パーソルグループとSky株式会社は、sightを通してエンジニアの自分らしいキャリアを応援しています

スキルやタイプの違うエンジニアを、どうマネジメントして、強い組織を作るのか──藤川真一(えふしん)

7月にBASEのCTOを退任し、新たにEVP of Developmentに就任した「えふしん」こと藤川真一さん。慶應義塾大学大学院でメディアデザインの研究員も務めている。コードも書くし、マネジメントもするし、メディアデザインも学ぶえふしんさんのWebテクノロジーとの出会いや、技術を使ってよりビジネスを高みに引き上げるきっかけとなったWeb2.0の衝撃について語ってもらった。

藤川 真一(えふしん)さん

Profile

藤川 真一(えふしん)氏

芝浦工業大学卒業後、FA装置メーカー、Web制作のベンチャーを経て、2006年にGMOペパボへ。ショッピングモールサービスにプロデューサーとして携わるかたわら、2007年から携帯向けTwitterクライアント『モバツイ』の開発・運営を個人で開始。モバツイ譲渡後、2012年11月6日に想創社設立。モイ株式会社にてツイキャスに携わった後にBASE株式会社のCTOとしてジョイン。2019年7月からEVP of Developmentに就任。2017年9月に慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科博士課程を単位取得満期退学、2018年1月博士(メディアデザイン学)取得、同学科研究員。

40歳になったら、市場価値は自分で発信しなければならない

ちょうど40歳になった年に、Eコマースプラットフォームやオンライン決済サービスの「BASE」を運営するBASE社のCTOに就任します。誰もがエンジニアとしてのキャリアを考えることはあると思います。

僕の場合は40歳になった瞬間に「あ、これもしかしてヤバくない?」って思ったんです。転職するにしても、40代になると年齢で弾かれることが多い。つまり、人からそう簡単には期待されなくなるという現実にハタと気づいたんです。

もちろん、40代にもなればその人なりの人脈ができているはずです。これは財産ですね。人脈というのは「僕が何者かを知っている人たち」です。どんな人かを知っていて、こういう仕事だったら、「これをお願いできるんじゃないか」と言ってもらえる人たちがいるということ。それがないとゼロから知ってもらわなきゃいけなくなる。

その時に40歳という年齢が壁になるわけです。だから、40代のキャリアを始めるにあたっては、たえず市場から期待される価値を自分で作り出す、ということを強く意識しました。

40歳の目前にBASEでCTOとしてジョインするわけですが、一般社員のエンジニアとCTOとでは、やはり求められる役割が違います。CTO はその会社の中で、一番技術をわかってなくちゃいけないし、プロダクトの最終責任を取らなくてはいけない立場。ひたすら目の前のタスクをこなす立場とは全然違います。

藤川 真一(えふしん)さん


Webサービスを運営するスタートアップの初期にCTOとしてジョインする場合、多くの会社ではWebサービスを作るためのスモールチームのリーダーとしての役割を求められます。

いわば、プロダクトマネージャやプロジェクトマネージャとしての役割です。そこから順調に会社が大きくなっていくと、開発のリーダーから組織のリーダーへと役割が変わってきます。つまり直属の部下がマネージャになり、現場からは乖離していきます。

さらに組織が大きくなっていく中でWebサービス開発以外の部分、例えば人事評価、情報システムや内部統制、経営者としての視点がより求められていきます。

僕の場合は採用に専念した後に、そこで採用した人にCTO職を譲ることに成功しました。CTOの役割をWebサービスを維持、成長させるための現場のリーダーの役割と定義して役割を移譲し、僕自身は、それ以外の部分を担い、組織のスケーラビリティと事業継続性に責任を持つ経営者としての役割にシフトしています。

もちろん僕自身も技術担当の役員である限りは、技術という武器をさらに磨かないといけません。技術者として、周囲から認められることはやはり大事。それと、技術者のマネジメントは技術者でないと気持ちがわからないとできないので、そこの部分についても今後も大切にしたいと思っています。

大学院での研究。インターネットでの信頼スコアをどう使うか

40歳を境い目にしたチャレンジのもう一つは、社会人大学院に通って博士号を取ることでした。慶應義塾大学の大学院メディアデザイン研究科(KMD)で、2018年1月に博士号を取っています。

大学院で勉強しようと思った動機は、そもそもサービスをデザインする力が自分の中にあまりないなと思ったから。Webの制作会社からpaperboyに転職する時、2006年のことですが、自分は開発はできるんだけれど、どういうWebサイトやWebサービスのデザインが作れなかったんです。デザインというのはビジュアルデザインのことではなくて広義のデザイン。今で言うUXデザインとかサービス企画のことですね。

「モバツイ」の会社を一旦譲渡し、もう1回出直すというタイミングでたまたまとあるイベントで慶應義塾大学の砂原秀樹先生にお会いすることがあったんです。最初は修士課程から入るつもりだったんですが、砂原先生が「いや、君の実績ならドクター受けなよ」と言っていただいた。

まさかドクターが3年もかかるとは知らずに(笑)、後期博士課程を受験しました。「モバツイ」や、これまでのWebでの活動実績などをまとめて合格。いきなりドクターコース、飛び級なんです。博士課程で研究したのは、論文のタイトルでいうと「インターネットの情報発信を用いた信頼指標に関する研究」です。

インターネットって「その人が本当にその人かどうか」とか「本当に物が届くかどうか」ってあまり分からないですよね。とはいえ便利だからみんな使うわけです。

でも騙されたら辛いわけで、そういうのを解決できないだろうかというテーマが研究の入り口で、たどり着いたのが「信用」という言葉でした。インターネット上で発信されている情報を元にして、どうやってその人を何かしらのカテゴリに分類するかという研究です。

藤川 真一(えふしん)さん


インターネットの信頼指標を研究するにあたって類似事例として、アメリカで使われているクレジットカードのに「クレジットスコア」を活用しました。クレジットスコアは、クレジットカードでお金を借り、その都度きちんと返済していればスコアが高くなっていく。家を借りる時などもそのスコアが流用されて、優遇されます。

移民が多く、多様なアメリカにおいて、学歴などの序列での評価は難しいので、クレジットカードのキャッシュフローでその人を判断しましょうというシンプルな考え方で、クレジットカードを持てる層にはプラットフォームとして定着しています。

インターネットの場合は、例えばGitHubのソースコードをコミットして、フォークされて広がっているだとか、インスタグラムだったら「いいね」がたくさんついているとか、そういうことをスコアリングして信用指標にすることを考えました。

その信用スコアは何を意味しているのかというと、GitHubの場合はエンジニアとして能力が高そうという期待に繫がります。ただ、GitHubの場合は、OSSへのコミットですから、必ずしも社内での評価とは同じとはならない場合もある。

実際に研究してみて分かったんですが、スコアの高い人はスキルが高いというのはわかるんですが、スコアが低い人がスキルも低いかというと、一概には言えないんですね。

GitHubなどで情報発信していないとわからないんですが、優れたエンジニアでも仕事が忙しくなると、外への情報発信をあまりしなくなるということもありますしね。

こうした信用スコアは、中国では真っ先にオンラインペイメントに取り入れられているし、日本でもその動きがあります。ただ、信用スコアはあくまでも加点要素であり一種のボーナスポイントみたいなものです。

そのサービスを高い頻度で、お金もたくさん使っている人が、さらに優遇されて恩恵を受けるのはいいんですが、「あまりそのサービスを使っていなくてランクが低い人は、決済能力も低いと見なして評価を落とす」ことは絶対させてはいけない。

インターネットのサービスを使っていないからといって、その人の社会的信用力がないわけじゃないので、そこを見誤らないようにしたい——というのが、僕の研究の現段階での結論になりました。

「繋がりにくい世界の中で折り合う人たちを繋げる技術」に関心

これからのテクノロジーで期待するものといえば、やはりAIだと思います。例えば Twitterでは、いろいろ問題が起きているじゃないですか。自分の書き込みが全然知らない人に変なリプライつけられて傷ついて辞めちゃうとか。

そういう刺々しさの草原の中に、みんないるんですよね。その中で、ネットで絶対炎上しないコツみたいなのを持ってる人は楽しめるんですが、そうでない人は可哀想だったりする。だからこそ、むしろ「繋がりにくい世界」を作るべきだ、と最近は思っているんです。

「繋がりにくい世界の中で折り合う人たちを繋げる技術」に関心があります。そういうことを、機械学習を使ってやれるんじゃないか。AIがその人と繫がるべきかどうかをリコメンドしてくれたり、AIがその人に最適のコミュニティや、クラスタを紹介してくれるとかね。

藤川 真一(えふしん)さん


もう一つ技術的な側面で言うと、Webを作る人と機械学習やAIをやる人って、スキルも出自も、エンジニアとしてのタイプも全然違いますよね。でもお互いがちゃんとリスペクトしないとよいプロダクトはできない。そこをどう繋げていくか、そこにも関心があります。

「データサイエンティストを雇えば、いいことあるんじゃないか」みたいなのは一種の幻想です。異なる背景を持つ人材を、プロジェクトマネジメントの中に取り込んでいくスキルがないと、優秀な人材も活かせない。

機械学習の結果は必ずしもいい結果が出てくるわけではなく、頑張ってチューニングしていかなければいけないんですよね。そういう作業はWebサービスを作るのとは、時間軸がそもそも違ったりします。

会社としてデータの結果をどう活かすのかというビジョンがないと、データサイエンティストとしては辛いだろうなと思います。そういったことを、CTOなり開発担当役員なりが、きちんと言えないといけない。これは僕のこれからの責務としても大切なことだと思っています。