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スプツニ子!とテクノロジーの出会い──アートが結びつくと、人や社会はどう変わるのか?

世界に影響を与える若手アーティストの一人として、世界経済フォーラムやTEDなどにも登壇したスプツニ子!さん。テクノロジーとの出会いは中学生の時のiMacでした。単に美しいものをデザインするのではなく、社会に対して問いを立てるアーティストとしての道は、幼少時から感じていた、周囲とは違う“異分子”としての自覚が背景にあったと言います。
あらゆる領域でテクノロジーとの結びつきが不可欠の時代に、アーティストは何を問い、共に新しい世界を切り拓くために、エンジニアに何を期待するのでしょうか。

スプツニ子!さん

Profile

東京藝術大学美術学部デザイン科准教授 スプツニ子!(尾崎マリサ)さん

1985年生まれ。英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アートでスペキュラティブデザインを専攻。マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ助教を経て、2019年4月現在、東京藝術大学美術学部デザイン科准教授。「生理マシーン、タカシの場合。」「東京減点女子医大」といったジェンダーや生命倫理、社会的差別などをテーマとした作品で知られる。TEDが選ぶ20人の「TED Fellows」に選出され、2019年4月バンクーバーで開催されたTED2019に登壇。著書『はみだす力』。共著『ネットで進化する人類』(伊藤穣一監修)など。

思い出しても泣けてくる。iMacが私の最初の“彼氏”だった

母親はイギリス人、父親は日本人、ともに数学の研究者です。日本では「普通」という概念がわりと強力で、人から「普通の人」って言われると安心するところがありますよね。親も子どもに「普通の子のようにしなさい」と言うし、子どもも思春期ぐらいになると「自分は他の子と違うんじゃないか」って心配になる。

でも、私はハーフなので、そもそも普通になりたいと思っても、それが日本だと初めから無理だったんですよね。学校は小学校は日本の公立、中学からインターナショナルスクールに移りますが、日本の保育園や小学校ではなかなか周囲に馴染めなくて、最初の頃は虐められたり、孤立していたりしました。「私はこの社会とどうやって対峙すればいいんだろう」と、幼いながらも葛藤していました。

インターナショナルスクールではサッカー部所属で、髪の毛は角刈り。得意科目は数学や物理で、これはよくできたけれど、スクールカーストの中では最下層。放課後にはアート室にこもって不気味な絵を描いていました。いわゆる思春期こじらせ女子ですね。

スプツニ子!さん

そんな頃に出会ったのが、iMacでした。子どもの頃から家の中にコンピュータはあったけど、自分用に買ってもらったのは、たしか中学一年生の誕生日。ジョナサン・アイブがインダストリアル・デザインを担当したボンダイブルーの初代iMac。

大好きなマシンだったので、名前もつけていて、Text to Speechで喋らせて会話をするぐらい、惚れ込んでいました。iMacが私の最初の彼氏、いま思い出しても泣きそうです(笑)。まだ実家に帰れば置いてあるんじゃないかなあ。

Macでプログラミングできる、ネットも繋がる、ネットがつながったらいろいろな友達ができて、もう寝られない。徹夜で私はインターネットと向き合いました。あの感動を思春期に体験できた自分は本当に幸運だったなと思います。

その後私は、高校を1年飛び級して、英国の理系大学のインペリアル・カレッジに進学します。2006年に数学とコンピューターサイエンス両学部を卒業し、ロンドンではプログラミングや作詞作曲などの音楽活動をしたのち、2010年に英国王立芸術学院(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート=RCA)修士課程を修了、というのが私の25歳までの略歴です。

ロンドンで、スペキュラティブデザインの洗礼を受ける

ロンドンでは、インペリアル・カレッジを卒業した後は2年くらいフリーランスのデザイン系プログラマとして活動していました。ロンドンでの生活は楽しかったですよ。プログラミングに限っていうと、中学時代はBASIC、VisualBasic、そこからC++、Javaなど一通りやって、Flashを使うためにActionScriptも覚えました。

2006年から2008年の2年間は、ActionScriptでの開発の仕事を請け負って、それで生計を立てていた時期もあるんです。当時ActionScriptが書けると1日300ポンドもらえて、当時1ポンド250円ぐらいだから、21歳にして日給7万円で年収2000万円近くあって、その年齢の女の子には大金でしたね。

ActionScriptって、需要の割に私みたいな理系大出身のプログラマが少なかったんです。だからすぐにロンドン中の広告代理店からエンジニアとして呼ばれるようになりました。

週末に「これを緊急で直して」って呼ばれて、それをバッと直して1日1000ポンドという仕事もありました。それで天狗になっていたんです。「わたしActionScriptで稼げる!」ってね。でも、そんなはずあるわけない。今、エンジニアの人たちに、ActionScriptの話をすると笑い話ですから。「ああ、そういうの、昔あったねー」みたいな(笑)。

スプツニ子!さん

私も「ActionScriptはいずれ消えゆくプログラミング言語、これだけやってては行き詰まるから、常にアンテナを張ってなければいけないな」と思っていました。

それで、もっと成長しないといけないと思って、23歳のとき英国王立芸術学院(RCA)に行くことにしたんです。理系の両親に「なぜ美大の修士に?」と反対されましたが、自分でプログラミングの仕事でお金を工面して入学しました。

RCAは修士号と博士号だけを授与する美術系大学院大学としては世界で唯一の学校。そこで、クリティカルデザインやスペキュラティブデザインの洗礼を受けることになります。

スペキュラティブデザインというのは、「未来はこうあるべきだ」と提唱するのではなく、「未来はこうもありえるのではないか」と問題を提起するデザインの方法論です。問題提起は日本語だとちょっと怒ってるみたいなので、私は日本では「問いを立てるデザイン」と呼んでいます。

デザインにもいろいろなデザインがあって、ビジネスとして売れるもの、便利なもの、かっこいいものをデザインするというのが、多くの人が考えるデザインのイメージ。実際仕事としてはそういうのがほとんどです。

しかし、スペキュラティブデザインが目指しているのは、デザイナーは消費社会とか資本主義社会に取り込まれず、そこから出て人間の在り方や社会について、デザインを通して問いを立てて、議論を促していくべきということなんです。

建築の世界にも「アンビルド建築」というものがあります。実際にそれが建てられるということは目指さず、既存の建築やそれを取り巻く制度に対する批評あるいは刺激剤として構想される建築ですね。スペキュラティブデザインも、そういう流れの一つです。

「効率的・合理的じゃないけど存在する」アートの世界への憧れ

たしかに大学までは数学と物理が好きだったから、サイエンティストやテクノロジストになる道もあったけど、今はアーティストとして活動してます。ただ、自分で肩書きをつけちゃうのはあまり好きじゃありません。テクノロジーもサイエンスもアートも、パラレルで接しているつもりです。

それでも思春期の私がエンジニアではなく、アーティスト的な仕事に惹かれたのは、テクノロジーそのものより、テクノロジーが人の価値観や生き方、文化、社会のシステムにどのような影響を与えるのかというところに興味があったからだと思います。

つまり、人に興味があったんですね。アートには、人間の本質を問いかける側面がありますから。

スプツニ子!さん

もう一つ理由があって、私は答えがわからないものにすごく惹かれるんです。答えがわからないからこそ、自分で考えたり、見出さなければいけない。

ところが、高校時代の数学や物理って明らかな答えがあるので、退屈しちゃうんですよ。本当の数学や物理はもちろん未知だらけで退屈しないですけど、少なくとも高校は退屈だったので、サボって美術館に行くようになりました。

美術館に行くと、よく分からないものや意味が分からないものにあふれているじゃないですか。それがすごく刺激的だった。基本的に資本主義社会は、データに基づいて合理性、効率性によって動こうとするところがありますけど、それでも人間が生きていく上では、芸術という、ある種の豊かな無駄や余白というのが大事だという思いもありました。

「合理的じゃないけど存在する」とか、「意味がなくても気になってしまう」とか、そういった説明しきれない部分が芸術にはあります。

現代の人間がここまで効率性や合理性を信奉して生きているにも関わらず、芸術は古代から現代まで脈々と続いて途絶えることがない。そこに人間らしさを感じるというか、事象としてすごく興味深いんです。

私はプログラミングができますが、技術開発することより、テクノロジーを使った人々、それに触れていく人々が、どのように生き方やモノの見方を変え、文化を創造していくのか、というところに関心がありました。

例えば印刷技術、あれもテクノロジーですよね。あれが開発されたことによって、書物が生まれ、人々は知識を共有、保存できるようになった。テクノロジーには文明そのものを生みだし、推進する力があります。

最近は印刷に匹敵する文化革新としてインターネットや人工知能が出てきましたね。とりわけ、ネットを介して人々が繋がると文明の進化のスピードが指数関数的に上がるように思います。

これからさらに人工知能が進化すると、人間とAIが一緒になって文明を進めていくようになる。アーティストとして、本当に面白い時代に生まれたなと思っています。