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君の研究には何十億円もの価値がある──大関真之氏が「出力」することで得た起業のチャンス

量子コンピューティングが注目を集めている。その中でも量子アニーリング方式の研究者として知られる大関真之氏の活躍ぶりは目覚ましい。東北大学「量子アニーリング研究開発センター」や「量子アニーリング研究開発コンソーシアム」の設立、量子アニーリングの応用研究開発に尽力する一方で、シグマアイを創業し、研究成果の社会実装にも取り組んでいる。また、量子アニーリングや機械学習に関する著作や講演にも定評がある。産学に渡り、次世代テクノロジーを牽引する大関氏に、その熱い想いを語ってもらった。

大関 真之氏

Profile

大関 真之氏
東北大学大学院情報科学研究科応用情報科学専攻 准教授 東京工業大学科学技術創成研究院 准教授、株式会社シグマアイ代表取締役 

東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了。博士(理学)。京都大学大学院情報学研究科助教、ローマ大学研究員等を経て現職。真の産学連携の姿を追い求め、株式会社シグマアイを設立。基礎研究にとどまらず、 応用研究をデンソーや京セラなど多数の企業と共に推進。株式会社シグマアイとD-Wave Systems Inc.の間で日本初の大型契約を締結。代表的な著作に「機械学習入門-深層学習からボルツマン機械学習まで-」「ベイズ推定入門-モデル選択からベイズ的最適化まで-」「Pythonで機械学習入門- 深層学習から敵対的生成ネットワークまで-」「量子コンピュータが人工知能を加速する」「量子アニーリングの基礎」「量子コンピュータが変える未来」がある。

「出力」には、それに見合う「入力」が必要だ

予備校の講師という仕事を通して、人に伝える・教えるスキルを磨き上げることができました。自分で知識をいかに蓄え、それを人に対してどうアウトプットするか、つまり入力と出力のバランスというのはとっても重要なテーマだと思います。

これは研究者もエンジニアも同じだと思いますが、新しい知識を入力ばかりして出力しない人もいますよね。逆に、出力ばかりに熱心な人もいます。どちらがいいかと言えば、後者の方でしょうね。出力しまくるためには、それに見合う入力が必要になるからです。インプットなしにアウトプットするというのはあり得ない。

自分が得た知識を自分なりに消化して、わかりやすく外部に出力していくと、そのうちお客さんやファンがついてきます。そして、次は何をしてくれるのかと期待されるようになります。期待されると出力したくなるじゃないですか。そのためにネタを仕入れて、また勉強するようになる。

研究者は新しい技術や研究が登場すると、論文を読んだりセミナーに出たりして、勉強し始めるんですよ。ただ、勉強はするものの、よくわからなかったと勉強を終えちゃう人もいる。実はこの入出力の関係を、逆にしないといけない。まずは出がらしでもなんでもいいから出力しまくったほうがいいんです。

研究者のアウトプットは論文や学会発表ですし、エンジニアはプログラミングしてアプリやツールを作ったり、新しいUIを考えることですよね。自分が学んだことを積極的に外に出して、間違いを指摘されたら、それを訂正して、再び勉強して、またアウトプットする。そういう循環のほうがいいと思うんです。

大関 真之氏

つまり、今の時代は「出力正義」なんですよ。「Qiita」や「note」といった発信のためのツールや場もたくさんあります。そういう場を使って、「こんな新しい技術を試しました」「こういうバグがあります」を気軽にレポートできる。

YouTubeなどの動画でもいいですね。自分でお喋りしながら映像で説明できるようになる。エンジニアにはいい時代だと思います。何でもいいからアウトプットを出せる人が生き残れるし、成長できる。そういう好循環が生まれている。

そういう意味では、私も予備校教師を経験して良かったですね。予備校講師は出力ありきの世界ですから、かなり鍛えられました。

論文の本数じゃなく、世の中の役に立つ研究を。実用化を目指したい

私は大学の准教授とともに、起業家という顔も持っています。2019年にシグマアイという会社を起業しました。大学発のテクノロジーベンチャーです。主にB2B向けに量子アニーリングマシンを活用した総合ソリューションを提供しています。研究というキーワードでくくってしまえば、大学だろうが企業だろうが、どこでやっても同じかもしれないのですが、なぜ私があえて会社を作ったのか、その話をしたいと思います。

もともと企業に勤めた経験がないので、大学の世界しか知らなかったんですが、そのうち何か変だと思うようになったんです。大学には助教・准教授・教授という職階があります。職階を上がるためには、つまり出世するためには、論文を発表しないといけなくて、その本数が重要になる。何本書けば教授として適格だというような目安もあるようです。

しかし最近は悲しいことに、研究者の流動性を高めるという目的で、助教・講師・准教授に任期制を導入する大学が増えています。短いところでは2年しか在職できない。その間に論文を書いて、成果を発表しなければならない。でも、そんな短い期間に結果が出てくる研究なんて底が知れているし、本当はもっと追求したいことがあるはずなんですよ。

それでも、大学教員として、研究者として食いつなぐためには、より多くの論文を書いて、学会発表をしなければならない。ともすると論文数を稼ぐために研究をするようになる。これって目的と手段が逆転していて本末転倒じゃないですか。本来は研究したから論文を書くわけですから。

そういうことが、生き方としてだんだん馬鹿らしくなってきたんですよ。偉そうですけれど。そこで考え方を変えることにしました。論文のための研究じゃなくて、実用化のための研究をもっと上手にやる方法はないものかと。自分の研究が世の中の役に立つということを、研究の最大のモチベーションにしようと思ったんです。

大関 真之氏

ゼロイチだけでなく、10まで完成させる科学者になりたい

大学は基礎研究、企業はそれを応用して事業化するという役割分担で、大学発のシーズをスムースに社会に実装する産学連携というスキームがあります。そこで私も企業の方とお付き合いをしてみようと、量子アニーリングの分野で共同研究に積極的に取り組んで行きました。

そこで新しい出会いもあったし、社会のニーズを感じ取って、研究の方向性を考えたりだいぶ刺激的でした。いくつかの企業と研究成果の発表もしてきました。企業はそれをプレスリリースという形で世の中に宣伝して、それに対する反響もある。これはこれで非常に面白かったんです。

なるほど、これはいいかもしれない。私の研究はこうして世に出ていくんだと思った。しかしながら、何か役に立ちそうだというところまではできるけど、商品化、サービス化、事業化する段になると、また違ってくるんですね。企業にはその研究がビジネスとして成立するかどうかという判断があります。その結果、事業化までは至らないことも多かったんです。

もちろん全然儲からない研究なら諦めますが、聞いてみると事情が少し違うんですね。例えばこの研究成果を使って、1億円は儲かるとする。しかし大企業にとっては1億円なんて小さい額ですよ。「うちは10億、100億円を稼ぐ事業部だから、1億円規模の案件にリソースを割いてはいられない」という判断になる。

会社の事情としてはわかるのですが、新しい技術を世に出そうとしていた仲間からそういう話を聞くのは、ショックでした。結局、生みの親が責任を取って独り立ちさせなくてはだめなんだと、思ったんですね。

大学は0を1にするところと考えると、企業との共同研究で、その1を2や3にするというイメージですかね。そこまではできた。でもどうしても自分は0から1へブレイクスルーしたら、最後の10まで完成させ対し、そうしたらどうなるのかが知りたい。未来を見たい。それが、科学者というものなんじゃないのかなって思うようになった。でも、世の中には、そういう科学者はあまりいないみたいなんですね。役割分担して手際よくやるのが良いのだよ、というのが基本スタイルのようで。でもなんか残念な気がした。

だったら、自分でやろうじゃないか。自分でそれをやる会社を作るしかないと思ったんです。それがシグマアイというベンチャーを作った理由です。東北大と東工大で萌芽として生まれた技術を自分たちで加速化させ、1から10にしてみせると。そのプロセスを一緒に担ってくれるパートナー企業があれば、もちろん一緒にやりましょうと。だから10を目指す欲張りな会社かも知れないけど、未来を創りたい、誰よりも先に。

投資顧問企業の社長が出資してくれた

産学共同研究は意義あるものではありますが、企業との共同研究の時間が増えると、大学の仕事をする時間が削られるというジレンマもありました。大学人としては大学の仕事をすべきだと思いますが、一緒に取り組む企業が増えてくると、それぞれの企業の課題に対して答えを出すべく時間を費やすようになって行きました。

あれれ、僕は東北大学の人間なのに、東北大学の仕事をしていないように感じるぞって。おかしな気分になってくる。なんとなくその企業さんの下請け仕事をやっているような気分にすらなってくる。

もちろん自分の技術や発想に期待してくれて、一緒に取り組みたいという企業さんも多いわけですけど、でもその企業さんたちのためにも、自分の研究時間や仕事の時間も保たないと新しい発想に行きつかない。自分の時間とリソースを生み出すためにも、仲間と会社を作ることが必要になっていきました。

とはいえ、会社を起業し、運営するためには資金が必要です。ベンチャー企業でよくあるのが、技術に対する投資ですね。私の場合でしたら、量子アリーニングの知識や研究に投資して、企業は量子アニーリングのソリューションを作って利益を得るという考え方です。

ただ、私の場合は大学発ベンチャーを作るということ自体は変わらないことですが、単に大学の技術を活かすためだけの会社ではない。大学の研究者が本来の研究者らしくあり続け、その技術を社会実装するところまで、未来を創る営みに関わることのできる会社なんです。

技術以上に私という人間を象った、属人的な会社なんですね。そうした思いを全て理解して投資してくれる投資家なんているわけがない。本当に会社を興すかどうか。悶々としていました。

大関 真之氏

ちょうどその頃、量子コンピュータが注目されるようになり、投資家向けに講演する機会も増えました。あるときに、品川に本社のある独立系の投資顧問・資産運用会社で講演する機会がありました。

その講演が終わったときに、「東北大学の准教授なのに、胸につけているその首飾りはなんなんだ」と言ってきた年配の男性がいたんですね。私は予備校講師時代から、人前で講演するときは、お気に入りのシルバーアクセサリーをつけていました。

予備校講師は人気商売なので、自分のアイデンティティをアピールするんですよ。てっきりその点でお叱りを受けるのかと思ってドキドキしていたら、その男性は「君のキャラクターが面白いな」と言うんですよ。

そのときの講演では、「企業とうまく仕事をしていくにはどうしたらいいか苦悩している」「政府や文科省から支援はあるけれども。規模は小さく、期間が短い」「大学院生がわずかな金額のアルバイトで研究を助けてくれている」「研究者を安定的に雇用するお金がない」というような話もしたんです。きっと何か困っていた頃なんでしょうね(笑)

その人は、日本の大学で、たくさんの研究室がそういう状況に置かれていることに驚いていました。私の研究にはものすごい価値があるのに、安く買われているんじゃないかと。それが、いまシグマアイに投資していただいているスパークス・グループの阿部修平社長との出会いでした。

セミナーが終わると、阿部社長の一声ですぐに研究室への支援を決定していただきました。そのおかげで研究活動はぐっと安定して、落ち着いて研究の方向性や今後の自分たちの活動方針や展開を考えられるようになり、そうして結論として、自分たちでスタートアップを作って、技術を世の中に送り出していこう、と決めたんです。

会社を作ろうと決めたことを阿部社長に報告しに行くと、挨拶するや否や「やっとやる気になったか」と言われました。君たちには何十億円もの価値がある。その価値に対して投資をするから、好きなようにやれと。

びっくりですよね。投資を受けるための相談じゃなくて、創業の意志を示すためにまずは、とご挨拶に伺っただけなのに。技術そのものというよりも、私たちがやりたいと思っている意志に共感し、ポンと投資をしてくれたんです。

阿部社長も若い頃、アメリカで有名な個人投資家からとてつもなく大きな仕事を受けたときに驚き、足が震えたそうですが、私もそうでした。ものすごい投資家が私たちの活動に投資してくれるってよよと、ガクガク震えながら家族に説明したものです。

人生の中でチャンスと思える瞬間はそう何度もあるわけじゃない。ただ、そのチャンスを与えてくれる時は必ずくる。そういう出会いがあって、いまシグマアイは大学の研究という枠には留まらないスケールで、世の中に貢献する仕事ができているのです。