぶつ言って怒っていました(笑)。


少人数での会議を心掛ける

次に会議。私は、会議というものは物事を決める場所ではないと思います。会議というのは、上司というかプロモーターが、「自分の意見を相手に押しつける」というと言い過ぎかもしれませんが、「自分の意見で統一をするため」にみんなを集める。あるいは、「何かを告知するため」にみんなを呼んで行うのが会議だと思います。大勢が集まって議論しながら物事が決まっていくということはあり得ないわけです。要するに、イエスかノーかを決めるのが会議だということです。

私が主査をやっているとき、一度にたくさんの車を担当していました。さらにエンジンもあれば、シャシーもあれば、ボディもあれば、内装もある。いろいろな関連部品がいっぱいあるわけです。そうは言っても、全部に関連するのはシャシー、車体かもしれません。例えば、エンジンならエンジン、配管なら配管、そういうものから最初に議論し、「はい、この件は済んだので、あなたは帰りなさい」とアイテムの少ない人からやって、どんどん帰すということ。なるべく少人数で会議をするように努力をしていました。(大人数で長時間の会議を行うと)「今日も会議だ」と言って、会議室に寝に来る人がいるわけです。あれは一番困ったもので、会議は寝るための場所ではありません。寝るなら堂々と寝ていればいいわけで(笑)、会議室で寝られては困ります。


いい加減な判はもらえないと思わせる

話がアットランダムになって申し訳ありませんが、図面のチェックについてお話ししたいと思います。いまでは難しいことかもしれませんが、昔は図面を手書きしていましたので図面のチェックが簡単でした。といっても私の場合、毎朝100枚くらいの図面が来るわけです。

主査はその全部にサインをしなくてはいけません。朝9時から会議が始まりますから、少し早めに出社しても、会議までの1時間程度で100枚前後の図面を決裁しなくてはいけないわけです。そこで皆さんにも申し上げたいのは、「あの人は、絶対にいい加減なサインはしない。そう思わせなければならない」と私は考えていました。(その上で、1時間程度で100枚の図面のチェックを)どうやってするのか。昔なら、まず汚い図面を広げれば良かったんです。つまり、汚い図面というのは試行錯誤しながら書いたものなので、汚れているわけです。

あるいは、図面の書き方もあまり知らない新入社員が、一生懸命書いたものです。(こうした図面には)だいたいミスがあります。ですから、まず汚い図面からチェックをする。それからきれいな図面はさーっとサインをして、汚い図面を広げるわけですね。

その上で、なるべく上位役職の人から呼ぶわけですよ。担当者を呼んではダメです。なるべく上の方からです。どうせ部長を呼んでもラチはあかないだろうと思っても部長から呼ぶ。次に課長に聞いてもわからない。当然わからないと思っているから「お前は早く帰れ。これからはもっとよく図面を見ないとダメだ」と注意する。さらに係長を呼ぶわけですが、それでもわからない。そして担当者か、グループのチーフが来てやっと解決するわけです。とにかく、いまでもみんなが言います「和田さんに提出する図面は苦労しました。チェックにチェックを重ねて出しましたよ」と。それが大切だと思うんですよね。

いまでも図面にサインはしていると思いますが、いまはプリントアウトした図面が出てくると思います。それがA4に折られて出てくるんです。その場合は、サインをしながら図面の一部をチェックし、リーズナブルに寸法線が入っているかを見ます。寸法を入れるというのは、そう簡単なことではないんです。寸法線の入れ方というのは、どこに基準をとって寸法線を入れているのか。見方を変えれば、どこに基準を置いてこの物を設計しているのかという、頭の使い方みたいなものがわかりますから、まず寸法線の入れ方を見ます。

そして、寸法線の入れ方が悪い図面を選んで広げてじっくり見ます。だいたい、そういう図面にはミスがあるんですよ。いずれにしても「あそこへ出したものは、いい加減な判は押されない」そういう風に思わせないと、上司として失格だと思います。

あとは、部下を育てることですね。常に部下を育てなければいけない。厳しく育てなければいけない面もあります。一方では、温かい目で見てあげなければいけない面もあり、その両方があると思います。

その他にも、いろいろと「主査10ヶ条」には書いておりました。簡単にまとめれば、部下をどうやって育てるかということ。それから、いい加減な判は押してくれないという意識づけををどうやって作り、守っていけば良いか。さらに、どうやって自分の見識を広げるか。そういったことを箇条書きして、みんなに配っておりました。


製造業における中国の脅威

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圧倒的なコスト競争力と模倣の速さ

実は最近中国の内陸地方の観光地 武陵源を訪れたのですが、世界一の長さを誇るロープウェイや床を一部硝子張りにした吊り橋、歩道などの新しい設備に驚かされただけでなく、周辺の景色にも大変な驚きの連続がありました。

少し前までのひなびた田舎の景色とは打って変わって、至る所で重機を使っての大工事、上海から重慶までの高速鉄道用の橋脚が山中に林立、大規模なワイン用のブドウ畑の建設、大規模治水工事など共産党独裁政権の強みを実感しました。

同時に、日本でよく言われる農民工を安価な労働力として使って建設費を抑えたインフラ整備を行い、完成後更なる周辺開発を進めていくので、GDPでアメリカ合衆国を追い越す日も来るのでは、との印象を抱きました。

さて、都市部の近代化の速さに驚くばかりで記述の必要もないと思いますが、今後最も気をつけなければならないのは、トランプ政権がよく引き合いに出す「知財権の問題」だと思います。

数年前に言われましたが、新車が発表されると数ヵ月後にはその車のすべての部品図を作成し、売りに出す会社が存在するのが中国であると。また高級ブランドの革製品ではコピーを作る企業が本物を作っている職場の職長をヘッドハンティングしてコピーを作らせているので、高価な本物より品質が良いと評判になったこともあったようです。

いずれにしても中国からの技術導入の引き合いには十分な対価を取って快く応じるのが得策ではと思います。技術を出し渋っても必ず彼らは模倣品をつくりますので、最悪の場合は模倣品の品質の悪さのために本物の評判を落としかねない事態が起きるとも思わわれるからです。

 

Sky株式会社 特別顧問:和田 明広

1934年、名古屋市生まれ。1956年に名古屋大学工学部を卒業後、トヨタ自動車工業株式会社(現在のトヨタ自動車株式会社)に入社。トヨタ自動車では、車体設計出身のチーフエンジニアとして、コロナ、セリカなどの開発に従事。1986年には取締役に、1994年には副社長に就任。トヨタ自動車の副社長の時代には、プロジェクトの最高責任者として、プリウスの開発指揮も執る。その後、三菱重工業株式会社 社外取締役(2012年退任)、アイシン精機株式会社 取締役会長、相談役、顧問・技監(2018年退任)等を歴任。