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メカエンジニアきゅんくんの本音──実は板金、金型、設計、量産とか、泥臭いことがやりたい

高校生の頃から「メカを着ること」を目標に、ロボティクスファッションの制作を続けるクリエイター兼メカエンジニアのきゅんくん。代表作の「METCALF(メカフ)シリーズ」では、無骨な2本のアームロボットが、人間の肩から生えているように見える。
人に役立つ機能はそこにはなく、バッテリーを内蔵したアームはアプリケーションで操作され、不思議な動きを繰り返す。ロボットを人間が着ることによって機械らしさと人間らしさの境界を探ろうとしているようにも見える。きゅんくんは、なぜロボティクスファッションという新しい世界を可視化させようとしたのか──。

きゅんくん

Profile

ロボティクスファッションクリエイター / メカエンジニア きゅんくん / 松永夏紀

1994年東京都出身。機械工学を学びながらファッションとして着用するロボットを制作している。 2014年よりウェアラブルロボットの開発を進め、2015年オーストリア「Ars Electronica Gala」に招待出演し注目を集める。2016年にはウェアラブルロボット「METCALF clione」を発表。同年 AKB単独公演にて「METCALF stage」を3台稼働。渋谷にある「tsumug.inc」にて業務委託で働きながら、社会人大学院生として過ごしている。

メカエンジニアとしての私——tsumugでの仕事

私は今tsumugという会社で、メカエンジニアとして開発の仕事をしています。tsumugはコネクティッド・ロック「TiNK(ティンク)」の開発を事業の一つとして展開している企業です。

「TiNK」は、一般的なシリンダー錠に付け替えができ、数字認証、NFC、専用スマートフォンアプリからの解錠ができるコネクティッド・ロックです。キーシェアリングや、一時的にキーを発行し解錠ができるワンタイムキー発行機能もあります。現在は実証実験を進めています。

スマートロックと呼ばれるジャンルのプロダクトは他社からもいくつも登場していますが、LTEを搭載していることが他社とは違う主な点だと思います。例えば他社の製品は、Wi-FiやBluetooth Low Energy(BLE)などで通信を行うものが多いんですが、TiNKはWi-Fi環境がなくても使えるというのが利点の一つですね。

tsumugではハードウェア開発以外にサービス事業も行っており、空間へのアクセシビリティを制御して空間の価値を創造する「Sharingkeyプロジェクト」の実証実験第一弾がはじまりました。

先日リリースされた「TiNK Desk」がそれです。マンションの空き室を利用して、仕事が捗る設備が配備されたスペースを作りました。私も利用しているのですが、深く集中できる場になっていてとても良いです。

きゅんくん

tsumugはとても面白い会社で、事業形態としては株式会社ですが、雇用契約のある社員が一人もいないんです。全員個人事業主か、自分の会社を持っている人ばかり。さらにスタッフの一部は、権限のある業務委託という形になっています。

その権限には、予算や人事も含まれます。私は権限はもらっていないけれど、業務委託の一人として働いています。

私はこのスタイルが気に入っています。ソフトウェア、ハードウェアも含め、いろいろなエンジニアが自由に出入りして開発している。複数のプロジェクトが走っていて、単一のプロジェクトに参加する人もいれば、複数どころか全部のプロジェクトに顔を出す人もいる。私はメカエンジニアなので、普段は板金で設計したり、樹脂の筐体の設計をしたりしています。

現在はオフィスが渋谷に移転したのですが、以前は秋葉原にあるモノづくりのためのコワーキングスペースの「DMM.make AKIBA」と同じビルの10階にオフィスがあったので、DMM.make AKIBAにもほぼ毎日顔を出していました。tsumugのオフィスで足りない工具とかがあったら、DMM.make AKIBAで借りて、そこで設計しちゃうとか。

tsumugには社長と自分を含めてメンバーが4人の時から参加しているので、だんだん事業が大きくなっていく過程が面白いです。しばらくは一人のメカエンジニアとして、会社の成長の過程を追いかけたいと思っています。

モノづくりの量産技術を習得したい

もう一つtsumugで習得したいのは、モノづくりにおける量産技術です。いまプロジェクトで金型の設計をしているんですが、あれを一個作るのに1000万円もかかる世界なので、それを任せてもらえているのはすごくありがたいことです。その経験を全部吸収していきたいですね。

なぜ量産技術にこだわるかというと、以前、友人のファッションデザイナーに、私はMETCALFシリーズを「モノ」として作ったのに、その友人は「METCALFシリーズは『情報』だ」と言われたんです。

「なぜなら自分で買うことはできないし、着用することはできない。ただ写真や動画を見るだけなら、それ情報に過ぎない」って。そのことだけが理由ではありませんが、、量産という選択肢を手にしたいと思いました。今は量産に必要なスキルを学びたいと考えています。

きゅんくん

量産の話をすると「世界中のみんなが着用している未来を想像しているんですか」と聞かれることがあるんですが、エンジニアとしてのスキルとして、自分が量産できるという選択肢を増やしたいだけなんです。

私はメカエンジニアとしてやっていこうと決めたので、製品を量産できるようになりたいなと思っています。

板金加工会社の人ともよくやり取りしています。ただ、金型屋さんとはまだなので、これからはそれもできればいいなと思いますね。まだまだひよっこなので、絶賛勉強中なんですが……。

クリエイターとして受ける印象より泥臭いねと言われることはあります(笑)。泥臭いところこそやっていきたいですね。

作品発表メディアと、人との出会いとしてのインターネット

「これからはロボットやAIと人間が共存していく時代。そういう未来をきゅんくんはどう見ていますか」という質問もよく受けます。でも、私はその質問に答えるのがすごく苦手なんですよね(笑)。私は今あるものから、次のものを考えるタイプ。大きなビジョンを立てて、そこからモノを考えるんじゃなくて、下から上にと考えるタイプなんですよね。

もちろん、新しい技術の社会実装は考えます。社会実装を考えていなかったら、自分はスタートアップで働いていないと思います。ただ、今は自分が社会実装の先の未来を考えるフェーズにないという感じでしょうか。まずは下積みをしなくちゃ(笑)。

それでも、技術の大きな流れの中に自分はいるんだということは、日々よく考えます。例えばインターネット。さかのぼると、家にインターネットがつながった小学校3年生の時は、当時は好きな小説家のファンサイトにずっと入り浸っていました。

きゅんくん

中学生でHTMLを自分で触り始めて、高校生になると自分の服飾作品を作って、それをSNSやホームページに上げるようになりました。SNSに作品を上げてなかったら、誰にも見てもらえることはなかった。そういう意味で、インターネットがなかったらすごく生きづらい世の中だったと思います。

だから、私にとってのインターネットは、一つには作品発表のメディア。それと、友達探しですね。趣味が合う友達を探したり、出会ったりすることができるのは、インターネットならではだと思います。

そうしたネットワークを通して、自分の専門を深めるだけではなく、他の分野についても知ることができます。私が量産化技術に関心を広げることができたのも、自分の先を行く人とのつながりがあったからこそ。自分だけの専門性と他の領域への関心の広がり、これってこれからの技術者が身に付けるべき、当たり前の条件になるんだと思います。