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エンジニアは技術とコミュニティで社会課題を解決できる──及川卓也氏が考える「テクノロジーのこれから」

及川卓也氏は所属でラベル付けされることを嫌う。エンジニアがリスペクトされ、人材の流動性の高い社会では、会社の名前にこだわることなど意味がないと考える。及川氏が考える、日本のテクノロジーのこれからとエンジニアの生き方とは──

及川卓也氏

Profile

Tably(テーブリー)株式会社
代表取締役 Technology Enabler 及川 卓也(おいかわ・たくや)氏

早稲田大学理工学部卒業後、DEC、Microsoft、Googleにてソフトウェアを開発。Microsoftでは日本語版と韓国語版Windowsの開発統括を務める。Googleでは9年間にわたり、プロダクトマネージャとエンジニアリングマネージャーを経験。Chrome、Chrome OS、Google日本語入力などを担当。2012年日経ビジネス「次代を創る100人」に選出。その後「Qiita」を運営するIncrementsに入社、プロダクトマネージャーとして従事後、2017年独立。フリーランスの立場から複数の企業の技術・事業アドバイスを行う。2019年1月、Tably株式会社を設立

「Hack For Japan」が示したエンジニアコミュニティの力

Google在職中の2011年3月11日、東日本大震災がありました。被災地の復興のために何かITの力でお手伝いできることはないかと考え、仲間を募って「Hack For Japan」という活動を始めました。その時に強く感じたのは、エンジニアコミュニティの力というものです。

既存の組織、行政機関や企業の枠組みとは違う形で、個人が動き出し、モノやサービスを生み出す。企業の中にいるエンジニアたちがサービスやプロダクトを企業として提供するというだけでなく、個人としてコミュニティに参加して何らかの貢献をしていく。日本のエンジニアにもそういう動きが出てきたことが一種の驚きであり、喜びでした。

震災から1週間くらい経った頃、京都でハッカソンをやったんです。その時に来てくれた関西在住のエンジニアの中にこんな人がいました。彼はゲーム会社で働くエンジニアなんですが、ハッカソンというものに参加したのは、その時が初めてだと言っていました。

そこで、彼は人生が変わるくらいの体験をした。そのことを自身のブログに書いていました。その後、彼はある技術に関するコミュニティを立ち上げて、勉強会を主催する側になった。あの時、ハッカソンに参加しなければ、そんなコミュニティへの貢献なんて真剣に考えなかっただろうと振り返るんです。

及川卓也氏


他にも、自分の会社以外でプログラムを書くのは初めてだというエンジニアもいましたね。まだ入社したばかりの若い人でしたが、それがきっかけになって、会社の中でも頭角を現し、転職して、いまはプロダクトマネージャーとして新規事業に携わっているそうです。こういう人たちが何人もいるんですよ。

あの時はみんな「震災復興のために何かをしたい」という思いに急かされるようにして集まってきたんですが、それをきっかけに、技術者として自分に何ができるかということを考えるようになった。そして新しいコミュニティを作って、それをリードするようになった。あるいは、その活動が転職という自分がより活躍できる場を求める形になった人もいる。

「Hack For Japan」で私はただ旗振り役をやっただけですが、それが個人とエンジニアコミュニティをエンパワーするきっかけになったのだとすれば、こんなに嬉しいことはありません。

100人のユーザーのために、100万人向けのサービスを作る必要はない

「Hack For Japan」は、ソフトウェアエンジニアが自分が作ったプロダクトを通して社会的課題を解決できる、ということを発見したという点でも重要な意義があったと思います。ただ、これはいろいろ失敗もありましたね。

ソフトウェアエンジニアが世の中の役に立ちたいと思うのは当然なんですが、被災地の人は別にプロダクトそのものを求めているんじゃないんです。いま目の前にある課題解決を求めているんです。

その課題解決の方法は、別にソフトウェアでなければならない必然性はないんです。エンジニアが「こういうものが必要なはずだから作りました。さあ、使って下さい」というのは、ときには押し付けになることもあるんです。

そうした反省をしながらも災害時のIT活用はどうあるべきかについてはずっと考えてきていて、2015年には一般社団法人「情報支援レスキュー隊(IT Disaster Assistance and Response Team 略称:IT DART)」を設立します。私は発起人の一人で、この前まで代表理事を務めていました。

団体名に「IT」という言葉はついていますが、そこで私が大切にしたいのは「T=テクノロジー」よりも「I=情報」なんです。災害発生時には何よりも情報の収集・活用・発信の支援が必要なのであって、テクノロジーはあくまでもそれを実現するツールにすぎないということなんです。

及川卓也氏


エンジニアは最新のテクノロジーを使ってかっこいいものを出そうとするけど、本当にそれが求められているのか。もしかしたらExcelのマクロ程度でも、十分かもしれないんじゃないか。それよりもエンジニアが考えるべき課題は他にあるんじゃないか。震災はそういう気づきを私にもたらしました。

こうした考え方は、今私がいろいろな会社のお手伝いをするところにも結びついています。技術力のある会社は、サービスをテクノロジーで効率化させようと、エンジニアの力ですごいプロダクトを最初から作ろうとするんですね。

でもスタートアップで、ユーザーが何人いるかもわからないような状況で、いきなり10万人、100万人にが使えるようなシステムを作っても、あまり意味がないじゃないですか。もちろん、その事業がうまく離陸し、アクセルを踏む時になったら、人でオペレーションしていたらスケールしないのでテクノロジーによる効率化を考えなければいけないですけど。

最初から「100人の人だけをハッピーにする」ことを狙うのだったら、裏側は全部人がやったって構わないかもしれない。スタートアップの人たちにはそんな話をよくしています。

スタートアップをどう育てていくか。私のコンサルテーション術

私がスタートアップに技術顧問という立場で関わるときは3つの条件があって、「技術がある」「事業戦略がある」そして、「それを支える組織がある」企業です。どんなに貧弱なものでも、この3つがないとそもそも起業できないし、ベンチャーキャピタルも投資しません。最低限のことは回り始めていることが前提です。

ただ、個別で考えるといくつも課題がある。今後組織が成長していくのを考えた時に、今何をやらなければならないかが分からない。そういう悩みを多くのスタートアップが抱えています。

例えば、事業をスケールさせるには人材が不可欠。ただ、これがなかなか採用できないでいる。そこで私は採用戦略を一緒に考えたり、エンジニアが増えてきた時に評価・育成をどうしたらいいのか、マネジメントをどうすればいいかというような話をします。そもそも、成長するためには今どんなエンジニアが必要なのか、というようなところから入ることもあります。

及川卓也氏


私の契約の形は、年間でさまざまなプロジェクトの支援を行うというスタイルと、プロジェクト単位で契約するスタイルの二つがあります。後者の場合は、例えば「エンジニアの評価制度作り」だけを担当し、期間限定でそれをやるわけです。

いずれの場合も、最初の1カ月ぐらいは「まず内容を把握したい」ので、中の人にヒアリングさせてもらったり、1on1をマネージャー全員とやったりして、その後に私の方でたたき台を作り、一緒にレビューしながら、最終的にそれを実施していきます。

プロダクト開発というプロジェクトであれば、実際に成果物が世の中に出て、評価を受けますから、良くも悪くも技術顧問としては成果を実感できます。ただ、組織作りやエンジニア・マネジメントは、すぐに結果が出るものではありませんから、手応えをなかなか感じられないもどかしさはあります。

ただ、しばらくすると教えられることはあるんですよ。契約が終わった企業でも「以前、及川さんに教えていただいたことが、今こんなふうに花開いていますよ」とか、一緒にプロジェクトに関わった若い人たちが、その後、驚くほど成長しているのを見る時は嬉しいですね。時間はかかったけど、関わってよかったと本当に思います。

次回 #03 テクノロジーで実現する未来 Coming soon