パーソルグループとSky株式会社は、sightを通してエンジニアの自分らしいキャリアを応援しています

ビジネスは「ギブ・ファースト」「アウトプット・ファースト」で──澤円のこだわり仕事術

年間200回以上のプレゼンテーションを行い、プレゼンのスペシャリストとして知られる澤円氏。プレゼンテーション・アドバイザーとして活躍し、琉球大学客員教授やベンチャー企業の顧問も務めている。澤氏が若い頃に体験した“テクノロジーの渦”とは何か。その出会いから、プレゼンの神と呼ばれるまでのキャリアの軌跡を辿りながら、エンジニアが輝く世界に向けて澤氏渾身のメッセージとは——

澤円氏

Profile

プレゼンテーション・アドバイザー、圓窓代表 澤 円(さわ・まどか)氏

大手外資系IT企業 テクノロジーセンター センター長。立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年より、現職。情報共有系コンサルタントを経てプリセールスSEへ。競合対策専門営業チームマネージャ、ポータル&コラボレーショングループマネージャ、クラウドプラットフォーム営業本部本部長などを歴任。著書に「外資系エリートのシンプルな伝え方」「マイクロソフト伝説マネジャーの世界No.1プレゼン術」。

システム内製化でコアスキルを残す。クライアントから学んだこと

大学を出て就職した生命保険のIT子会社から、いま僕が所属する外資系テクノロジー企業に転職したのは、1997年のこと。Interop TokyoというITイベントで、人材エージェントから声をかけられたのがきっかけでした。

Windows95が登場して、日本の会社や個人にパソコンが爆発的に普及し、まもなくWindows98がリリースされようという時期。インターネットやデジタルシフトのうねりに、世の中が活気づいていた時代です。それを黎明期から体験できたことは幸せでした。

僕は直感のようなものを感じて、今の会社に移り、ITコンサルタントを始めることになりました。前職でLotus Notes(クライアントサーバ型のグループウェア)の導入をやっていた経験を買われ、Notesを使っている企業のお客さんに、Microsoft Exchangeへの切り替えを勧めるという仕事をアサインされました。

Notesは独自規格が強すぎて少々使いづらいところがありました。メッセージング機能については、Exchangeのほうが優れていた。そうしたことを説明しながら、僕はエンドユーザー向けのコンサルティングをしていました。最初の頃のお客さんに食品会社のカゴメがあります。カゴメさんとのビジネスは、僕のキャリアの中でも大変貴重なものになりました。

澤円氏


というのも、その頃からカゴメはシステムの内製化をしっかり進めている会社だったんです。もちろん一部外注化するところもありますが、仕様だけ書いてあとは丸投げ、ということは絶対にしない。デザインから何から自分たちで作るんです。

さらに、社内のIT部門と現業部門の関係がとてもよくて、システム力を企業の価値向上に活かせていました。最近あらためて内製化のアドバンテージが問われ、テクノロジーのコアスキルを内部に留保する重要性が注目されていますが、90年代からそれを実践していた企業と言えるかもしれません。

これからの時代は全ての企業がテクノロジーカンパニーになり、データを活かしたビジネスは当たり前のことになります。社員全員がものすごいITスキルを持つ必要はないものの、ITに対してアレルギーがあるような人がいては困る。カゴメはそういう時代を先取りしていた。

そういう意味では、僕は顧客に恵まれましたね。コンサルタントの仕事を通して、可愛がっていただいた企業には、アサヒビール、明治乳業など、なぜか食品メーカーが多かった。

ただ、僕自身が優秀なITコンサルだったかと問われると、必死で仕事をしましたが、決して優秀だったわけではない。分からなければ人に聞くし、教えてもらったことをこぼさないようにお客さんに提案していく、そういうコンサルティングに徹していました。

インターネット登場の前後で、私たちの仕事は何が変わったのか

今の会社で仕事を始めてもう22年経ちますが、ITの最前線で世界のビジネスの構造が根本的に変わるのを見ることができて、本当にラッキーだったと思います。インターネットがない時代には、どこか遠くの、誰も知らないものを、持ってくることができる人に価値がありました。

しかしインターネットの時代には、自分だけが知っているということはほぼありえない。未知のものを持ってくるだけでは、価値を生まないのです。違う価値観がこの世に存在するというのはもはや当たり前のことで、その違いの中から何を生み出すかが問われるのです。

ちょっと話が脱線するかもしれませんが、ずいぶん前に慶応大学で開催されたアントレプレナーシップを学ぶイベントで講演をしたことがありました。

澤円氏


僕はそこで学生にプレゼンテーションとイノベーションの考え方を話しました。大学職員のみなさんは「いい話で学生たちも勇気づけられたようです」と言ってくれた。そのとき、地方大学から学生さんを連れてきた引率の職員さんが、こんなエピソードをこっそり教えてくれたんです。

なんでもこうしたイベントに学生を参加させることに、学内では猛反対があったというんです。「そんな外の世界を見せたら、学生たちが卒業したらみんなこの地を出てしまうじゃないか」って。たしかに技術系の学生を育て、地域の産業を強化しようというのが、その大学の設立趣旨にはあります。

しかし、今どき、ネットで世界の裏側で何が起こっているかがリアルタイムに分かる時代に、外を見させないなんてことができるはずもない。学生を特定の地域に縛り付けることも不可能でしょう。

昔はそういう考え方が通用したのかもしれないけれど、今は無理。ネットは全国津々浦々に普及し、回線スピードやその品質はいまや世界でもトップクラスです。適当なデバイスさえ手に入れば、誰もが世界中から情報を集めることができる。ここでの当たり前が、他では当たり前ではないという事実をすぐ知ることができるんです。

企業のビジネスも同じことです。自社でしか通用しないような考えや手法、システムでは、世界とつながることができない。そのことがはっきりした20年でもありました。

他流試合の現場で、すべてを吐き出し、新たな知識を吸収する

今の会社には国内はもとより、世界中に優れた人材やナレッジが集積しています。研究所レベルから現場でお客さんと接する営業の一人ひとりにいたるまで、その蓄積は見事なものです。

それらの知見は、テクノロジーを武器に世界で闘おうとする顧客企業とのビジネスを通して培われたものだと、僕は思います。

そうしたリソースやナレッジにアクセスし、その真価を吸収しながら、自分も知の蓄積に貢献しなくちゃいけない。そういう思いで仕事をしてきました。

そこで僕がいかに知識をキャッチアップするのかという勉強法ですが、僕はもともと座学で勉強するのは向いていない人間です。30分も机の前でじっとしていられないタチなんです(笑)。

澤円氏


では、どうするのか。前回も触れましたが、僕は大のガジェット好き。新しいガジェットが出たら、まずはそれに触ってみたくてしょうがなくなる。だから使いながら覚えるというのは得意なんです。

ガジェットやツールを一人のユーザーとしてあれこれいじくりながら、分からないことがあったら人に聞く、ネットで調べることを繰り返すというのが僕の勉強法といえば勉強法です。

誰もまだ使っていないようなガジェットやテクノロジーを人より一瞬先に使い出し、まだ知らない人に教える。その知識の差は一瞬ですぐに追いつかれてしまいますが、それでも人に教えることで、貸しを先に作っておく。

そうすれば、僕が知らない別のことをその人に聞いたときも、気持ちよく教えてくれます。つまり、人に与えるのが先。「ギブ・ファースト」。それをしていれば、ビジネスでは必ずテイクが得られます。

他流試合をこなすというのも、僕ならではの知識獲得法の一つかもしれません。新しい技術を他の人にデモしたり、披露する場に積極的に飛び込んでいくんです。人前で話すわけですから、自信がなかったらできない。

そのプロダクトについては裏のことまで含めて徹底的に知っておかなければなりません。人に伝える経験の場数を踏むことで、自分自身の知識を鍛えていくのです。

こんな話もあります。タブレット端末が出たばかりの頃、僕は冬休みになると、野沢温泉で、スキーのインストラクターのアルバイトをしていました。

地元の農業兼業のインストラクターたちにタブレットを見せて自慢していたら、「こんなことはできる? これに使えるんじゃない?」と、地元の人からいろんな使い方のヒントを提案されたんですね。

澤円氏


インストラクターだから、何かをその場でメモしたり、絵や写真を使って教えたりする必要があるんだけれど、タブレットは紙よりもはるかに使えるというんです。

「へえ、なるほどな」と僕は思いました。「HoloLens(ホロレンズ)」が登場したときも、さっそくそれを美容室に持っていったら、美容師のオーナーが即座に「これ、若手の教育に使えるよね」って反応してくれました。

新しい技術を外に持ち出せば、部屋にこもって自分ひとりで使っているときより何倍もの刺激を得られる。僕だけではない、多くの人のユースケースを理解できるようになるんです。

そういう意味で僕は徹底的に「アウトプット・ファースト」を実践してきました。自分が知っている知識を惜しみなく人に披露する。一見、知識を吐き出したらすっからかんになってしまいそうですが、そんなことはない。

むしろ自分の知識が枯渇するという経験が重要。乾いた雑巾はたくさんの水を吸い込むことができます。積極的にアウトプットして、自分をカラカラにしたほうが、また新しい知識を吸収することができるのです。

次回 #03 テクノロジーで実現する未来 Coming soon