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シンギュラリティ・ソサエティでの議論で、中島聡氏が考えるこれからのテクノロジーと社会の関係とは

学生時代に日本におけるCADソフトの草分け「CANDY」を開発し、マイクロソフトではWindows95などのチーフアーキテクトを経験。その後、日米でベンチャーを起業するなど、筋金入りのソフトウェア技術者・経営者である中島聡氏。単にITの領域に止まらず、テクノロジーと社会の関係について、ブログ、メルマガなどで積極的に発言し続けるオピニオン・リーダーでもある。2018年夏に始めたシンギュラリティ・ソサエティが掲げるテーマに沿いながら、“テクノロジーと私”について語っていただいた。

中島聡さん

Profile

ソフトウェアエンジニア・起業家 中島 聡氏

1960年東京生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科卒業。NTT電気通信研究所を経て、1986年マイクロソフト日本法人に転職。米Microsoft本社に日本人として初めて移籍し、Windows95、Windows98、Internet Explorer 3.0/4.0のチーフアーキテクトを務めた。その後、ソフトウエア開発のUIEvolution(現・Xevo)をアメリカで創業。現在は一般社団法人シンギュラリティ・ソサエティで、AI時代のテクノロジーと社会のあり方を考えるオンラインサロンを主宰。2011年に始めた有料メルマガ「週刊 Life is beautiful」は現在も継続中。著書に『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか』(文響社)『結局、人生はアウトプットで決まる』(実務教育出版)などがある。

「時代遅れな人たち」に日本の中枢が握られている危機感

2018年の夏に、僕と夏野剛さんが発起人となって、一般社団法人シンギュラリティ・ソサエティを設立し、オンラインのサロンを開設しました。IT革命がさらに進んだ未来に、社会、ビジネス、ライフスタイルの形はどうあるべきかという具体的な提言を行い、プロトタイプやビジネスプランを通じて、より良い社会を作ることを目的としています。

と、設立趣意書にはいろいろ書いているんですが、僕の個人的な理由で言うと、有料メルマガ「週刊Life is Beautiful」では、情報発信がどうしても一歩通行になってしまう。読者からの質問にも答えていますが、もう少し双方向でプロジェクトをやれる場が必要だと考えていたんです。

堀江貴文さんからのサジェスチョンもあって、まずはオンラインのサロンがいいんじゃないかと思い、基本的にはノンプロフィットの形でスタートしています。

背景には、僕なりの日本社会に対する危機感があるんです。一つの国の技術革新が停滞し、経済が低迷することを、後から「失われたx年」と呼ぶことがありますが、日本の場合はバブル崩壊後の「失われた10年」が、その後も続き、もはや「失われた30年」というぐらいに長期化しているというのが僕の実感です。

中島聡さん


さらにこれからは、AIが人の職場を奪いかねない社会になる。そういう状況の中で政府も経済界も有効な手立てを打てない状況が続いています。その一方で、大企業を中心に終身雇用制はいまだ存続しており、学生の就職活動でもやはり大手企業の人気が高い状況です。

日本では一部上場企業の正社員になると、みんな会社にしがみつくわけですよ。そうすると冒険が必要な転職はしない。転職経験も起業経験もない人が大人になって、最終的には政府や経済界の中枢を占めることになる。僕に言わせれば、「どうしようもなく時代遅れな人たち」が日本の中枢を握っていることになります。

別に彼ら自身が悪いわけではありませんが、日本の社会構造がそうなっている。そこをなんとかぶち壊したいと、かねがね考えていました。大企業にいる優秀な人材がそこから抜け出すように、起業したりベンチャー企業へ転職するように背中を押す。そういう人の流れを作りたい。それがシンギュラリティ・ソサイエティの今の主な活動になっています。

サロンで議論するからにはなんらかのテーマが必要ですから、当面は「自動運転車と街」「自動化と社会保障」「監視社会とプライバシー」「貧富の差と民主主義」「仮想現実と少子高齢化」「サステイナブルな発展」という6つをメインテーマとして、さまざまな分野の識者や専門家と議論していこうと思っています。この6つのテーマ設定には、テクノロジーと社会に関する僕なりの関心が現れているんです。

「2024年には新東名高速を自動運転専用の道路にします」宣言

自動車は通勤に使うにしても、家と会社の双方に駐車場が必要で、かつ稼働率がきわめて低い乗り物です。ところが自動運転の時代になると、必要に応じて呼び出して移動し、乗り捨てとなる。

要はUberやタクシーのような役割になるので、稼働率がものすごく上がる。駐車場も少なくて済みます。たとえ渋滞があっても車の中で仕事ができるし、そもそも完全自動運転になれば信号も不要になり、渋滞もなくなります。

そうなれば人の移動がスムーズになり、移動コストも安くなる。現在のタクシーの1/3ぐらいで利用できるようになると、地下鉄とあまり変わらなくなります。地下鉄のような大規模な公共交通機関がなくなるとは言いませんが、これからは自動運転で移動するというのが当たり前の時代が来ようとしています。

これは自動車産業だけでなく、社会全体にとって大きなインパクトを与えるものです。街のあり方が変わるのです。以前、アメリカのシアトル市にはビルやアパートを建てる時には、敷地面接の何%は駐車場にしなさいという法律がありましたが、今は撤廃されました。時代の流れを先読みして、法律を改正したのです。

自動運転で駐車場の必要性が少なくなれば、これまで駐車スペースとして確保していた地下が別の用途に使えるようになる。都市設計やビル設計に携わる人は、こうした自動運転による都市機能の変化を、今から考えておかなければなりません。

自動運転が進めば、人は駐車場付きの家にこだわらなくなり、都心に住む必然性もなくなる。リモートワークが当たり前になり、通勤という概念さえなくなるかもしれません。

中島聡さん


もちろん現時点での自動運転技術は完全なものではなく、Googleの実験でも時々事故が起こっています。これはテクノロジーの進化の過程ではやむをえないもの。しかし、それが大きなニュースになってしまう。Uber の自動運転車が起こした死亡事故が良い例です。

こんなのを見ていると、僕は社会常識的に見て、人間の運転する車と自動運転車が同じぐらいの安全さでは、まだ社会が受け入れてくれないんじゃないかと考えています。

自動運転が人間による運転よりも、10倍ぐらい安全にならないと、社会に入っていけない。当面は自動運転車だけを走らせる特区を作って、そこから徐々に広げていくのがいいと思います。

僕は「ナカジマノミクス」といって、今から5年前に「東京オリンピックが開催される2020年からは新東名高速道路(第二東名)は自動運転の車しか走れないと宣言すべきだ」ということを提唱しました。東京オリンピックを自動運転テクノロジーの起爆剤にしようと考えたわけです。

今すぐと言われれば無理ですが、5年後なら、みんなそれに向けて必死で開発するじゃないですか。オリンピックはもうすぐ始まってしまいますが、今からでも遅くない。「2024年には新東名を自動運転専用の道路にします」と言ってしまえばいい。トップがそう言うだけで世の中はガラッと変わるものです。

高齢化や過疎化の問題が特に地方では深刻です。お年寄りの交通手段ということを考えると、本当は自動運転のシャトルバスが、コスト的には一番理にかなってるんです。誰が最初のコストを負担をするかは重要ですが、そろそろ本気で取り組むべきじゃないでしょうか。シンギュラリティ・ソサエティでは、そんなことも議論していきたいと思います。

もうGoogle検索は使わない。監視社会とプライバシーはどうあるべきか

ソサエティでの2つ目のテーマが「自動化と社会保障」です。ロボットとAIが組み合わさって、これからどんどん人間の仕事を奪っていく。工場だけでなく、ホワイトカラーの仕事でも、定型業務はどんどん人工知能に置き換わるわけです。

すでに技術的にはそれが可能なレベルになっていて、あとは社会がそれを受け入れられるかどうかという話でしかない。ただ、それを「雇用者をいつでも解雇していい」と言ったらどうなるか。膨大な失業者が街にあふれるかもしれません。政府はそれを支えなければいけない。

その支え方の一つとして、ベーシックインカムという考え方があります。十分理にかなった話だとは思います。政治家はベーシックインカムを含む新しい社会保障システムを真剣に考え、そろそろ取り組みをしなければいけないのに、そうなっていない。

結局投票してる人たちは高齢者が多いために、高齢者向けの政策にならざるを得ない。しかも年金が破綻しつつある状況で、どうやって本格的にサスティナブルな社会にするための議論がされていないし、準備も全くしていないわけです。

そのことが、僕たち技術系の人間には見えているわけですよ。だから技術者の立場から、来たるべき社会のあり方について、やっぱり何らかの発信していかなければいけないと思っています。

「監視社会とプライバシー」も重要、かつ難しいテーマです。要はGoogleなりFacebookに自分の行動履歴や交友関係のデータを渡すことで、僕たちはGmailやFacebookといったサービスを無料で受けているわけです。

中島聡さん


自分のプライバシーをそう簡単に引き渡していいのかという問題意識を持つ人も増えてきました。僕も実は、最近は検索にGoogleは使っていないんですね。Googleでサーチしようとすると必ず僕のGmailアドレスと結びついて、僕が何をサーチしているかがGoogleに知られてしまう。

それが僕には許せない。Microsoftはそのあたりは抑制的なので、最近はネット検索はもっぱらBingでするようにしています。

このように欧米では監視社会とプライバシーの問題が意識されるようになった一方で、逆に中国はその正反対の方法に進んでいるように見えます。バイドゥ、テンセント、アリババが消費者のデータを集めて、信用スコアで融資枠を設定するランク付けを始めている。そもそもプライバシーに対する考え方が国民的にも違うし、法律も違うのですが、中国の人たちはそれをよしとしているわけですね。

これを別の視点から見ると、いま個人データをどこが集めるかで、世界のテックジャイアンツの間で熾烈な競争が行われているわけです。より多くのデータ、より密度の高いデータを持っている組織・企業が、AIの技術をより急速に進化させることができる。

現状では、Google、Facebookよりもテンセント、アリババの方がAI開発では有利な状況にあるといえます。状況をこのまま5年10年放置すると、たぶんAI技術では中国の方がアメリカより上になってしまう。だから今、アメリカでは、技術をよく理解している人たちであればあるからこそ、こうした状況に強い危機感を持つようになってきました。